【閑話1】 女性騎士サナの恋愛事情
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土曜日ですが投稿します。
「ふぅ!」
「ふぅ!」
「ふぅ!」
青年が床に座りゆっくりと一回一回息を吐きながら上体起こしをしている。
「ふわぁ……。ヨハン。おはよぉ。何してるんだぁ?」
ケイルはベッドの上で大あくびをしながゴロリと横向きになった。
「ふぅ!」
「ふぅ!」
「ふぅ!」
「見ればわかるだろう。鍛錬だ」
「急にどうした?」
「………………お前は……いいけどさ」
「なっ! なんだよっ?」
呆れられたと察したケイルは苛立ちあらわに起き上がる。
「俺は昨日のことが悔しい……」
「確かにな。でもさぁ、副小隊長が役職賭けちゃうくらい勝ちの可能性がない勝負だったんだぜ?」
「そうだけど……。俺は蹴りを一発入れることも最後まで立っていることもできなかった。
それにサナねぇさんのパンチも見えなかった」
話している間もヨハンは腹筋鍛錬を続けている。
「俺もリタねぇさんに秒殺されたけど……。
あの速さだぜ。見えないのはしょうがないじゃん?」
「見えないならせめて倒れずに耐えたい」
「で、それか?」
「とりあえずな。今日サナねぇさんに聞きに行く」
「何を?」
話の展開にケイルは驚いていた。
ヨハンは斜めの状態でピタリと止まった。
「…………わからないけど……話をしたいんだ」
「は?」
ヨハンが再び腹筋鍛錬を開始する。
「とにかく! お会いしてみないとわからないよっ!」
「なんだそれ?」
ケイルは首を傾げていた。
だが、エーティルの側近護衛をしているサナは忙しくてヨハンはなかなか約束を取り付けられなかった。
その間にも腹筋鍛錬は続けていて朝の三十分で三百回だったが五百回はできるようになっていた。
そんなある日、王城内の見回り警護の最中にサナの背中を見つけた。
「サナさんっ!」
王城で周囲の目があるときには『さん』付けである。
振り返ったサナは本を沢山抱えていた。
「俺が持ちます」
「いいわ。軽いから」
サナは軽いと言うが一般女性が持つ量ではない。
「女性に荷物を持たせて脇を歩くのは騎士として恥ずかしいです」
「なら私から離れたらいいじゃないの。私より弱い護衛は私には必要ないわ」
「グッ……。でもっ! 俺はサナさんの脇を歩きたいのです」
「ワガママね」
『バサリ』
サナはまるで紙一束を渡すように軽々とヨハンに預けた。
「あぶなっ!」
落としそうになるヨハンはよろける。
「エーティル様がご所望の本なの。落としたら殺るわよ」
「落としませんっ!」
サナが歩きだすとヨハンも懸命に歩く。
「サナさんは足も速いのですね」
「足も?」
「パンチが速くてカッコいいです!」
「そう?」
「はいっ!」
二人の後ろ姿をケイルはあ然と見送った。
「ヨぉハぁン。俺と変わってやるからお前の休憩時間は繰り上げだぞう」
ケイルはくるりと背中を向けた。親友の喜びを隠せていない足取りにケイルも笑顔になっていた。
ヨハンはサナの脇を必死にキープしている。
「サナさんは普段どちらで鍛錬をされているのですか?」
「基本的には勤務中よ。エーティル様にもご理解いただいているわ」
「どのように?」
「そうね。例えば警護中は膝を曲げて立っていれば足腰の鍛錬にもなるしいざというときに瞬発的に動けるわ」
「すごいですね」
「それにほら」
サナが手のひらを開くと革製のボールが出てきた。
「うわっ! いつの間に!」
「貴方に本を預けたからポケットから出したの。これを握ることを繰り返すと握力にも腕の鍛錬にもなるわ」
「サナさんは素敵です!」
サナは何も返事をせず暫くするとエーティルの執務室の前になった。
「ここでいいわ。これあげる」
サナはヨハンの襟にボールを二つ入れた。薄い甲冑を着けているので腹まで落ちたりはしない。
「腹筋もいいけどスクワットも入れた方がいいわよ」
ヨハンから本を受け取る。ヨハンは腹筋を自主トレーニングしていることをケイルにも他言禁止にしていたので驚いて固まった。
「じゃあね」
サナはすぐに背中を向けた。
「ヨハン。ありがとう」
「え! 俺の名前……」
裁判室でカティドに指名された時に呼ばれただけであり、ヨハンはサナがヨハンの名前を知っているとは思っていなかった。
サナのために扉前の護衛が扉を開け執務室へ消えた。
呆然とするヨハンに護衛がガッツポーズをする。心を見透かされたようで顔を赤くして踵を返した。
サナは本をエーティルの脇に置き窓際の護衛につく。普通のメイドなら入口近くの壁際に立ち仕事を申し付けられればすぐに動けるようにするのだが二人は護衛騎士メイドなので窓からの侵入者に備えるための立ち位置だ。
「あら? サナ。何かいいことがあったの?」
「はい?」
「なんとなく笑顔っぽいから」
エーティルの言葉に隣にいたリタがサナの顔を覗き込む。
「本当だ。口が上がってる」
「ふ、普通ですっ!」
「怪しい……」
リタがサナの頬に手を伸ばそうとするのを高速で叩き落とした。
「いったぁ!!」
「うふふ。リタ。今は止めておきなさいな。馬に蹴られたくないでしょう?」
「っ!!」
「はい?」
ニコニコ笑うエーティルにサナは目を見開きリタは目を瞬かせていた。
当然翌朝からの自主トレーニングにスクワットが追加された。最近ではヨハンに啓発されてケイルも部屋での鍛錬に付き合っている。革ボールはカティドに相談するとケイルの分を作ってくれた。腹筋鍛錬でもスクワットでもそれを握りながらやっている。
そうした日常の夕方、鍛錬場を見下ろせる廊下に休憩時間であるサナがいた。
「あの模擬戦から随分と上半身は大きくなったわね。暫くすればスクワットの効果も出てくるでしょう」
走り込みをするヨハンとケイルには逆光でサナの姿は見えていない。
「たまには鍛錬に付き合ってあげようかしら」
そんな笑顔のサナは誰にも見られることはないのであった。
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