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1 プロローグ

 朗らかな春の日差しが差し込む王城の庭園にピンク色の髪をふわふわとさせてはしゃぐ少女がいる。 


 優雅に真っ白なガーデンテーブルセットの椅子に座りそれを嬉しそうに見つめる青年は体躯がよく見るからに鍛えていそうな胸板でおまけに大変な美形である。

 青年の後ろにはなんとなくニヤけた雰囲気の青年二人が立っていた。


 王城の庭園は貴族なら誰でも利用できるようになっている。池を囲むようによく手入れされた木々や花たちが季節を物語るように植えられておりなかなか有名なデートスポットだ。そこここにガーデンテーブルやらベンチやら四阿やらも設置されているため持参ランチを楽しむ者たちもいる。


 ただし、誰でも利用できるということは誰かしらの目があるということなのでデートスポットではあるが堂々と見せられる婚約関係であったり恋人関係であったりする者同士でないと使うことはない。

 家族や友人と利用する者がほとんどである。


 そこから少し離れた外廊下を三人のドレスを着たご令嬢たちが通りかかり何となく足を止めた。


「あんなところでまた騒いでいるなど淑女として恥ずかしくはないのでしょうか?」


「殿下も何も注意なさいませんのね」


「あれではエーティル様からの心象は悪くなる一方だとお考えにはならないのかしら?

それともご正式な恋人なのかしら?」


「殿下のお立場でご正式な恋人がいらっしゃっては問題ではございませんか?」


「許されることなわけはございませんわよ」


「ということは? 今だけということなのかもしれませんわね」


「そうでしょうね。ピンクの方ご本人がそれを理解していらっしゃればよろしいですけど」


 ご令嬢たちは小首を傾げた。


「あの殿下の後ろにいらっしゃる殿方は何ですの?」


「あの位置にお立ちなのですから殿下のご側近の方々なのではなくて?」


「殿下にご注意申し上げていらっしゃらないご様子ですもの、ご側近ではなく護衛の方ではないのかしら?」


「きっとそうですわね。ご側近でいらっしゃればあれは間違いなくご注意なさらなければならない事柄ですもの」


「それに殿下のご側近の殿方は四名ほどではございませんでしたか?」


「あのお二人がご側近かどうかは存じ上げませんが、四名のうちのお二人はご側近をお辞めになって王城の高官をなさっているそうですわ。わたくしの兄の同僚になられたそうでお仕事の大変できる優秀な方だと兄が申しておりましたわ」


「まあ! それは貴女のお兄様が貴女にオススメなさっているのではなくて?」


「わたくしたちもそろそろ本格的に婚約者探しをしなくてはなりませんもの。貴女のお兄様がお気をお利かせになったのかもしれませんわね」


「お二人もご婚約者様がいらっしゃいませんでしたわね? わたくしの兄にお茶会を催してもらいます?」


「それは素敵なご提案ですわぁ!」

「いいですわねぇ!」


「うふふ」「ふふふ」


 ご令嬢たちは興味の対象ははしゃぐピンク頭から優秀な高官になったのでその場を立ち去った。


 しばらくして二人の青年が通りかかった。


「あいつら……」


 青年の一人が拳をグッと握りしめて奥歯を噛む。


「おい。諦めろ。私達に殿下へご注意申し上げる権利はもうないのだぞ」


 もう一人の青年が肩に手をかけて落ち着かせようとするが本人の拳も握られて震えている。


「わかっている。なぜ我々ではなくあいつらを残したのだ? 殿下のお気持ちが理解できん」


「殿下はずっと我らのご忠告を疎んじていたのかもしれない」


「だが、一年ほど前まではそのような方ではなかったではないかっ! あいつらに苦言を呈していたほどの方だぞ。俺たちにも何でも言えと仰っていたじゃないかっ!」


「確かにな。だが、今は言っても詮無きことだ」


 二人は肩を落として王城内へと戻っていく。


 こうして殿下と呼ばれた青年と青年に侍るピンク頭の少女とそれをニヤニヤと見つめる青年二人の悪い噂が広まっていった。

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