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盲目少女と色付く世界

作者: 赤髪命

 私は、世界がどれほど美しいかを知らない。というか、知ることができないという表現の方が正しい気がする。確かめたくても、確かめようがないのだ。

 私は目が見えない。小学五年生の時、私は病気で両目の視力を失った。そして、中学生になった今でも、私の目は見えないままだ。

 私が視力を失った頃、両親は私を特別支援学校に転入させようとした。今では、それが私の将来をあまり考えていない、盲愛的な行動だったと思う。でも、当時の私は、心のどこかでそれが正しいと思ってしまっていた。

 でも、私の友達はそれを強く拒んだ。そして、私の両親を説得し、それ以来、私が普通の女の子と同じように学校生活を送れるように、手助けをしてくれるようになった。

 初めは、誰かの腕に掴まったり、一人でいる時には白杖を使って歩いたりすることがとても恥ずかしかった。でも、周りの子がとても親切に接してくれたおかげで、段々と、恥ずかしいと思っていたことが、少し誇らしいことだと思えるようになった。

 そんなことを考えていると、帰りのSTの終わりを告げるチャイムが鳴った。急いで帰りの支度を済ませて帰ろうとすると、

「ねえ、侑さん」

と隣から声がした。確か隣の席に座っているのは杉山君のはずだ。小学校が違うから、これまでは授業の時以外、全く話したことはなかった。

「えっ、な、なんですか」

 男の子に話しかけられるのは何年振りかというくらいで、私はつい慌てた口調になってしまう。

「いや、驚かすつもりはなかったんだけど、その杖、普段から使ってるのかなって」

 そう聞かれて、私は急に緊張してしまう。

「うん、実は……」

 とだけ言って黙ってしまう私を見て、杉山君は何かを察したみたいで、

「話したくないなら、無理に話さなくてもいいよ」

と、優しく言ってくれる。でも、話しておいた方がいいと思った私は、

「実は私、目が見えなくって、誰かが付き添ってくれるときは、この杖は使わないけど、一人でいるときは、この杖を使わないと、段差とかが分からなくて。でも、杖を使うのも、もう慣れてるから……」

と杉山君に言った。それから、だから気にしないでと言おうと思っていたのに、杉山君から返ってきたのは、意外な言葉だった。

「それなら、学校にいる間は、僕のことを頼りなよ」

 そう言われて、私の顔が途端に熱くなっていくのがわかった。

「で、でも……、腕に掴まるのは……」

 目が見えないからって、男の子の腕に掴まっているのは、周りから誤解されるかもしれない……。そう思っていると、

「恥ずかしいなら、手を繋げばいいよ」

と杉山君が言ってくれた。

 それくらいなら、きっと周りから大きな誤解をされることはないよね。そう思いながら、私は杉山君と手を繋いで、一緒に教室を出た。

 数日後、私は幼馴染みの加奈と一緒に登校していた。

「侑ってさ、もしかして、杉山君と付き合ってるの?」

「えっ、違うよ」

「でも、学校でいつも一緒にいるじゃん」

「そ、それは……」

 急に言葉が出てこなくなった。一緒にいるけれど、付き合ってる訳じゃない。そう言えばよかったのに、どうしてか、その言葉を発することはできなかった。

 もしかして私、杉山君のこと、好きになったのかな……。そう思いながら、私は教室に入った。

「ねえ、侑さん」

 急に名前を呼ばれた。この間と同じ言葉、でも、その冷たい口調がで、杉山君じゃないことはすぐに分かった。

「なんで侑さん、最近いつも杉山君と一緒にいるの?」

「そ、それは……」

「もしかして侑さん、杉山君と付き合ってる訳?」

「そ、そういう訳じゃ……」

「じゃあどうして、杉山君は侑さんと一緒にいる時、あんなに楽しそうなの?付き合ってないなら、あんなに楽しそうにするはずがないでしょ?」

「そ、それは……」

「なんでいつも杖をついてる老人みたいな子が杉山君と付き合える訳?」

「だから、そんなこと……」

「あなたさえいなければ、私が杉山君と付き合ってるはずだったのに!」

 その途端、私の持っていた白杖が弾かれ、床に転がる。

「あなたみたいな障がい者が、この学校に来なければよかったのよ!」

 私の体が強く押し倒される。私はそのまま床に座り込んで、泣きそうになる。

 あの時、両親の言う通りに、特別支援学校に行っていれば、こんな事にはならなかったのに……

 誰か、助けて……。

 その途端、私の後ろのドアが開いて、聞き覚えのある優しい声で、

「大丈夫?」

 と言いながら、姿の見えない誰かが、私の手を取ってくれる。この声はきっと杉山君だ。それから杉山君は、

「お前等、侑さんに何してた訳?」

 と言い放った。その声は、普段私と一緒にいる時の優しい声からは想像もできないくらい、怒りに満ちている声だった。

「侑さんが杖をついてるのは、目が見えなくて周りの状態がわからないからだし、俺といつも一緒にいるのも、俺が侑さんの杖の代わりになってあげてるだけで、別に付き合ってる訳じゃないから。でも、お前とは付き合えない。他の人をいじめる奴とは、俺は付き合いたくないから」

 そんな風に杉山君が私のことをかばってくれている間、何故か私はドキドキしてしまっていた。

 あれ、もしかして私、杉山君のこと、好きなのかも……。

 その日以来、私に嫉妬していた女の子が私に関わってくることはなかった。 でも、私は杉山君に告白するべきかどうかで、とても悩んでいた。

 それから数日後、学校が終わって、校門の前で杉山君といつものように別れ、一人で帰ろうとすると、

「今日、一緒に帰らない?」

と杉山君が聞いてきた。

「えっ、でも、杉山君って家、反対側だったよね?」

「あれ、侑さんにはまだ言ってなかったっけ。実は、僕、一軒家に引っ越したんだ。だから、これからは一緒に登下校できるよ」

 杉山君はそう言うと、私の手を握って歩き始めた。私は、杉山君と一緒に帰れるのが、すごく嬉しかった。

 五分くらい歩いたところで、私は杉山君にどうしても聞きたかったことを聞くことにした。

「ねえ、杉山君」

「どうかした?侑さん」

「この前、杉山君、私のこと、助けてくれたよね。でも、どうして私のこと、助けてくれたの?」

 あの時、私と、いじめてきた子たち以外にも何人か、教室にいたはずだ。でも、誰も私を助けようとはしてくれなかった。それなのに杉山君は、私のことを助けてくれた。だから、聞いてみたいと思った。

「実は、僕の弟、耳が聞こえないんだ。だから、同じように目が見えない侑さんがいじめられてるのを見てたら、助けなきゃって思った。障がいを持っている人が悪く言われてるのが、許せなくって」

 そうだったんだ。私が目が見えないことを杉山君に打ち明けたとき、あんな風に優しく接してくれたのも、いじめられた時に助けてくれたのも、全部、私の目が見えないから、杉山君は優しく接してくれたんだ。

 そんなことを考えていると、杉山君が私に、家に着いたことを教えてくれた。杉山君と別れて、家に入る時、杉山君は、

「また明日」

と言ってくれた。

 それから数日の間、毎日杉山君と一緒に登下校しているうちに、家に着いた時に、少し寂しくなってしまうようになった。もっと杉山君と一緒にいたい。もっと話していたい。そう思いながらも、私は杉山君になかなか告白できずにいた。

 そうしているうちに、夏休み前日になってしまった。もしかしたら、しばらく杉山君とは会えなくなってしまうかもしれない。だから私は、今日、告白することにした。

 放課後、教室には私と杉山君、二人きりになった。私から言わないといけないと分かっているのに、いざ言おうとすると、急に恥ずかしくなって、緊張してしまう。

 でも、勇気を出して言うと決めていたんだから、私の思いを伝えなきゃ。

「この間、私のことを助けてくれたときから、私、杉山君のことが、すごく好きにな

って…、だから、私と、付き合って、くれませんか?」

 やっと伝えられた。私の、素直な気持ち。

「こんな僕で良ければ、これからもよろしく」

 うう……、「こんな僕で」なんて、杉山君、ずるいよ……。だって、私のことを助けてくれて、いつも私に優しくしてくれて、私にとっては、杉山君よりいい人なんていないよ。

「これからもよろしくね。杉山君」

 杉山君のおかげで、私の白と黒だけだった世界は、カラフルに変わった。

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