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巫女修行の朝は早い。東から日が昇るよりも先に、わたしは起こされる。当時は、よく姉様に起こされていた。
「ねむい……」
「ほーら。起きて」
身体を起こす。今にも、くっつきそうな瞼を擦った。さっきまで寝ていた布団を名残惜しく見つめる。もう少しだけ……。
わたしは、布団に戻る。
「こら……!」
姉様に、布団を取り上げられ、わたしは、ころころと床に転がった。何が悲しくて、朝四時に起こされないといけないのか。仰向けの状態で、わたしは、そう思っていた。
外に出て、新鮮な空気を肺胞いっぱいに取り込む。空気が澄んでいて、とても、おいしい。
後ろを振り返ると、大きな神社が見える。ここが、わたしの家、『神白神社』である。
この古い神社にも、賽銭箱らしきものが置いてある。つい、いつもの癖で、中を覗いてしまうのだが。いつ見ても、中身が入っていないのは、なぜだろう……。
信仰心が欠けているのか、うちの将来に、不安を覚える。
境内の蔵の中には、たくさんの古い書物が保管されていた。どれも歴史を感じさせれられるものばかりで、中には、『危』の烙印が押されたものもある。これは、禁書と呼ばれる類のもので、人の目に触れてはいけないとされる、危険な知識のことを表していた。わたしは、蔵に忍び込み、よく禁書などを読みあさっていた。(このことがバレたら、わたしは大目玉を食うので、ここだけの内緒にしておいてほしい)
蔵は、わたしにとって、秘密の遊び場だった。そこで、多くの歴史について、学ぶことができた。
読めば読むほど、興味深い内容で、まるでSF小説を読んでいるかのような気分になる。この地は、昔、『東京』と呼ばれていた。そこには、多くの人が集まり、高度な通信手段を持った、機械文明を築き上げていたようだ。この時代には、沢山の人を乗せて走る『車』と呼ばれるものから、空を飛ぶ『飛行機』などという、今では信じられないものまで、存在していたらしい。
この時代には、魔法と呼ばれるものが、あまり認知されていなかったらしく、書物に出てくる言葉の中では、魔法という表記ではなく、『PK―psychokinesis(念力)』と置き換えられていた。それも、今ほど、発展してなかったように思われる。
古い書物の中には、こんなことが書かれていた。
旧・日本の歴史の中では、巫女は、みな、清楚な心の持ち主だと、思われていたようだが、それは大きな間違いだと、ここでいっておきたい。少なくとも、わたしは、こんな古い神社より、綺麗な家に住みたいし、美味しいものをいっぱい食べたい。白米を口の中いっぱいに頬張るのが、わたしの夢なのだ。
その野望の一歩として、こうして毎日、かかさず、賽銭箱を覗いているが……。あまり期待は持てないようだ。
「こら! また、賽銭箱の中なんか覗いて」
はっと、顔を上げる。見られていたようだ。わたしは、前から思ってたことを、姉様に訊いた。
「ねえ……。姉様。うちって、貧乏なの?」
「そ、それは……」
姉様は、すうっと、視線を右に逸らした。
どうやら、痛いところを突いてしまったようだ。
ここまで読んでくれたあなたに感謝します。