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第7話 一月前の色北町


一月前の満月の夜、静寂が色北町に広がっていた。月明かりが淡く街を照らし、タクシーのライトが道をぼんやりと映し出していた。冷たい風が窓を揺らし、静寂が包んでいる。


「いやー、今日は遅くまで買い物しましたねぇー。いつもより一時間程遅いですよ。何を買ってたんですか?」


またしても、この男はしつこく話しかけてくる。うんざりするほどに・・・


いっそ殺してしまおうか・・・そんな考えが頭をよぎり、銃に手を伸ばすが、運転手の背中に鋭い感覚が働いたのか、急に黙り込んだ。


「(これだ、これが厄介なんだ)」


うるさいくせに勘だけはやけに鋭い。


本当に鬱陶しい、そう思いながら窓から覗く景色をアザートが見ていると、男が運転する一台の車とすれ違った。


運転手は話すのに夢中になって気づいていない。


方向から察するにあの街に来ていた者・・・そうアザートは推測する。


「(まぁ、心霊好きの何かだろう、それよりもこの男やはり殺そうか)」


──────

────

──


殺そうか、殺さないか考えている内に、色北町に到着した。


「(さっさと帰るか)」


そう考えながら、無言でタクシーから降りて、いつものように振り向かずに歩き始めた、その時・・・


「ギャーーー!!!」


運転手の叫び声が静寂を破り、闇夜に響き渡った。その声は恐怖に満ちており、まるで魂が引き裂かれるかのような叫びだった。


振り向くと、白いが所々赤黒くなっているワンピースを着た人・・・いや、半分異形化してしまっている女が運転手を襲っている。


また、アイツらの誰かが異形化したのか・・・


そう思いながら銃を取り出し、殺そうとする────


─────違う、アイツらじゃない。


アイツらはこんな白いワンピースなんか着ていない。


「(ん?・・・じゃあコイツ誰だ?)」


とりあえず、アザートは女に向かって威嚇射撃を・・・女がこちらに気が付いたようだ。


「イッイイイイヤダァァァァァ、死ニタクナイ・・・死ニタクナイ・・許サナイ」


うわごとみたいに言いながら襲いかかってくる。


「(何かワケがありそうだな)」


そう思いながら女の攻撃を避け、後ろに回り込み、頭を殴って気絶させた。


──────

────

──


数分後、女は目を覚ますや否や取り乱した。


「イヤダァァァァァ、死ニタクナイ死ニタクナイ死ニタクナイ死ニタクナイ」


「黙れ、俺は別に貴様を傷つける気は毛頭無い。だが、これ以上騒ぐものなら・・俺が貴様を殺す」


女は身の危険を感じたのか黙った。


「いいだろう。で、何があったんだ一体?」


理由を女から聞いた。


曰く・・・


彼氏に連れられ、この町にやって来た。


だが、女は今日その男と別れようとしたらしい。


が、それを彼氏が気づいていたらしく、男が・・・


「オレのモノにならないなら死ね」


隠し持っていた包丁で脅して来た。


逃げようと必死になって走ったが、遂に捕まってしまった。


そして、何度も包丁で刺された。


まずは、逃げられないように足を刺された。次に、手首、腹、胸、太もも・・・その度に冷たい刃が肌に食い込み、鋭い痛みが全身を襲った。血が床に広がり、息が詰まるような苦しさが続いた。


何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も─────


しかし、痛みは出るも死なない。


「助け────」


「なーんちゃって、全部演技でしたー」


男の声が冷たく響き、その言葉に血の気が引いた。彼の顔には狂気の笑みが浮かび、恐怖が胸を締め付けた。


「お前みたいな女の為にオレが狂う訳ねぇーだろ。一回人殺してみたかったんだよね。あと、お前がオレを振ろうだなんて百年早ぇーんだよ。痛いだろ、簡単に死なない所刺したんだからな。ゆっくり死んで、来世で出直してこい」


そう言われ、気づいたら異形化していたらしい。


─────

────

──


「なんですか!そのクソ野郎。旦那、早く警察に電話しましょう」


「うるさいぞ貴様、何故まだここにいる?とっとと失せろ」


「いやー、私も一応関係者ですから。それにしても、幽霊って本当にいるんですね」


「幽霊では無い」


「じゃあ何なんですか?」


「ちょっと黙ってろ。話が進まん」


本当に殺してやろうか


「アッアノ・・・ケッ警察ハ・・ダメデス。アイツ・・警察ニエライ人ノ親類ガイルラシイカラ・・・ソレニ、私自身ガ・・殺シタイ」


「それは、ちょっと「無理な話だな。法を犯すから無理という訳ではない。法などどうでもいい」


その言葉に運転手がその言葉に反応する。


「ちょっと旦那、今の言葉は「貴様は黙ってろ。物理的に無理だと言っている。貴様には異形の素質がない訳だ。素質無いモノは、すぐに自我を失う。貴様も持って後数分だろう」


「ジッジッジャア・・私ハ・・コノママ自分ジャナクナルノヲ・・・黙ッテ見テロッテコトデスカ。ソンナノ・・・ソンナノ」


「旦那、私達に出来る事ないんですか?このままじゃ不憫過ぎます」


「・・・・・・いいだろう、俺がその男殺してやろう。お前も今の人間の心のまま殺してやる」


「ちょっ、旦那何言って「ソンナ・・・コト頼ンデ・・・イインデスカ?」


女の声が少し高くなった。


「ああ、俺が殺してやる、だから此処で安心して死ね」


「アリガトウ、アリガトウ。コレマデの人生・・・決シテ幸セダト言エナカッタケド・・・最期ニ貴方ノヨウナ会エテ・・ヨカッタ」


涙が頬を伝い、彼女の声は掠れていたが、その目には安堵の色が浮かんでいた。


そして、手に持っている装飾銃で女を撃った。銃声が静寂を切り裂き、彼女の体が一瞬で力を失い、地面に崩れ落ちた。


その時の女の顔は、異形化が進んでいたが・・・その目には穏やかな光が宿っていた。涙が頬を伝い、微笑みを浮かべながら、彼女は静かに息を引き取った。


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