第25話 その気持ちは、正か悪か
アザートとヨグが報告を異形者の受け、アジトを留守にしている間、2人の人間がアジトに訪れた。
「ほーう、ここに依頼するために来たと・・・それはご足労かけたニャ」
「いえいえ、かの有名な国境騎士団の方にお会いする為ならばこれくらいわけないですよ」
見た目40代の女性が微笑みながら答えた。
その隣には青年がいる。
「御二方は親子・・・ってかんじかニャ?」
私がそう聞くと、青年は・・・
「いえいえ、親子ではありませんよ」
と、否定したが、
「まあ、まだなんですけどね。実は来月結婚するんですよ、うちの娘と」
女性が青年の話に付け足した。
「それはおめでたい話だニャ。おめでとう」
「いえいえ」
青年は私の言葉に照れながら言った。
「さて、そんな御二方がはるばるカナダから何用かニャ?」
そう聞くと、急に2人の空気が重くなり始めた。
あれ?もしかして聞いちゃいけないことだったかニャ?
そんなことを考えていると、
「はい・・・実はニャルラさんに依頼があって・・・その依頼は私の娘・・・ラミアを守ってほしいということなんです」
と、女性は重々しい口調で話し出した。
「守ってほしい?誰から?」
そう聞くと、
「自分達の村には代々言い伝えられてきたんです・・・村に天使様がいると・・・」
青年はそう言い、語りだした。
青年曰く、自分達の村は代々天使様というモノに守られてきたらしい。
村の外敵や伝染病、自然災害や農業などなど・・・
村の全員が信じており、この目で天使様を見たという人も少なくないんだとか。
その天使様に守っていただくには3ヶ月に一度村の奥にある森に村人を生贄に差し出さなければならない。
生贄対象は天使様直々のお告げにより決定する。
そして、今度の生贄が自分の恋人のラミアとお告げが出た。
自分の家族、友人は名誉あることだと言って崇めてはいるが、自分とラミアの母親だけは納得ができなかった。
ラミアを逃がすことも考えたが、以前生贄を逃がす所を天使様に見つかり村に大災害があったということもあり、できない。
僕は大切な人も守れない無力な奴だ・・・と自分を責め、
そんな絶望の日々をおくっていた時、ネットで私達のこと知ったらしい。
「────そんな訳で、私達にラミアちゃんを守る為にその天使様と闘って欲しいというわけかニャ」
「闘うまではしなくていいです。天使様に娘だけは・・・ラミアだけはどうか勘弁してくださいと説得するだけでいいんです。お願いします」
「お願いします」
女性と青年が頭を下げて言ってきた。
「う~ん、でも・・それって自分達だけズルくないかニャ?他の村人達はそんなことしちゃいないんだろう?」
私はあえて彼らの嫌がるところを突いた。
そう、これは言ってみれば卑怯な手、村の出来事に他人が突っ込み助けるのだ。
なにも彼らだけが思っていることでは無いはずだ。
そんなことをすれば、それ以前の生贄達も黙ってはいないはずだ。
誰も好き好んで生贄になりたい奴なんてこの世にはいない。
しかし、私の話を聞いた後でも母親と青年達の目には迷いがなかった。
「はい、これは私達の我儘です。何を思われようと構いません。でも・・・でも、大切な人を守りたいという気持ち・・・娘を守りたいという母親の気持ちは悪いことなのでしょうか?いや、悪いワケがない。お願いします、ラミアを助けてやってください」
青年はもう一度深々と頭を下げた。
「勿論、成功報酬も差し上げますので・・・どうか」
母親の方も頭を下げた。
「・・・・・・お金?」
「はい、今は前金として1万ドルほどかき集めました。ラミアを助けていただけたらもう5万ドル差し上げます。どうか・・・どうか、ラミアを助けてください」
──────
────
──
「─────という青年と母親の熱い気持ちに心を動かされた私は快く依頼を引き受けたニャ」
「嘘をつくなお前。金で心が動いただろう。金が出てくるまで行く気ゼロだっただろう」
ニャルラの話に思わずツッコんでしまった。
俺達はカナダに着き、件の村へと続く山道を車で進んでいる。運転しているのはニャルラだ。
「ソッソソソソソンナコトナイヨ~」
ニャルラはあからさまに動揺している。
「まぁまぁまぁ、アザートさん。ニャルラさんにも守りたいって気持ちがあったと思いますよ・・・・・・まぁ、2%ぐらい」
「そうそう、ヨグ君の言う通りあったニャあったニャ・・・・・・っておい、2%ってなんだニャ!!もう少しあったニャ」
ニャルラがヨグの発言に怒った。
2%でもう少しって・・・過半数はなかったのか。
そう心の中で思っていると、前方に村が見え始めた。
ここが天使が出るっていう村か・・・
村の前で車を降りると、村の人々が集まってきた。
そして、村長的な者が、
「お主達は何しに来た?」
と、警戒している口調で問いただしてきた。
その周りには銃を持った村人が取り囲んでいる。
「えーと、私達は────」
ニャルラが説明をしようとした時、
「あっ!ニャルラさん達、来てくださったんですね」
と、男の声が聞こえてきた。
「あっ、青年。先日ぶりニャ」
ニャルラが男に挨拶を交わす。
なるほど、この男が例の依頼者の一人か・・・
「村長、この方々は先日自分とラミアの母の命を救っていただいた恩人なんです。お礼がしたくてこの村に呼んだのですが・・・だめだったでしょうか?」
青年が村長に言うと、
「真か、それならば巫女救ったも同然じゃ。恩人だというのに無礼な態度をとった。すまなかったな。おい、リーフしっかりおもてなすのだぞ」
村長がそう言うと他の者は頭を下げた。
「いや、こちらもアポなしできて悪かったニャ。じゃあ青年、家まで案内してもらおうかニャ?」
「はい、ニャルラさん、こちらです」
リーフと呼ばれる青年の後をついていこうとした時・・・
「─────ッ!」
何か見られているような感じだ。
動物には出せない人間特有の視線。場所は分からないが、確実に・・・
「ニャルラ、気づいたか?」
「うん、でも、今は無視ニャ。下手に反応するとコッチが気付いているのがばれるから」
なるほどな・・・こちらに気付かれている時点で大した奴ではないと判断しての無視
クックックックックッ、この村・・・何かありそうだ
次回投稿は木曜日です。
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