第2話 2階に行くな!
ニャルラ達が色北町に到着する20分前・・・2人の男達がこの町に着いた。
「チッ 、あの女も来ればよかったのに」
「まだ言ってるんですか先パイ。もういいじゃないですか」
金髪の男が苛立ちを隠せずに呟き、その隣で黒髪の男が困惑した表情を見せる。
一人は先パイと呼ばれる金髪の男、もう一人は黒髪の男・・・彼らはニャルラをナンパした人達だ。
闇の中で音が響くたびに、二人の緊張が高まるのが感じられた。
「─────で、ここ前に来たことあるんですよね?先パイ」
「ああ、この町に入ると行方不明になるって噂を聞いたからな。まっ、オレが今生きてるっつうことはデマだったというわけだけどな、わっはははは!」
「じゃあ、なんでまた来たんすか?」
「それはな、今回はこの町に住む男がいるって噂を耳にしてよ。そいつがどんな奴のか見に来たってわけさ。おそらくソイツが、変な噂を流したんだろうよ。ソイツ倒してオレがヒーローよ!」
まっ、本当の目的は違うけどな
「流石は警察庁長官の息子っすね、スゲーっす」
「お前はちゃんとカメラ回しとけよ」
オレ達2人は談笑しながら色北町を歩いていると・・・
ガサッ!
向こうのガレキから微かな音が聞こえた。
二人は瞬時に立ち止まり、冷たい汗が背中を流れた。周囲の静寂が一層音を鋭く感じさせた。
オレ達はすぐに音が聞こえた方向へ視線を向ける。
そこにはタクシーの運転手の服を着た男が立っていた。
恐らくアイツが犯人だろうな・・・
「ふん、見つけたぜ。お前がこの町にへんな噂を流したヤツだな」
「やっちゃって下さい、先パイ。先パイは柔道や空手とか習っているんだからな。抵抗しない方が身の為────」
が、後輩が言い終わる前に男は蹲った。
そして────
グチャッ・・・グチャッグチョ・・・グチャグチャグチャグチャーー-
グチャッ・・・グチャッグチョ・・・グチャグチャグチャグチャーー-
不気味な音が響く中、男の体が異形へと変貌していった。
首が不自然に伸び、体が膨れ上がり、手足が異様に長くなり、所々に内臓が見え隠れしている。
恐怖で足がすくんだ先パイは、声を失い、その場に立ちすくんだ。
「せせせせせせ先パイ!!こここここここれは何なんですか!?」
「ししししし知らねぇよ!!ここここんなの前来た時いなかったぞ!?とりあえず、逃げろっ!!」
そう言って、オレ達は全速力で逃げた。
が、バケモノは手足すべてを使ってオレ達を追いかけてきて、直ぐに追いつかれた。
「アアー!!ナナナナデーーーオレガクビクビクビクビニニニーーー」
バケモノの奇声が暗闇にこだまし、後輩の心臓がさらに強く鼓動する。異形者が手足を伸ばし、迫り来る。
何を言っているか分からん!!
いや、それ以上に不味い事にオレ達は二人は腰を抜かしてしまい動けそうにない。
ヤバい・・・バケモノが・・・
「「ああああああ!!」」
泣き叫ぶオレ達を無視し、バケモノの手が大きく振りかぶり首を落とそうとした・・・
瞬間─────
ドバァァーン!!!
けたたましい銃声が聞こえた。
何の音だ?・・・銃声か?
オレはおそるおそる目を開くと、バケモノがうめき声を上げながら、のたうち回っていた。
「チッ、コッチからバケモノの声が聞こえて来てみれば、人違い・・・いや、バケモノ違いだったか」
声がする方向に目をやる。
そこには黒い外套を着て、髪が腰まである男が立っていた。
そして、手には銀の装飾銃を持っている。
今のは・・・コイツがヤッたのか・・・
痛がるバケモノはそのままオレ達から標的をその男に変えて襲いかかるが、しかし・・・
「貴様など、どうでもいい・・・消えろ」
その言葉と共に男が引き金を引き・・・
ドバァァーン!!!
バケモノの脳髄を貫通し・・・殺した。
「────さて、コイツではなかったなら・・・ヤツはどこに行った?」
間違いねぇ・・・コイツがこの町に住んでるヤツだ。
そうと決まれば・・・やる事は一つ。
「あっあの・・・助けていただきありがとうございます。ほら、お前も」
「ありがとうございます!」
「別に助けたわけじゃない。コイツが狙いのヤツだと思った、それだけだ。間違いだったがな」
「こんなヤツが他にいるんですか?」
「まぁな」
男はそう言い、直ぐにオレ達の前からから立ち去ろうとする・・・
「まっ・・・待ってください!あなたここに住んでる人ですよね?朝になるまででいいです!あなたの家に泊めてください!今じゃあ安心して家に帰れませんよ!」
まさか、こんなバケモノが住み着く場所だったとはな。
じゃあアイツも食われたのか?それなら好都合だが・・・
俺はそう考え、ふと男を見ると・・・
「・・・・・・」
男がこちらを睨んでいた。
なっ・・・なんだ?まさか俺の魂胆に気づかれた!?
「貴様、前に一度会ったことはあるか?」
男は全く別の事を聞いてきた。
「・・・いや、自分は会ったことないですね」
テメーみたいなヤツと会ったら忘れねーよ。
「そうか・・・まぁいい付いて来い、今夜だけ泊めてやる」
男はそう言って、そのまま無言である方向へと歩き始めた。
・・・あれは・・・ついてこい・・・と言っているのか?・・・まぁ、多分そうだろう・・・では、お言葉に甘えてついて行くとするか・・・
───────
─────
───
「本当にこの町に住んでるんですか?」
「・・・・・・」
「いつから住んでるんですか?」
「・・・・・・」
「どうして此処に住んでるんですか?」
「・・・・・・」
さっきから後輩のヤローが質問しまくっている。
おいおいおいおい、止めとけ、止めとけ
それ以上質問すると・・・
「なぜ─────」
「おい次、無駄口たたいてみろ・・・貴様の顔面に穴が空くぞ」
ほらみろ、怒られた
こんなところに住んでるヤツは、ワケわりなんだよ
泊めてくれるってんだ、ここはおとなしくしとくのが吉なんだよ
「おい、あんま機嫌損なうことすんなよ。ここで泊めないとか言われてみろ・・・オレがお前を殺すぞ」
「すみません、先パイ。あんなバケモノみるの初めてで舞い上がっちゃって。先パイ、すごいっすね。あんなこと起きたのにもう平然としてるなんて」
「まぁな」
そんなわけねぇだろ、オレだってびっくりしてるわ
まぁ、ここで取り乱すヤツは雑魚だからな
男は何が起きてもポーカーフェイスが大事なんだよ
────そうこうしてる間に男の家に到着したそうだ
「さて、家に入ってもいいが、一階だけだ。一階なら好きに使ってかまわん。だが、二階には行くなよ、行ったら貴様ら・・・」
ゴッゴクッ!
「何されるんですか?」
バカ、聞いてんじゃねぇよ!!
「フッ、さぁな・・・俺は少し眠る、起こしたら殺す」
そう言って男は(恐らく)寝室に向かっていった。
「────さて、写真を撮りまくるぞ。オイ、お前もカメラ回せ」
「大丈夫なんですか?部屋撮ったりなんかして・・・怒られませんか」
「バーカ、何のためにここに来たんだよ。ヤツの居場所をネットにアップすればバズるの確定だぜ。アイツも好きにしていいって言ってたじゃないか」
ったく、変なところで真面目ぶりやがって
・・・にしても、アイツに関するものがないな
何か面白れぇーもんあるかなっと、家族写真じゃねーか
どれどれ・・・父、母、子供2人の4人家族か
・・・・・・アイツのものじゃなさうだな、どいつもアイツと正反対の顔してやがる
そう考え、写真を元あった場所へと置いた時・・・
「た・・・たすけ・・・て」
声が聞こえた
この階からの声じゃない、恐らく2階からだろう
「なっ何なんですか!今の声!もしかして、さっきのようなバケモノが近くに・・・」
「バーカ、何言っているんだよ。今のは完全に人の声だろ!」
「えっ!?じゃあ、何て言ってるんですかね?」
「お前は耳までおかしくなったのか、“助けて”って言ってるんだよ」
・・・・・・えっ、ちょと待って オレ今何て言った?たすけて・・・タスケテ?タスケテって何?
そんな事を考えていると、また二階から・・・
「た・・・たすけ・・・て」
今にも消え入りそうな声が聞こえてくる。
・・・・・・オーケー落ち着け。
今ので考えられる答えは3つだ
① ただの空耳
そうであって欲しいが、2回聞こえたっつうことは、空耳じゃあねぇだろうな
② 今の声はテレビの音
・・・うん、電気通ってないから①よりねえわ
③ 二階にいるヤツが助けてを求めている
確かこの町に入った者は行方不明になるんだっけ・・・ということは、さっきの男が殺人鬼っていうことになるな
・・・・・・うん結論、早くここから逃げるっつうことだ!
「おい、早く逃げるぞ!ここに居ればオレ達も捕まる!!」
「はっはい!でっでも!二階にいる人はどうするんですか!?」
「知らん、他人の心配するより自分の心配しろ!」
「・・・・・・おっ俺は見捨てるなんて出来ません。先パイも手伝って下さい、二人でやればきっとなんとか出来ます」
「バカかお前は!オレがそんなことするわけねぇだろ。助けたきゃテメー一人でやれ」
◾️
俺は先パイが走り去るのを呆然と見ていた。
心臓が激しく鼓動し、冷たい汗が額を伝った。
本当は、自分も逃げたい。恐怖に体が震え、心の中で何度も「逃げろ」と叫びたくなる。
だが、助けを求める声が再び聞こえた瞬間、彼の中で何かが変わった。
「でもやっぱり見捨てることなんて出来ない」
自分に言い聞かせるように呟いた。俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、静かに決意を固めた。勇気を振り絞り、恐怖に打ち勝とうとする姿勢が現れた。
素早く、しかし音を立てずに階段を登り、二階へとたどり着いた。
「だ・・・だずげ・・で」
再び聞こえる助けを求める声が、俺の心に強い決意を与えた。
「(自分は何のためにここにいるんだ?助けを求める人を救うために、この恐怖を乗り越えなければならない)」
俺は再度深呼吸し、恐る恐るドアノブに手をかけ、ゆっくりと開けた。
「大丈夫ですか、自分が助けに来ました。もう安心し────!?」
小声でそう言い終わる前に俺の心を打ちのめされ、大きな悲鳴を上げてしまった。
静かにしなくてはいけないということを忘れ・・・
眼前に広がる光景を前にして・・・