表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/168

第148話 場所へ辿り着く

これにて第9章も最終回



「ふぅ〜、やれやれ・・・これでやっと終わったね」


廃屋から外へ出たニャルラはそう息を吐きながら背伸びをする。


時刻は既に3時を回る・・・真夜中のロンドンはまだまだ寝静まる気配は無い。


「さてと、用も済んだし早速今の時間帯でもやってそうな店でも探してパーティーと洒落込もうじゃないか、良いよね3人とも!」


ニャルラはそう興奮しながらヨグ、アザート、シェリー(仮)の3人に言葉を投げかける。


しかし、そのニャルラの提案もアザートの言葉で白紙になるかもしれない・・・


「待て、まだ終わっちゃいないぞ?まだ最後にやるべき事を残している」


「・・・?やるべき事って何ニャ?」


ニャルラが不思議そうにアザートに質問する。


そう、まだ1人残っている────


まだやり残した者が1人いる────










































ニャルラ一向は再び黒い館へと足を運んでいた。


その理由は勿論、シェリー(仮)の姉に会う為だ。


「────そう言えば、シェリー(仮)ちゃんのお姉ちゃんの事すっかり忘れてたニャ〜」


「いや忘れちゃダメでしょ、シェリー(仮)さんに失礼ですよ」


「良いのよ、私は別に気にしてないわ」


「流石!寛大な女の子って良いねぇ〜・・・ん?でも、何でわざわざあの男を殺してからお姉さんに会おうとしてるの?行って帰ってじゃあ面倒じゃない?」


「・・・別に大した理由は無いわ。ただ全てが終わってからお姉ちゃんに報告するって決めただけよ」


そう話すシェリー(仮)の表情は何処か悲しげであった。


何か思う所でもあるのだろうか・・・そう思うニャルラであったが、それを口には出さず、ただ一言・・・


「ふーん 」


とだけ呟き、それ以上は何も言わなかった。


そして、4人は黒い館へと辿り着く・・・当たり前だが、敷地内は赤黒く染め上がった地面と無数の死体や肉塊が散乱している。


「にしても随分な有様・・・容赦という言葉はないのかしら、あなた達には」


「ニャハハ!褒めても何も出てこないよ!」


「多分褒められてないですよ、ニャルラさん」


そう、この有り様は全てニャルラ、ヨグ、アザートの3人が侵入と同時に行った事だ。


オベロンの部下であろう者達がニャルラ達の行く手を阻もうと試みたが、3人にとってはそんな者達など障害にすらなり得ない・・・結果、この現状だ。


「容赦ねぇ・・・う〜ん、容赦してもいいんだけど、やっぱりここで殺しとかないとアレじゃん・・・復讐とかされても面倒じゃん?」


「復讐とか嫌ですもんね」


「復讐も中々面白いと思うがな」


「「アザートさんは黙ってて(下さい)!!」」


そんなふざけた会話を繰り広げながら、ニャルラ達は館の奥へと進んで行き、ようやく目的の場所・・・シェリー(仮)の姉がいる部屋の階へと到着した。


姉がいるのはここから3つ目の部屋だ。


「・・・ちょっといいかしら?」


「んニャ?どうしたの?」


「ここから先は私1人で会いに行くわ」


ニャルラを見つめるシェリー(仮)の表情と瞳は真剣そのもの・・・ その言葉と表情を前にニャルラは一呼吸置き・・・ そして、いつもの笑顔でこう答えた。


「分かったよ、シェリー(仮)ちゃん・・・じゃあ、待ってるよ」


「・・・えぇ」











































シェリー(仮)はニャルラ達に少しの笑みを見せた後、目的の部屋へと視線を移し、ゆっくりと足を進ませる。


カツン・・・カツン・・・ 静まり返った館に足音だけが木霊する。


その音が耳に入る度にシェリー(仮)の心は不安で揺れ動く・・・ だが、それでも足を止める事は無い。


ここで止まってしまったら・・・決意した事が全て水の泡と化してしまいそうだから・・・ そんな不安を拭う様にシェリー(仮)は歩みを止めない。


そして、ついにシェリー(仮)は目的の部屋の数m前に辿り着いた。


「────(・・・怖い)」


扉は既に壊れており、此処から一歩でも踏み出せば、中の様子が分かる・・・


そんな状況でシェリー(仮)の頭の中に様々な過去が走馬灯の様に流れる・・・楽しかった事、嬉しかった事、悲しかった事・・・数時間前に見た光景が脳内に駆け巡る。


どれもが今のシェリー(仮)にとってはとても大事なモノである。


だからこそ、この扉を開く事が怖いのだ。


しかし、脳裏にあの言葉────




『資格は要らない』




────その言葉が浮かび上がり、シェリー(仮)の背中を押した。


アザートに言われるまで気が付きもしなかった事・・・


家族に会うのに資格が要るか要らないか────


自分の行動に後悔と絶望が押し寄せる世界の中でようやく己の本心という扉の奥を垣間見た。


結局、自分の中で既に答えは出ていたのだ。


会う資格がない・・・


謝る資格なんてない・・・










































会いたくない・・・


さんざん自分を偽り、曲がりくねり、寄り道し、遠回りして・・・ 別の場所(建前)に辿り着こうとしたとしても、結局は変わらない・・・


結局はこの部屋(本心)へと辿り着きたいと願ってしまっているんだ・・・










































会いたい、なんて・・・










































そう私は願っているんだ・・・


「お姉ちゃん・・・」


カツン・・・


シェリー(仮)はその一歩をゆっくりと踏み出す────










































「ァァ・・・シィィィィ・・・ァェェェェ・・・」


視界に映るは見るも無惨な姿で床に転がる女・・・ 部屋のあちこちには血溜まりと白黒く濁った粘液が存在し、それをゆっくりと舌で舐めとり、恍惚した表情をしている姉の姿が其処にはあった。


シェリー(仮)が近くにいるというのに、全く気にする素振りを見せる事なく、そんな事はない・・・


「お姉・・・ちゃん・・・」


シェリー(仮)はそんな姉にゆっくりと近づく。


「ァァ・・・アェェ・・・」


その言葉が耳に入り、ゆっくりとシェリー(仮)の方に顔を向けるが、そんな姉の瞳には何も映っていない・・・ただ虚空を見つめるだけ。


ただシェリー(仮)が発する音に反応しているだけに過ぎない。


「お姉ちゃん・・・」


「・・・ァェ」


「ごめんなさい・・・私のせいで・・・私のせいでこんな姿に・・・」


「ァァアエェ・・・」


2人の会話など成り立たず、ただ繰り返されるその行為。


シェリー(仮)が姉に向けて謝罪の言葉を述べ、姉がそれに対して言葉にならない音で応える・・・ただそれだけ。


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


ゆっくりと姉を抱きしめながら、何度も何度も謝る。


服に血と液体が染み込むが、そんな事は気にも留めない・・・


「お姉ちゃん!私のせいなの!全部私のせいだからぁ!!」


「・・・ァッェアエ?」


姉の瞳に生気など宿ってはいない・・・


しかし、その眼にはだんだんとシェリー(仮)の姿を映していく・・・


「・・・ェァァ・・・」


ゆっくりとシェリー(仮)の頬に手を当て、顔を近付ける・・・


「・・・お姉ちゃん?」


その時、その瞬間だけ、シェリー(仮)は姉の瞳に生気が微かに宿っているのを感じた。










































「生きて────×××××」


その言葉を最期に音は止んだ────











































「─────で、今日は国境騎士団(バリアント)めでたい4人目の入団者が誕生した日!どの店で祝杯をあげようかニャ?」


「この店なんていいんじゃないですか?店の雰囲気もオシャレで料理も美味しそうですし」


「おお!良いねぇ〜!お酒も美味しそうだし、今日は朝まで騒ごうかニャ〜!」


「浮かれるのはいいが、まだあの女が入るとは決まってないぞ?」










































「「・・・え?」」


アザートのまさかの言葉にニャルラとヨグは固まった。


「え?ちょっ・・・何で!?アザート君が勧誘してくれたんじゃないの!?」


「そうですよ!?アザートさん、任せてくれ的な事言ってませんでした!?」


「生かして連れて来ただけでも有難いと思え」


「何で上から!?」


謎の上から目線にツッコミを入れるニャルラとヨグ・・・ そんな中、アザートは話を続けた。


「あの女の姉の命も既に風前の灯・・・ソイツが死ねば、後追いするかもな」


「・・・え?・・・ちょっ・・・え!?・・・それマジで言ってんの!?どうすんの!?どうすんの!?」


「今からでも遅くないです!様子見に行きましょ・・・よし、ニャルラさんとアザートさん!、見に行って下さい!」


何故か目を泳がせながら、アザートとニャルラを行かせようとするヨグ・・・


「何故お前は行かない?」


「いや・・・もし行って自殺してたらと思うと────」


「勝手に殺さないでくれるかしら?」


「そうそう勝手に殺しちゃダメだよ・・・って、シェリー(仮)ちゃん!?」


いつの間にかニャルラの後ろにいたシェリー(仮)は3人に細い目を向けていた。


「・・・お姉さんはどうしたの?」


「(いきなりですか!?)」


直球過ぎるニャルラの質問にヨグは少々驚くも、当の本人のシェリー(仮)は表情を変える事なく淡々と答えた。


「死んだわ」


「そう・・・なのかニャ」










































「で・・・私の歓迎会してくれるんでしょ?何処の店なの?」


「・・・え?入ってくれる!?」


「あなた達が入れ入れって言ってきたんじゃない、行くあても無くなったしね・・・ここまで来て嘘でしただったら、承知しないけど」


「いやいやいやいや!こっちはいつでもwelcomeニャ!!さぁ!歓迎会をしよう!!今日は朝まで飲みまくるよ〜!!」


シェリーの加入に大はしゃぎするニャルラはヨグの手を取り、踊り出す。


その様子に少々頭を抱えながら、シェリー(仮)はふとアザートの方を見る。


「ねぇ、ちょっと」


「・・・何だ」


「ありがと」


シェリー(仮)は一言そうアザートに告げ、ニャルラとヨグの2人に近付く。


「店が決まって無いなら、私が一度行ってみたかった店があるのよ・・・そこにしない?」


「おぉ〜!流石地元民!じゃあそこで決まり!早速行こう!!」


「その前にシャワーでも浴びたいんだけど」


「全然OKニャ!」


4人は夜のロンドンの街へと消えていった・・・










































そんなアザート達を遥かに上空から眺める者達がいた・・・


「いいのか、『ボルト』・・・アザートという男に会わなくても・・・知り合いなのだろう?」


「今は良いさ、今はまだ僕達の組織に勧誘しても彼の格が下がるだけさ・・・でも、いずれ彼を必ず引き入れるよ、必ずね」


「そうか・・・お前が良いならそれで良いさ」


「あぁ、今は彼に相応しい組織を創る事に尽力を務めるさ・・・










































 待っててくれたまえ・・・僕の友人、アザート」


次回投稿は来週の土曜日になります。

といっても、来週は閑話となりますが・・・


ブクマ登録をしてくれた方、評価をしてくれた方、そして、読んでくれている方、モチベーションに繋がってます、本当に嬉しさと感謝でいっぱいです!

ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ