第146話 資格
次回で9章も最終話・・・
11月からだから・・・ざっと半年ですかね。
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「・・・何か言ったら?」
「何をだ?」
目の前の映像に映る過去の自分を前にシェリー(仮)は自重気味に言葉を漏らす。
「決まってるじゃない、お姉ちゃんを助けるとか啖呵を切っておいて、いざ蓋を開けてみれば一時の快楽に身を委ねて助ける事を先延ばしにしていた事よ」
嘲笑う様に過去の自分を見つめるシェリー(仮)・・・
そんな彼女の眼は、まるでゴミを見るかの様な眼をしていた。
「先延ばしに先延ばしを重ねて、挙げ句の果てにお姉ちゃんが犯されて壊されていた事すら知らなかったんだから・・・これ以上面白い事は他に無いわよ」
「・・・思い出したか」
「ええ、お陰様でね。まるで立ち込めていた霧が晴れたみたいね・・・凄く気分が悪いわ、ずっと霧散して欲しかったものね」
「それは何よりだな」
アザートはシェリー(仮)の自身の皮肉に対し、口元が少し上がる。
その表情は側から見ると、嘲笑っているかの様な表情だ・・・しかし、それはアザートなりの気遣いであろうか?
シェリー(仮)はそんなアザートの表情からそう判断し、少し気が楽になる・・・が、彼女の心は晴れる事は無い。
「あら、もっと蔑んでくれても良いのよ?『無様だ』とか『愚かだ』とか言ってくれた方がもっとね・・・」
シェリー(仮)は皮肉を込め、アザートに言葉をかける。
そんな彼女の眼には光が無い・・・まるで全てを失ったかの様な眼をしている。
「もっと・・・なんだ?」
しかし、そんなシェリー(仮)に対し、アザートは特に気にする様子も無く、言葉を返す。
それはシェリー(仮)にとって予想外な言葉だった。
「まさかだと思うが、お前自身楽になりたいとか考えているじゃないだろうな?」
シェリー(仮)はアザートのその言葉に心臓を鷲掴みにされた様な感覚に陥る・・・一瞬にして、目の前が真っ白になった・・・そう錯覚してしまう程だ。
シェリー(仮)は動揺を隠しきれず、思わず言葉を失うが、そんな彼女の心情などお構い無しと言わんばかりにアザートは続ける・・・まるで、シェリー(仮)の心を抉る様に。
「俺はお前の事を思い違いをしていた様だな。まさかお前が自分を責める事で己の罪から目を背けようとしているとはな・・・見下げ果てた者だな」
「ち、違────」
アザートのその言葉がシェリー(仮)の心に深く突き刺さる。
否定しようとするも、言葉が出ない。
それは図星からくるものだ・・・ シェリー(仮)は自分を責める事で自分の罪から目を逸らしてきた。
だが、それは決して許される事では無いと彼女は知っている・・・いや、知っていた筈なのだ・・・しかし、今の彼女の心はそれすら判別できぬ程に弱り切っていたのだ。
「否定・・・できない様だな」
アザートはそんなシェリー(仮)の心情などお構い無しと言わんばかりに言葉をかける。
それは、まるで彼女を追い詰めるかの様に・・・ そして遂にシェリー(仮)の眼から涙が零れる。
「姉の為、姉の為と言葉にしているものの、お前は日に日に姉に対してコンプレックスを抱く様になっていったのだ」
「コンプレッ・・・クス?」
「そうだ、過去の映像を通しても、姉は誰からも好かれていたが、お前は常に周りの・・・特に同年代の人間から嫌われていた」
シェリー(仮)の姉は誰をも愛する性格をしていたのだ・・・そんな彼女が誰にでも愛されていたのは当然の結果だ。
しかし、シェリー(仮)自身はと言えば、その全くの真逆だった。
シェリー(仮)は家族以外の者に関しての興味が一切無かった。
故に他人に対して、常に興味無さげな態度を取っており、それが他者からの反感を買う結果となっていたのだ。
シェリー(仮)自身としてはそんな人間に興味が湧く事は無い故対処する事もしない・・・気付けば周囲から孤立する事になってしまっていたのだ。
しかし、そんな状態でも彼女自身は何食わぬ顔をしており、その事に対して特に何も思う事は無かった。
しかし、そんなシェリー(仮)は姉が周りから好かれているのに、自分は嫌われている・・・その事実を目の当たりにする度に少しずつ心に傷を負う様になっていたのだ。
「そして、気付かぬ間にお前はだんだんと姉の事を妬み始めていき、それが最終的に衰弱しきった声を聴いた事で爆発し、あの様な行動に走った・・・という訳か」
「違う・・・私は・・・私は・・・」
シェリー(仮)の涙は止まらない、涙と嗚咽で彼女の声は途切れる。
「お前の本質は姉などどうでも良かったのだろう?お前はただ自分以外どうでも良いと思っている無責任な人間だ」
「違・・・う」
「違う事は無い。何を踏み躙っても、誰を殺しても構う事をしない・・・ただ自分を満足させる為にお前は姉や周りの人間を踏み台にして生きてきたのだ、今までな」
「違う!違う!・・・私は!私は・・・!」
シェリー(仮)は涙を流しながら、アザートの言葉を否定する。
「私は・・・」
声が詰まる・・・言いたい言葉が喉の奥で引っ掛かる。
だが、シェリー(仮)の頭の中には既にその言葉は浮かんでいた。
しかし、それを口にして良いのか?という言葉が同時に脳内を駆け巡り、ソレを話す事を留まらせる。
「『私は・・・』何だ?言ってみろ」
「私は・・・わたしは・・・」
しかし、アザートのその言葉でシェリー(仮)の口は動き、その言葉を紡ぐ。
「ただお姉ちゃんに必要とされて欲しかった・・・私は人と関わる事が苦手だったから、ずっと周りと距離があった・・・でも、お姉ちゃんだけはこんな私と一緒に居てくれた」
「・・・」
「殺しの仕事もお姉ちゃんを陰ながら守る為にやった・・・お姉ちゃんが幸せになってくれるなら、私は自分の事なんかどうでも良かった」
「・・・」
「でも、それが段々と私が殺していなければ、お姉ちゃんは死んでいた、殺されていた・・・そんな考えがいつの間にか私を支配して、いつしかお姉ちゃんが生きているのは私のお陰・・・そんな考えが頭を埋め尽くす様になった」
シェリー(仮)は嗚咽混じりにアザートに対し自身の思いを吐露する。
それは彼女の本心そのものであり、偽りの無い言葉だ。
「その結果が姉の救出の先送りか」
静かにゆっくりと首を縦に動かすシェリー(仮)。
「でも・・・もう、良い・・・感謝するわ、長い話を聴いてくれて・・・この空間はあなたの能力なんでしょう?解除して私を殺し───」
「断る」
シェリー(仮)の言葉を遮ったのはアザートの言葉であった。
「な、んで・・・?」
「悪いが、ニャルラの奴にお前を任されてしまったってな。ここでお前を殺しては、アイツにどう文句を言われるか分かったものではない」
「・・・それはあなたの事情でしょ?今の話聴いたのよね、私はお姉ちゃんを・・・実の姉を自分の快楽の為に利用したのよ?」
「ああ、そうだな」
「・・・なら、何故?私なんかに構う必要があるの?私の事なんかどうでも良いじゃない」
シェリー(仮)はアザートに対し、声を荒げて叫ぶ。
そんなシェリー(仮)の言葉を聞き流すかの様に、アザートは静かに言葉を返す。
「何だ、お前・・・同情して欲しいのか?」
「え?」
シェリー(仮)はアザートの言葉を聞き、呆気に取られる。
そんなシェリー(仮)の様子を余所にアザートは続ける。
「違うよな、まさか『同情してくれ』という事を伝える為にあんなに長々と話していたとは・・・」
「ちょっと・・・」
「それなら話す相手を間違えたな。俺はお前に同情するつもりもなければ慰める気も無い」
「そんな意図ないわよ」
シェリー(仮)はアザートを少々睨みながら、そう告げる。
「だろうな」
「何が言いたいのよ、早く能力の解除を────」
「断ると言った筈だ」
シェリー(仮)の言葉を再び遮るアザート。
そんなアザートに対し、シェリー(仮)は苛立ちを覚えながらも言葉を発する。
「どうしてよ!」
「2、3度だけ会った者に少しばかり自分の心を曝け出して、死ぬ・・・ましてや、その者に介錯しろなど・・・誰でも断るに決まっているだろ」
シェリー(仮)はアザートの言葉に思わず言葉を失う。
そんな様子のシェリー(仮)にアザートは言葉を更に続ける。
「・・・お前がこのまま死ねば、お前はただ自分の快楽の為に姉を利用して殺したというだけの人間になるぞ?お前はそれで良いのか?」
「構わないわ・・・もう私は・・・お姉ちゃんの側にはいられない」
「その姉も時期に死ぬがな」
「それは・・・!」
アザートの言葉にシェリー(仮)は心が揺らぐ。
「姉をボロボロにした奴に復讐もせず・・・ましてや、姉に謝りもせずに死ぬのか?お前は」
「・・・」
アザートの言葉にシェリー(仮)は何も言い返せない。
「お前は本当にそれで良いのか?自分の姉をそんな情けないまま死なせて」
「・・・」
「まぁ、それはそれで良いんじゃないか?無様な最期を遂げる姉妹・・・クックック、それもまた面白いだろうな」
「じゃあ・・・どうすれば・・・どうすればいいのよ!!私はお姉ちゃんを裏切って・・・そんな私がお姉ちゃんに謝る・・・いや、会う資格なんて・・・」
シェリー(仮)の眼から再び涙が溢れる。
それは心の叫び・・・シェリー(仮)の本心が言葉として吐き出される。
アザートはそんな様子のシェリー(仮)を見て、静かに口を開く。
「資格・・・資格か、そんなモノが必要なのか?」
「────え?」
「妹が姉に会うのに資格など必要か?」
「あっ・・・」
アザートのその言葉にシェリー(仮)は言葉を失う。
資格が必要ない・・・シェリー(仮)は姉と会わない理由を考えていた時に、そんな考えは一度たりとも頭に過らなかった。
何かにつけて姉と会わない口実を考えていただけだった・・・
しかし・・・
『家族に会うのに資格なんて必要無い』
その言葉がシェリー(仮)の心に深く突き刺さる。
ピシッ・・・
瞬間、周囲の景色に亀裂が生じる。
ピシッ・・・ピシッピシッ・・・
先程まで暗く、絶望の記憶だけを映し込む映像の空間を亀裂が覆っていく。
それはまるでシェリー(仮)の心と呼応するかの様にゆっくりと空間が崩れ去っていく・・・
アザートの能力『堕とし子』・・・
それが発動されたら最後、回避不可能の攻撃・・・
回避するという選択肢すら選べない精神状態へと陥り、最後は顕現されたトラウマに飲み込まれ、消えてしまう。
しかし、対象者が能力発動中に恐怖やトラウマを克服した場合、
その限りではない────
◆
現実へと戻ってきたアザートとシェリー(仮)・・・
既に2人の邪神化は解除されており、人間の姿に戻っている・・・
「行くぞ」
「えぇ」
シェリー(仮)の顔にもう迷いは無い────
次回投稿は来週の金曜日になります。
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