第144話 冷たい記憶と決意の記憶
前回を加筆修正を施しましたが、ここでも少し解説を・・・
20XQ年時点での2人の年齢は、
シェリー(仮)14歳
姉 22歳
先生の話を聞いて直ぐに2人は病院へと駆けつける。
だが、そこに待っていたのは全身傷だらけで血まみれの母親と父親の姿であった・・・
そしてその傍らには泣き叫ぶシェリー(仮)・・・ 姉はその場で崩れ落ちるように膝をつく。
それを見た先生は辛そうに唇を噛み締めながら、2人に告げる。
────もう手遅れだと。
2人はその現実を受け止めきれずにただ呆然とするだけ・・・
何もできない・・・ただ、時間が流れていく。
その夜、2人は病院の一室から出る事はなかった────
「今見てもキツイわね・・・さっきまで・・・ほんの数時間前まで幸せな生活を送っていたのに・・・現実は本当に非常ね」
「・・・そうだな」
シェリー(仮)がそう呟くと、アザートはそれに同調するかのように頷く。
そんな中でも再び、景色が変わっていく。
◆
シェリー(仮)と姉は喪服を纏っている様子・・・
どうやら、この場面は葬式のようだ。
そんなシェリー(仮)と姉を見た周りの大人達は同情の声を上げる。
「まだ若いのに・・・」
「仕事で事故に遭ったそうで・・・」
「事故?そう言えば、亡くなった2人の職業って・・・」
「科学者だったらしいわ・・・何やら、新しい薬?か何かを研究していたとか」
大人たちは2人の職業を聞くと、口々に今回の事故の原因について考察していく。
しかし、その考察は大人達の暇つぶし程度の感覚でしかない。
本心ではなく、建前にしか過ぎない・・・
現に2人に声を掛ける者などいない事が何よりの証拠だ。
2人に対しての同情はあれど、それ以上の感情は持ち合わせていないのだ。
2人はそんな大人たちに怒りを覚える事もなく、ただただ黙って聞いている・・・いや、何も言う気力がないのだ。
そんな時・・・
「君達が博士達のご令嬢かね?」
1人の男がシェリー(仮)達に話しかけた。
少し小太りなブランド物を身に纏う中年男・・・笑顔で挨拶を交わしているが、胡散臭いと言わざるを得ない。
「おおっと?そんな警戒しないでおくれよ。私の名前はオベロン・・・君達の父親と母親の知り合い・・・言わば、パトロンとでも言おうかな」
両親の知り合い・・・その言葉にシェリー(仮)達は反応する。
しかし、その反応を見たオベロンは更に笑顔になる・・・ まるで2人が食いつくのを待っていたかのように。
「君達に話があるんだ。葬式が終わった後でも少し話さないか?」
「「・・・・・・」」
2人は数秒ほど悩んだ末、オベロンの話に首を縦に振った。
それを見透かしていたかのように、オベロンは2人に笑顔を見せた。
「両親が亡くなった事で判断能力が低下した時を狙う・・・今思えば随分と姑息な手に引っかかってしまったわね」
「オベロン・・・ああ、あの男か・・・見るからに怪しい奴だが、何故ついて行こうと思ったんだ?」
「両親の知り合いって言葉に惑わされたのが原因だったけど・・・そうね、最大の要因は建前の同情を並び連ねてるだけの大人よりも、私達に声をかけてきた人の方が信用できると思ったから・・・かしらね」
「結果、それが最大の罠だったって訳か」
「・・・ふ、その通りね」
アザートの言葉にシェリー(仮)は自嘲するかのように微笑んだ。
◆
オベロンという男が話した内容・・・それは端的に言うと組織へのスカウトだった。
オベロンはお母さんとお父さんの新薬に用する研究費を援助していた。
そして、その研究がようやく実を結んできた矢先に亡くなってしまったという・・・
その研究を更に広げる為に私とお姉ちゃんに研究の続きを協力してほしいという事だった。
しかし、私もお姉ちゃんも研究などした事も無い。
だから、断ろうとした・・・けど、オベロンはそんな私達の心情を察してこう告げた。
────衣食住は勿論、学費の免除もする。
────月一の給料も渡すし、幾らでも好きに使って良い・・・と。
その一言は私達に十分すぎるほど魅力的な提案だった。
だが、そもそも研究という物がよく分からないし、オベロンが何故私達の為にそんな事しようと思ったのか?
それが分からなかったけど、この男なら何か裏があると思い断った・・・いや、断ろうとした。
しかし、それを止めたのは意外にもお姉ちゃんだった。
お姉ちゃんはオベロンに向かって頭を下げながらこう言ったのだ。
────よろしくお願いしますと・・・
─────
───
──
「どうして?どうして受け入れたの?絶対に怪しいわよ」
「確かに怪しいわ・・・でも、×××××の学費を払ってくれるなら、私は良いかな」
「私は別に大学なんて行かなくても────」
「ダメ、異形者ハンターにでもなろうと考えてるんでしょ?絶対ダメよ、危ないから」
お姉ちゃんはそう微笑みながら言う・・・
「じゃ、じゃあ私が研究するから!」
「それもダメよ。×××××はまだ14歳よ。若い時に将来を決めるなんて早すぎるわ。研究は私がするから、心配いらないわ」
お姉ちゃんはそう言うと、私の頭を優しく撫でる。
私はそんなお姉ちゃんに何も言えずに俯く事しかできなかった。
「それに、あの人からは悪意を感じなかったし・・・きっと大丈夫よ! 」
それからお姉ちゃんはオベロンが用意してくれた家?というか、館で研究を始めた・・・
─────
───
──
それから1年後・・・
私は組織の殺し屋として、様々な仕事をするようになった。
お姉ちゃんが毎日研究を進める為に勉強しているというのに、私がぬくぬくと学校を通っていいものかと思っていた時だった。
「お前の姉は死に物狂いで生きているというのに、お前はこんなところで呑気に過ごしているなんてな」
ある日、他の組織の人にそう言われた事が始まりだった。
お姉ちゃんが私の為に働いてくれてるなら、私だってお姉ちゃんの為にも何かしたい・・・
そう思った私はお姉ちゃんに内緒でオベロンに相談すると、殺し屋にならないかと提案されたのだ。
オベロンは私の実力を知っていた・・・そこで初めて、何故私達をスカウトしたのか察した。
お姉ちゃんは研究の為で私は殺し屋として稼げる・・・一石二鳥という事だったんだろう。
その提案を私は受け入れ、お姉ちゃんには内緒で仕事を熟していった。
人を殺す事には躊躇いは無かった・・・
オベロンが提示してくる人物全員が悪人だったし、お姉ちゃんの為になると思って頑張った。
そうして月日は流れ、私達とオベロンが出会って3年くらい経った頃・・・組織に入った時にオベロンから渡されたスマホに連絡が入った。
メッセージの内容は、お姉ちゃんの研究で話があるそうだ。
そのメールを見た時、私は心が躍った・・・何故なら、1ヶ月前から研究が忙しいという理由でお姉ちゃんとは会えていなかったからだ。
お姉ちゃんに会えると思い、指定された場所に向かう・・・ しかし、そこに待っていたのは神妙な顔したオベロンだけだった。
「・・・ちょっと、お姉ちゃんは?」
「×××××君、非常に言いにくい事なんだが、お姉さんは少し体調を崩してしまったんだよ」
「え?どういう事?お姉ちゃんが・・・え?病気になった・・・って事?」
「・・・まぁ、そういう事だ」
「何処にいるの!?お姉ちゃんは無事なの!?」
「落ち着きたまえ、お姉さんは無事だ。ただ、少し体調が優れないだけさ」
オベロンはそう言うと、私に微笑みかけてくる・・・が、私の心は穏やかではない。
早くお姉ちゃんに会いたい!会って無事な姿を見たい! そう思いオベロンに容態を聞こうとすると・・・彼はそれを制するように言葉を放つ。
「お姉さんは心の病気・・・つまり、鬱になってしまっているんだ。錯乱状態と言っても良いだろう。そんな状態で会ったとしても、君とお姉さんの両方に悪い影響を与えてしまう・・・もうしばらくは会わない方が良いだろう」
お姉ちゃんの心の病気・・・そして鬱?
そんな事を聞かされて、私はショックを隠しきれなかった。
私の所為でお姉ちゃんがそんな状態になってしまったのだ・・・私が足を引っ張ってしまったのだろうか?
そう思うと涙が出てきた。
私が・・・私が・・・お姉ちゃんを・・・
「・・・ぅ、ぅぅぅ」
「辛い気持ちも分かるが、今日君を呼び出したのはお姉さんの状態を話すだけじゃないのだ」
オベロンは真剣な顔をして、私を見つめる。
「・・・何ですか?」
「お姉さんがそんな状態では研究が進まない・・・そこでどうだい?君がお姉さんの研究の続きをしてみないか?」
「・・・私が・・・お姉ちゃんの研究を?」
「あぁ、そうだ。聞く所によると、良く君はお姉さんに研究のアドバイスをしてるそうじゃないか」
「・・・そうだけど、それが?」
確かにお姉ちゃんは良く私に研究のアドバイスを聞きに来ていた。
お姉ちゃんが言うには私の意見は非常に役立っていると聞くが・・・
「殺し屋の仕事はどうするの?」
「心配しなくても、そっちに仕事が入れば、そちらを優先してくれて構わない・・・それにお姉さんを少しでも楽にしてあげたいとは思わないかね?」
お姉ちゃんを・・・楽にさせる・・・
お姉ちゃんの・・・役に立てる・・・
「・・・やるわ」
お姉ちゃんの為なら私は何だってやる─────
次回投稿は来週の金曜日になります。
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