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第142話 幸せな虚しい記憶



アザートとシェリー(仮)が歩き出して数分が経過した・・・


しかし、アザートの足は一向に止まる事は知らず、歩き続ける。


それをシェリー(仮)はただ無言でついて行く・・・ 一体何処に向かっているのだろうか?と、疑問を抱く。


しかし、その疑問を言葉には発する事はしない。


言葉にせずともアザートは自身の願う場所へと向かってくれている事は何となくだが、分かるからだ。


「(・・・何となく・・・全く、我ながら随分と根拠のない自信ね・・・科学者がこんな事思うなんて・・・)」


シェリー(仮)は自虐的に笑みを浮かべながら、アザートの背を見続ける。


そんな中、ふとシェリー(仮)は辺りを見渡した・・・


「(それにしても、この場所は一体何処なのかしらね)」


まるで蜃気楼のようなふわふわとした光溢れる空気が漂う空間・・・


何か無性に懐かしさを感じられる空間・・・


そして、何よりもこの場を異常と言わざる得ないのが自身の身体・・・小学校低学年くらいまで縮んでいる事。


「(アザートは能力と言ったけど、これはどういう事かしら・・・?)」


シェリー(仮)は自分の身体の変化に疑問を覚えつつも、アザートの後ろを追い続ける。


見るからに怪しげな男が小さな少女と歩いている・・・


側から見れば、完全に犯罪臭を漂う光景なのだが、運が良いのか悪いのか自分達以外人の気配がしない。


「(まぁ、人がいたとしても今の私には逃げる事もできないけれどね・・・)」


シェリー(仮)はそんな事を考えながら辺りを見渡していると、ある空き地に小さく綺麗な白い花が咲いていた。


「(へぇー、綺麗な花ね・・・品種は何だったかしら?)」


シェリー(仮)はその花を手に取り、観察していると突然の既視感にシェリー(仮)は戸惑いを覚える。


「(・・・え?この道・・・私は知ってる)」


先程から感じる何処か懐かしい雰囲気、見覚えのある景色・・・ そして、シェリー(仮)はこの道・・・いや、この街をよく知っている。


「(ここは・・・私が小さい頃にいた街?でも、どうして・・・)」


シェリー(仮)はそう考え、思考の海に潜り込む。


「(アザートは『幼少期から現在に至るまでの全てを垣間見る』そう言った。さらに、『私の心理世界』とも言った・・・つまり、この場所は────)」


シェリー(仮)がそう考えていると、アザートの足が止まった。


「着いたぞ」


アザートがそう言うと同時にシェリー(仮)の思考も中断する。


アザートの視線の先・・・シェリー(仮)はゆっくりと顔を上げた。


「これは・・・」


シェリー(仮)は眼前に広がっている光景に目を奪われている・・・










































それは自宅の玄関だった。


幼少期のシェリー(仮)が毎日見ていた自宅の玄関だった。


「懐かしいわね・・・」


シェリー(仮)はそう呟きながら、玄関を見つめる。


すると、玄関に付いているドアは独りでに開き、中から人影が出てくる。




『じゃあお母さん!私行ってくるね!』


『えぇ、気を付けて行きなさいよ!車とか轢かれないようにね!』


『分かってるって!もーうお母さん!私もうすぐ高校生だよ!』




シェリー(仮)はそんな会話を聞きながら、その声の主が誰なのかを瞬時に理解する。


「お姉ちゃん、と・・・お母さん」


シェリー(仮)はそう呟くと、2人の元へと駆け出し、力一杯抱きしめようとする・・・


が、シェリー(仮)の身体は2人の身体身体をすり抜けた。


「え・・・?」


シェリー(仮)は驚いた声を上げる。


2人に触らない・・・いや、それどころか2人共シェリー(仮)の存在に気付いていないようだった。




『いってきまーす!』




シェリーの姉はそう言うと、家から出て行ってしまう。


「ま、待っ───『待ってよー!お姉ちゃーん!!』


シェリー(仮)が2人を追いかけようとした瞬間、シェリー(仮)の声を遮って、1人の少女がお姉ちゃんに抱きついた。




『わっ!も〜う、いきなり抱きつかないでよー!』


『あらあら、そんなにお姉ちゃんが恋しかったのかしら?』




「私・・・?」


もう1人のシェリー(仮)が家の中から出てくると、シェリーの姉に抱きついた。




『う〜ん、そんなんじゃないよ!ただ私はお姉ちゃんが大好きなだけ!』




「何これ・・・何が起きてるの?」


シェリー(仮)は突然目の前に現れた光景を目の当たりにして困惑していた。


何故私が2人もいるのか?


何故皆んな私が見えないのか?


何で?どうして?


そんな疑問がシェリー(仮)の頭の中を駆け巡る中、アザートは嘲笑うかのような表情でシェリー(仮)を見つめる。


「見えるはずもない。ここはお前の記憶が投影させる場所だ。お前の声も姿もコイツらには見えない、聞こえない、感じもしない・・・ただただ映像を垂れ流しているだけだ・・・お前の過去のな」


「・・・私の過去?」


シェリー(仮)は息を飲み、ゆっくりと映像の中の自分へと近付いて行く。




『ふふっ、私も大好きよ!でも、私もう行かないと・・・帰ったら遊ぼ?』


『うん!お姉ちゃん!約束だからね!』


『えぇ、もちろんよ』




シェリーの姉はそう言うと、記憶のシェリー(仮)の頭を優しく撫でる。


その光景を前に一粒の涙がシェリー(仮)の頬を伝い、地面へと零れ落ちる。


「・・・お姉ちゃん、お母さん」


もう一度シェリー(仮)は映像の中へと手を伸ばし、触れようとするが────


その願い叶わず、その手は映像をすり抜けた・・・




『じゃあ、行ってきまーす!』


『いってらっしゃい!』


『いってらっしゃ〜い!お姉ちゃーん!』




記憶の中のシェリー(仮)がそう答えると、シェリー(仮)の姉は笑顔で手を振りながら、玄関を飛び出した。










































「・・・お姉ちゃん」


「止めるか?」


「え?」


「この記憶は恐らくお前の中の最も幸せであった時のモノ・・・これで心を痛めているようでは、辛い記憶や悲しい記憶を見る事はできんぞ?」


アザートはそう告げると、シェリー(仮)に背を向けて歩き出す。


「・・・そうね、こんな映像で心を痛めていたら何も見えないわね」


「あぁ・・・では────」


「だから私は記憶を見続ける・・・お姉ちゃんの・・・そして、私の過去を・・・もう大丈夫」


「・・・そうか」


アザートはそう答えると再び歩き出す・・・


シェリー(仮)も歩き出そうとしたその時・・・ふと何かを考え、記憶のシェリー(仮)へと近付いた。


『お姉ちゃん・・・約束守ってくれるかな?』


心配そうに姉が歩いて行った方を見据えながら、そう呟く記憶のシェリー(仮)・・・


「大丈夫・・・お姉ちゃんは約束守るよ。だってお姉ちゃんだから」


シェリー(仮)はそう一言呟くと、記憶のシェリー(仮)の頭を優しく撫でる。


そして、今度こそアザートの背を追い始めた。










































─────

────

──


「お姉ちゃん!見て見て!この花!綺麗でしょ?」


帰宅すると、私の妹が満面の笑みで白い花を持ちながら私に嬉しそうに告げる・・・


この子は本当に可愛いわね・・・


「お姉ちゃん?どうしたの?」


「ご、ごめんごめん!ところで、そのお花はどこで見つけたの?」


「え?えっとね!・・・確か、お姉ちゃんが学校に行くのを見送ってた時にね!・・・気付いたら待ってたの!・・・何でだろ?」


首を傾げて思い出そうとしてるけど、考えても何も思い出せないようね。


「う〜ん・・・まぁいっか!それよりお姉ちゃん!このお花あげる!」


「えぇ、いいの?ありがとう」


「うん!だってお姉ちゃん約束守ってくれたから!」


妹はそう言うと、私に白い花を差し出す。


私はそれを受け取ると、妹の頭を優しく撫でる・・・すると、シェリー(仮)はとても嬉しそうに笑う・・・


本当に可愛いわね・・・私の大事な妹の────










































─────

────

──


「それにしても小さい頃と今とでは違うな」


しばらくシェリー(仮)の精神世界を歩きながら、アザートはそう呟いた。


「そうね・・・でも、それは当然よ。人は成長するもの」


「・・・そうだな」


アザートはシェリー(仮)の返答を聞き、少し間を開けて答えた。


「さてと・・・そろそろか」


2人の前に大きな扉が現れる。


それはこの光溢れる世界とは完全に異なる雰囲気を醸し出す扉であった。


アザートはその扉に手を置きながら、シェリー(仮)へと振り返る。


「この扉を開けばお前の記憶のさらに奥を覗く事ができるが・・・覚悟はできているか?」


「・・・愚問よ」


シェリー(仮)はアザートにそう告げると、その大きな扉を押し開ける。


そして、2人はさらに深い記憶の中へと入って行く・・・










































「・・・これは」


シェリー(仮)が闇の中を歩き続ける事数分、自分の身体にある異変が起きている事に気がつく。


「これは・・・成長してる?」


シェリー(仮)の身体は先程まで小さな少女であったが、今は少しだけ大人びているように見えた。


服もさっきまでは私服であったが、今は制服を身に纏っていた。


シェリー(仮)の変化をアザートも気が付いたのか、シェリー(仮)に告げる。


「・・・どうやら、次の記憶まで辿り着いたようだな」


「・・・そのようね」


「お前の身体は今何歳くらいだ?」


アザートがそう尋ねると、シェリー(仮)は顎に手を当てながら答える。


「そうね・・・この制服は・・・確か私が中学生の時に着てたから・・・大体13、4ぐらいかしらね」


「なるほど・・・その時に何か心に残る事件はあったか?」


「・・・あったわ」


シェリー(仮)はアザートの問いに対し、暗い表情を見せながら答える。










































「私の両親が死んだのが丁度その時よ」


アザート「特に性格が違うな」


シェリー(仮)「文句でもあるの何かしら?」


アザート「『お姉ちゃーん!』か」


シェリー(仮)「・・・・・・」


アザート「随分と可愛らしいじゃな────」


シェリー(仮)「それ以上言うと抹殺するわよ」


アザート「・・・・・・」


シェリー(仮)「・・・・・・」


次回投稿は日曜日になります。

すいませんが、本日の更新は延期とさせて頂きます。

次回更新は金曜日です。

本当に申し訳ありません。

ブクマ登録をしてくれた方、評価をしてくれた方、モチベーションに繋がってます!

本当に嬉しさと感謝でいっぱいです!ありがとうございます!

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