第139話 邪神VS邪神 ⑥ 〜果てしなき魔王〜
いつもより遅れてしまった・・・
◆
3年前・・・
『皆の衆!いよいよだ!いよいよ宇宙の原初、万物の王、魔王様の復活が近い!』
『おお!』 『遂にか!』 『遂に復活なされるのか!』
『そうだ!!無限宇宙の創造主様の復活だ!』
『『『おぉ!!!』』』
『・・・しかしながら、依代のあの小僧では器はあれど精神があまりにも微弱すぎるのでは?』
『確かに、魔王様復活には【魔王たる器、魔王たる精神】が必要不可欠だ・・・だが、器さえ存在すれば、精神などどうとでもなる。現にあの小僧の隣の男を見よ』
『なるほど』 『確かに使える』
『間も無くだ!間も無く復活だ────
我等が魔王アザトース様の!』
◆
現在・・・
全方位から生成される無数の剣により、再生仕切る前に再び破壊させるアザートの肉体・・・
それはアザートの再生能力を持ってしても破壊のスピードに追いつかずにいた。
この領域はシェリー(仮)が作り出した擬似空間。
一目ではロンドンの街並みと錯覚してしまう程・・・その空間半径約200m。
つまり、この空間内・・・半径200mがシェリー(仮)の邪神固有武器100ポテンシャルを引き出せる距離である。
更に、固有武器はポテンシャル距離内なら何処でも生成可能である・・・つまり、この空間内では何処からでも生成可能という事になる。
全方位からの攻撃を可能にしているのは以上の事からである。
空間内何処からでも生成され、雨のように降り注ぎ、肉体の破壊を無限に繰り返す。
これが今のシェリー(仮)の邪神固有武器による攻撃方法は言わば、必殺・・・空間内に一度引き入れた者は回避する術は無い。
アザートが未だ死なぬのはその再生能力からだ、アザート以下の再生能力を持つ者、又は再生能力自体持たぬ者は既に死んでいる。
しかしながら、アザートでさえも死なない・・・ただそれだけである。
殺される事は無いが、殺す事もできない。
負ける事は無いが、勝つ事もできない状況だ。
ただただ時間が無常に過ぎ去るだけの時間・・・言い換えるならば、手も足もできないこの状況。
しかし、アザートは笑う・・・ この状況で尚も・・・楽しそうに、可笑しそうに笑う。
「(感じているな、苛立ちを・・・俺を殺しきれぬこの状況に苛立ちを隠しきれていない)」
そう、側から見れば絶対的に優位に立っているのはシェリー(仮)である。
肉体的にもシェリー(仮)が有利に立っている。
しかしながら、精神は違う・・・
己の攻撃を持ってしても殺しきれぬという事実に対して、シェリー(仮)の苛立ちは募っていく一方だ。
更に、目の前の男はこの状況を心の底から楽しんでいるかのように笑う・・・苛立ちが加速する。
その加速と共に剣の五月雨が威力を増した・・・
上方向のみが・・・
上方向の剣が増した事により、突き上げる威力が増加する・・・必然としてアザートの肉塊も突き上げられる。
「────ッ!」
その事実に戦慄するシェリー(仮)。
何故か?
先程までの攻撃は全て同威力から全方位攻撃によるモノ・・・これはつまり、アザートを一点の場所へと固定し、剣の集中豪雨を浴びせる手法だった。
一点に絞り込む事で攻撃を最大化させる事が目的だからだ。
しかし、今の一撃は違う・・・ シェリー(仮)の心境が読み取られたように一方向の威力だけが上がった。
つまり、保っていた攻撃のバランスが崩れたという事・・・
そして、これを見逃す程アザートは甘くはない。
しまった!
そうシェリー(仮)の肉体は感じ取ったが、既に遅い。
全方位からの攻撃を再び繰り出すが、アザートの肉体は闇へと溶け込んでいく・・・
その攻撃全てが当たらず、突き抜けるだけ・・・
無意味であると判断したシェリー(仮)の肉体は一旦雨を上げる。
だが、瞬時にアザートの周囲に数多の剣を生成させる。
包まれた闇から出てきたアザートを再び、剣の雨で無効させる為だ。
闇に包まれた理由・・・シェリー(仮)の肉体は理解する・・・
己と同じ・・・邪神化するのだろう。
シェリー(仮)の左額から汗が生成される。
警戒を強めながら、その時が来る事を待った・・・
そして・・・
時は来る────
再び、現れる────
果てしなき魔王が────
闇が晴れたと同時にアザートの周囲を巡る剣が射出される。
そして、再び空間内の剣がアザートを全方位から襲う・・・ だが、今までとは違う事が起きた。
剣が・・・全ての剣がアザートに届く前に掻き消されたのだ。
「────ッ!」
理解し難い現実にシェリー(仮)の肉体は驚愕しながら、目の前のアザートを見た・・・
と同時にシェリー(仮)はアザートから距離をとった。
それはシェリー(仮)の肉体がアザートを危険と判断したという事だ。
『何だアレは?』
それは、宇宙・・・か?
はたまた、闇か?
どちらにせよ、今シェリー(仮)の目前に広がるアザートの肉体は理解の有無を超えていた。
アザートを包むように存在していた闇が晴れたと同時に存在していたのはまさにそのナニか。
ヒトのような形をしているが、ただそれだけ。
顔は塗りつぶされたかのように何もなく、その黒は宇宙と錯覚してしまう程である。
肉体は深い闇のようでいて、僅かな光が灯る。
その僅かな光ですら、畏怖してしてしまう程の存在感をそのナニかが放っていた。
何が起きたのか理解できない・・・いや、理解したくないと本能が拒絶しているかのように感じたシェリー(仮)の肉体は距離をとったのだ。
そんなシェリー(仮)にアザートの笑い声が届く。
「ククク・・・これは以前から試したいと思っていたが、なにぶん試す敵が居なくてな」
ゆっくりとシェリー(仮)の元へと歩んでいくアザート・・・
「お前もその肉体を、その能力を、そろそろ掴んできた頃だろう?ならば、そろそろ本気と行こうじゃないか?」
「────ッ!」
アザートのその言葉にシェリー(仮)の肉体が反応する。
それは恐怖から来るモノか、それとも歓喜から来るものか・・・それはシェリー(仮)の肉体にしか分からない事である。
「・・・お前の名を聞きたいが、聞ける状態じゃないか・・・そうだな、九つの頭の龍・・・九頭龍・・・お前の名はクトゥルと呼ばせて貰うぞ」
そんなアザートの言葉にシェリーは笑う・・・嗤う。
「さぁ・・・来てみろ、クトゥル!」
アザートの言葉と同時にシェリー(仮)は再び全方位から数多の剣を生成する。
剣の雨が再びロンドンを模した空間内に降り注ぐ・・・ それとは別にシェリーはアザートを囲むように剣の風を送り込む。
「無駄だ」
剣の風がアザートを貫かんと迫る瞬間、再び掻き消される。
しかし、今度はその瞬間をシェリー(仮)は捉えた。
黒いケモノだ・・・
アザートの周囲には黒いモヤが取り囲んでいるが、その正体は先程まで使用していた『黒獣』であろう。
それがアザートの周囲を巡る事で自動的に剣の風を防いだのだ。
しかし、シェリー(仮)はそれを確認してなお、アザートの元へと距離を詰める。
詰めながら、自身の周囲に何本もの高速回転する剣を生成させる。
アザートがそれに対応する為に展開している黒獣をシェリー(仮)の元へと向かわせる・・・が、その黒獣に臆する事なく、シェリー(仮)は更に距離を詰めた。
そして、黒獣の攻撃がシェリー(仮)の肉体に届く・・・
その瞬間に全ての剣がシェリー(仮)の肉体を中心に周回し、黒獣を迎え撃つ。
高速で回転する事でアザートの黒獣は弾かれていく・・・しかし、その勢いは徐々に
強まる。
このまま押し切られるとシェリー(仮)の肉体は食い破られる・・・
そう感じられるが、シェリー(仮)は逃げなかった。
シェリー(仮)は逃げずに黒獣の猛攻を凌ごうとした。
そして、それがあり得ぬ事象を引き起こす。
バキッ・・・
ヒビ割れる音が小さく鳴り響く・・・
「な・・・に?」
そして、遂に・・・
バキィィィン!!!
アザートの黒獣が音を立てて崩れて去った。
「────ッ!?」
あまりの異常事態にアザート自身に驚愕が走る・・・
その瞬間、普段ならばあり得ない筈の事象が生じる。
アザートに大きな隙が生じる。
再び、アザートの肉体が崩れ去る・・・
次回投稿は金曜日になります。
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