第136話 邪神VS邪神 ③ 〜強敵判断笑み溢す〜
今回はヨグのトラウマが少し触られるのですが、
覚えていない方は『4章 黄土色の化身』を参照致します。
まぁ、一言で言うならヨグは強姦された過去がある。
それだけです(それだけ?)・・・
◆
時は少しだけ遡る・・・
「────アザートさ〜ん?何処にいますか〜?」
ニャルラにアザートを探してくれと頼まれたヨグは館を散策していた。
邪眼を使用して微かだが、反応がある場所・・・つまり、アザートがある場所は把握できてはいるが、まだヨグはそこに辿り着けてはいない。
この館は少々入り組んだ構造になっている為、目的地に行くのに余計な時間を費やす事になってしまっている。
キィィィィィィィィン!!!
「────ッ」
そんな中、先程から爆発音やら金属音などが先程までいた場所から聞こえてくる。
その音が意味する事、それ即ちニャルラとシェリー(仮)の戦闘が過激化しているという事。
「・・・ニャルラさん、大丈夫ですかね。さっきからすっごい音が鳴り響いているんだけど・・・ううん!今、僕がすべき事はニャルラさんの心配じゃなくてアザートさんを探す事!」
そうヨグは自分に言い聞かせるように呟き、再び歩みを進める。
・・・が、しばらく歩いていると鼻を刺す異臭が漂い始めて来た。
最初は気のせいかと考えていたが、その臭いは歩を進めるにつれて増すばかり・・・
「(血な匂い?・・・いや、なんか違うな・・・でも、何処かで嗅いだ事のあるような・・・うっ!何だこれ!臭いがキツい!)」
普通ならすぐにこの場所から離れたかったが、運の悪い事に異臭の元とアザートがある場所はどうやら同じのようだ。
ヨグは吐き気を催すような匂いに若干顔を歪めながら、歩を進める。
異臭は増していく・・・
「(でも・・・あれ?何で?・・・震えてるんだ?)」
震える身体を自らの意思で抑えつけながら、ヨグは歩をさらに進める。
異臭は更に増していく・・・
「・・・はっ!・・・はっ!・・・はっ!・・・」
呼吸が乱れているのを必死に抑えながら、ヨグは歩を進める。
異臭がどんどんと増していく・・・その匂いは強く、濃くなっていく・・・
そして・・・ついに────
「(・・・あの部屋か・・・あの部屋にアザートさんが・・・ようやくこの場所から離れられる!)」
部屋のドアは既に壊れてはいるが、中の様子はここからではよく見えない。
しかし、アザートの反応が確かにそこにある。
アザートがいる部屋を遂に発見した喜びからか、一瞬ヨグの気は弛み、早くこの場を離れたいという想いから足の歩みが速くなる。
その足取りは素早く、部屋まで約10mまであった距離が一瞬で縮んだ。
そして、部屋の様子が見えるほんの一瞬前・・・
ヨグは感じとる・・・そして、漂う異臭・・・
人間の悪意が凝縮された異臭・・・
「(あれ?反応が・・・もう一つ?・・・人間?・・・でも、あれ?・・・あれ?)」
ヨグはソレを見た・・・
「・・・オトコ?オンナ?イヤイヤ!オトコオトコオトコオトコオトコォォォ!!!マタ来タ!今度こロそ挿レテよ!!!ワタシに!ワタシのアソコに!!ネェ!早ク!!!挿レテ!!注イデ!!!白くドロドロノ熱いヤツをネぇネえネェねェ!!!」
今度は逃すまいとヨグを見つけた瞬間、その『人間の女』は這いつくばりながら、ヨグに近付いていく。
女が動くにつれ、白く粘り気のあるモノを己の下半身から垂れ流しながら這い寄ってくる。
それが何なのか?・・・ヨグは何故この臭いを知っていたのか?
ヨグは一瞬で理解した・・・そして・・・
「ウッ・・・オェエェエェエェ!!!ゴホッ!ゴホッ!オェエェエェエェ!!!」
先程まで我慢していたモノが一気に外へと流れ出る。
この『人間の女』の姿・・・
己と同様に強姦された事を肌で知ったヨグはその記憶が一気に蘇る。
信じていた者からされた恐怖の記憶の数々が・・・ その記憶を鮮明に思い出し、再び嘔吐する。
しかし、女はそんなヨグの状態に全く気にせず、這いつくばりながらヨグまで迫り・・・
「・・・レロレロレロ・・・美味ィ・・・ェロェロェロ・・・ックン!!!美味シィィィ!」
あろう事か、ヨグが吐き出したモノをゆっくりと味わう。
その異様な光景にヨグは吐き気を催すどころか、恐怖心の方が勝り、身体が動かないでいた。
その一瞬の隙がヨグにとって命取りとなる。
「・・・ッ!!」
気付いた時には遅かった・・・足を掴まれ、一気に引っ張られる。
そのまま引き摺られたヨグは床を滑り、壁へと叩きつけられた。
背中に走る衝撃に顔を歪めるが、ヨグは視線を女の方へ向けると更に恐怖心を抱く事になる。
何故ならそこには四つん這い状態の女がいたからだ。
「でも、やっぱり〜?私はコッチの方がいいなァァァ?」
女は恍惚とした表情を浮かべてヨグを見て、ゆっくりと四つん這いのまま近付くと、ヨグの下半身へと顔を持っていき・・・
女は口を大きく開け────
「気持ち悪いぞ、女」
ガッ!!
横からいきなりの蹴りに女は真横に吹き飛ばされる。
ヨグは声の主を見て、安堵の表情を浮かべる。
「アザートさん!!!」
心底気持ち悪いものを見たという表情を浮かべたアザートがそこにはいた。
「た・・・助かりました!ありがとうございます!」
「何が『助かりました』だ、何も抵抗もせずにボーッと突っ立っておいて・・・犯されたかったのか?」
アザートの言葉にヨグはハッとする。
アザートが居なかったら、今頃自分はこの女に犯されていた。
そう考えた途端、再び記憶が蘇る。
「ゲェェエエ!!オェ!ゲホッ!ゴホッ!!」
再び嘔吐するヨグにアザートは呆れるようにため息をつく。
「・・・何しに来たのだ?お前は」
「うぅ・・・すいません!ニャ・・・ニャルラさんに・・・アザートさんを探してきてと頼まれて・・・」
「それでそのザマか・・・随分と無様だな」
「すいません・・・それでアレはやっぱり・・・」
「あぁ、あの女の姉だ」
「本当に・・・アレが・・・シェリー(仮)さんの・・・姉」
アザートの言葉を聞いた瞬間、恐怖や気持ち悪さが消えていく・・・
アザートから話は聞いていた・・・シェリー(仮)の姉が誰かによって犯され、人間の尊厳を失わされている事は。
しかし、その話を聞いた時に思い浮かべた『姉』の姿とは似ても似つかないモノ・・・想像の範疇を完全に逸脱しているモノである。
「・・・誰がこんな・・・こんな、人を人と思わないような行為を・・・何でこんな事を・・・」
ヨグは己の拳を力強く握りしめ、シェリー(仮)の姉を見る。
「さぁな・・・まぁ、この女の事は置いといてだ、ニャルラはどうした?」
「ニャルラさんは・・・」
ドゴォォォォォォン!!!
ヨグが口を開く瞬間、爆発音と衝撃が館に轟く。
「ほう・・・戦っているのか」
「はい」
「・・・では、行くぞ」
「はい・・・って、彼女は?」
「置いておけ、ソイツの始末は俺達がやる事ではない」
アザートの言葉・・・その言葉の意味を理解したヨグは力強く頷き、二人はシェリー(仮)の姉を置いたまま、部屋を後にした・・・
◆
ドバァァァァァン!!!
けたたましい銃声が周囲全体に響き渡る・・・
放たれた弾丸は高速回転する剣の僅かな間を抜け、シェリー(仮)の肉体を容易を貫いた。
音源の元・・・ニャルラは視線をやると銀色の装飾銃が一つ。
「・・・随分と苦戦しているようだな?ニャルラ」
「アザート君!良い時に来たね!」
アザートとヨグの到着にニャルラは安堵の表情を浮かべる。
アザートは周囲を見回し、シェリー(仮)の姉を置いて、何があったのかを尋ねる。
「ニャルラ・・・奴は?」
「シェリー(仮)ちゃん、彼女凄いよ!私達と同じ邪神型だニャ〜!それにそれに邪神化まで使用してくるから、どうしようかと思ってたんだよ〜!」
ニャルラの言葉を受けて、アザートはシェリー(仮)の方を見る。
アザートによる弾丸により、シェリー(仮)は腕を弾け飛ばされた事により、未だ立ち上がれずいる・・・
客観的に見れば、アザートの不意打ちが成功したと考えられるのだが、実際は違う。
アザートは確実に胴体を破壊するつもりで弾丸を放った。
確かにその攻撃には殺そうとする意思は込められてはいなかった・・・
身動きを封じればいいと考え、上半身と下半身の分離を狙い、放った一撃。
シェリー(仮)は異形者となっているので分離した所で死にはしない。
しかし、シェリー(仮)はそのアザートの弾丸を視界の端で察知、軌道を瞬時に見切り、僅かに身体を反らす事で肉体のダメージを最小限に抑えた。
その一連の行動をアザートは見ていたのだ・・・故にアザートはシェリー(仮)を強敵であると判断する。
「・・・強いな」
「そう!本当にそう!反応速度もそうだけど、一番厄介なのが100%ポテンシャルを秘める邪神固有武器の複数生成!マジでこれが厄介極まりないよ!!」
ニャルラはアザートに先程までの戦い・・・ニャルラが観察し、能力の発動範囲等を事細かく伝える。
「────ほう・・・生成地点を中心に半径約8mの範囲内で100%を引き出せるか・・・凄まじい能力だな」
「そうなんだニャ〜!私は近接戦は得意だけど、遠距離戦となると・・・ねぇ、あまり手加減できる自信がないんだよね〜。そんな時に君が来た!」
「なるほどな・・・俺の銃ならば、近付かなくとも遠距離からでも攻撃が可能という事か」
「そういう事!!いや〜話が早い!さて、そろそろシェリー(仮)ちゃんの身体も動くようになるし・・・基本はアザート君が装飾銃で攻撃!私とヨグ君の2人が怯んだ彼女に一斉攻撃で無力化!!何か質問ある────」
「必要無い」
ニャルラの作戦説明をアザートは途中で遮る。
「え?・・・どういう」
「少々試したい事がある、俺1人で十分だ。お前達は逃げた男を追えばいい」
「でも!ニャルラさんでも苦戦した相手ですよ!アザートさん1人じゃあ────」
ヨグがそう反論するのをニャルラは手で制する。
「・・・任せていいんだよね?」
「あぁ」
「・・・分かったニャ。でも気を付けてよ、シェリー(仮)ちゃんの成長はまだ底が見えてないからね」
そう話すとニャルラとヨグはアザートに背を向け、この場を後にする・・・
「では、少々遊ばせてもらうぞ・・・女」
不敵な笑みを浮かべる。
次回投稿は金曜日になります。
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