第134話 邪神VS邪神 ① 〜風は吹き荒れる〜
「第二ラウンドと行こうじゃないか」
その言葉と共に両者は消えた・・・
否、両者とも跳んだ。
そして、両者が衝突し合う。
ギィィィィンン!!!
凄まじい程の金属音が辺り一帯を包み込む。
シェリー(仮)から繰り出される数多の斬撃がニャルラの肉体を・・・心臓を抉り出そうと迫る。
しかし、ニャルラはその剣戟の全てを弾き返し・・・攻撃の際に一瞬生じる隙を見逃す事なくこれを・・・
突く!
シェリー(仮)の心臓目掛け渾身の一撃を穿つ。
その攻撃に剣で防ぐ事は出来ない・・・
そう判断したのだろう、シェリー(仮)は防御する事なく一撃をモロに食らい、後方に吹っ飛ぶ。
・・・が、ニャルラの顔は晴れる事は無い。
「・・・硬い」
そして、吹っ飛ぶシェリー(仮)を目で追いながら思考を巡らす。
「(・・・私の殺気に気付いたんだろう・・・剣で防げなくとも、肉体に力を入れる事でダメージを軽減させた。並の異形者では出来ない芸当ニャ)」
ニャルラの額から汗が生成させる。
隙を狙い攻撃を与えたのもニャルラ、単純に強いのもニャルラ・・・
しかし、相手は邪神型・・・ニャルラ自身と同じ強靭な肉体と強力な武器を持つ邪神型。
『その事実が、その事実のみがニャルラの決して揺らぐことのない絶対的自信に小さな風となって吹き付ける────』
それは同時に強者との邂逅を意味する事にも繋がる。
アザートと対峙した時は無かった違和感・・・
いや、それはアザートが殺意を持っていなかった事が原因ではないか?
何年振りに感じる強者からの殺意にニャルラは思考する。
そして・・・
「(・・・まぁ、何はともあれ今は今の事に集中集中!体勢を整えてきたな?さて、次の攻撃はどうくる────)」
『それは突然に風が変わる────』
シェリー(仮)は一度剣を消したかと思うと、再度剣を生成した・・・
2本の剣を・・・
「(複数生成?でも、それは悪手ニャ!)」
ニャルラは生成した事が視認した瞬間、シェリー(仮)の元へと回避等を一切行わずに距離を詰める。
何故ニャルラは剣を生成した事を確認した瞬間に距離を詰めたのか?
それはシェリー(仮)が邪神固有武器を複数生成した事が原因である。
邪神固有武器はその存在が知られてからオリハルコン性武具と並ぶ程の強度と切れ味を誇る武器であった。
何物よりも硬く、何物よりも切れる武器・・・それを一目見れば誰であろうと考える。
量産ができないのか?
オリハルコンはその希少価値から限られた強者しか持つ事が許されてはいないが、もしそれと同格な強さを誇る邪神固有武器が量産が可能ならば、飛躍的に爆発的に異形者を殲滅する事ができるのだ。
しかしながら、結論を先に言えばそれは非現実的であった。
理由は2つ・・・1つは単純に生成した人物と離れると、武器自体が消える点。
もう一つは『質』という点だ。
例えば、邪神固有武器を1つ生成させた時、100%のポテンシャルを持つ武器を生成させる才能がニャルラにあると仮定する(実際にニャルラはある)。
すると、ニャルラが2本目、3本目と順に生成していくと、その武器のポテンシャルは50%、33%というように生成すればするほどポテンシャルは下がっていく。
これは新たな生成した武器のポテンシャルだけでなく前に生成した武器のポテンシャルまでもが依存的に下がる事を意味する。
つまり、邪神型は己の持つポテンシャル100%を武器に変換しているだけであり、2本生成すれば、50%の武器が2本分生成されるという事になるのだ。
よって、邪神固有武器は1本で戦わなければ真価を発揮できないのだ。
二刀流や三刀流で戦いたいのなら、1本目は普通に生成、残りは『蠢くもの』で代用した方が断然にいいのだ。
ニャルラはこの事実を知っているが故にシェリー(仮)の元へと一直線に駆けたのだった。
『しかし、依然として風は吹き付ける────』
ニャルラとシェリー(仮)との距離が約1mを切った・・・すると同時にシェリー(仮)の持つ2本の邪神固有武器がニャルラへ迫る。
「(いける!・・・この距離なら四肢全てを切り落とせる!迫る剣など恐るるに足らない。シェリー(仮)ちゃん!痛むだろうけど、少しだけ我慢してね!)」
ニャルラに映るは既に両腕と両足のみ・・・全てを落とし尽くすのに使用する時間は1秒を切る。
・・・が、
キィィィィィィィィン!!!
耳を・・・鼓膜を勢いよく突き破るかのような金属音が響き渡る。
「・・・え?」
その音は槍と剣の衝突によるものであり、それは当然ニャルラの槍とシェリー(仮)の剣だ。
・・・が、この突然の出来事にニャルラは目を見開く。
何故剣が防いでいるのか?
何故壊れないのか?
何故・・・
ニャルラの思考が完全に停止する事を他所に2本目の剣が襲いかかる。
そして、それが意味する事・・・それは・・・
完全なる隙が生じる・・・
ゾブッ!!!
切り裂かれる肉体・・・そして、鮮血が舞い上がる。
鮮血はニャルラの切り裂かれた腹部から噴出した。
傷口からは肉片が飛び出し、ボタボタと地面を鮮血に染め上げる。
『風は破壊させた────絶対的自信を・・・』
しかし、その一撃により止まっていたニャルラの思考が再び動き出した。
「(・・・クッ!まともに喰らってしまった!それにこの一撃も間違いない、100%の攻撃だ!)」
しかし、ニャルラがそう思考を巡らせている間も2本の剣はニャルラに襲いかかる。
まるでシェリー(仮)の殺意に呼応するかのように、剣は更に攻撃の勢いを増していく。
「(不味い!このまま斬り付けられるのは!)」
ニャルラはシェリー(仮)の攻撃を弾き返えそうとする・・・が、
ズキッ!
その刹那、斬り裂かれた腹部に激痛が走る。
突然の痛みにニャルラは身体をふらつき、地面に倒れる。
そして、その隙をシェリー(仮)は見逃す筈もなく、猛攻がニャルラへと襲いかかる。
「(ヤバい!)」
生命的危機がニャルラの肉体を駆け巡るが、それに対処できる時間がもう無い。
シェリー(仮)の2本の剣がニャルラの首元目掛けて振り落とされ、斬り落とされ────
バキッ!
────る事なく、2本の剣は折れた。
「え?」
先程までの攻撃とは明らかに異なる軟い攻撃・・・いや、脆い攻撃といった方が正しいか?
ニャルラの思考が困惑と動揺で埋め尽くされる。
しかしながら、これは好機と捉え瞬時に体勢を立て直し、シェリー(仮)から距離を取った。
そして、その視界には折れた剣を持ちながらボーッとしているシェリー(仮)の姿を見ながら、自身の身体を再生させながら、ニャルラは考える・・・今のは何だ?
「(いきなり脆くなった・・・いや、まずあり得ない事が起きた・・・)」
そう、100%のポテンシャルを持つ邪神武器の複数化・・・それは本来できる筈がない事象。
にも関わらず、目の前にいるシェリー(仮)はそれを実現させた。
そして、その剣は次の攻撃では脆くなっている・・・
それはつまり、100%の効力が失っているという事。
「(何故できたのかはこの際どうでもいい・・・今、重要なのは何故失ったのか?何が原因であるか?・・・だ)」
時間が原因なのか?
いや、恐らくこれは違うだろう・・・
もしも時間が原因であるならば、シェリー(仮)から攻撃を繰り出してくる筈なのだ。
更に、彼女はニャルラと離れた場所で剣を生成させた・・・時間制限があるならば、ニャルラとの距離はできるだけ近づいてから生成した方がいい。
「(時間制限じゃないみたいだね・・・他にも色々と考えたいけど・・・)」
ニャルラがそう考えている途中、シェリー(仮)は折れた剣を捨て、再度新たに生成する・・・2本の剣を。
しかしながら、生成させたが、シェリー(仮)はニャルラに近づこうともしない。
「(攻撃をしてこない・・・やはり、時間制限はではないか・・・剣の性質が分からない以上、迂闊に近づけないね・・・ならば、近づかなきゃいい話!)」
そう判断したニャルラはシェリー(仮)との距離を保ちつつ、グングニルに力を集中させながら、ゆっくりと腕を引く。
その瞬間、グングニルが紅く輝き出し、その煌びやかさが更に増して行く。
肌から感じる圧倒的な力、それは見るものを恐怖させるには充分な力を秘めていた。
「じゃあ・・・いく・・・よ!!!」
瞬間、ニャルラの突きと呼応するかのように紅い閃光がシェリー(仮)へと襲いかかる。
シェリー(仮)はそれを2本の剣で防ぐが、勢いは衰える事はない・・・少しずつ、少しずつシェリー(仮)の肉体を引き裂きながら後ろへと押していく。
そして・・・
バキッ!
1mほど押された所で、突如として2本の剣が折れ、押し出されるようにシェリー(仮)は飛ばされ、壁に叩きつけられる。
しかしながら、ニャルラの放った紅い一撃は十分に弱められていたので、シェリー(仮)の肉体には傷一つついてはいなかった。
しかし、ニャルラの顔に笑みが浮かぶ。
「(読めた・・・剣の性質が!生成された剣が100%のポテンシャルを発揮させる事ができるのは生成した時点を中心に半径約1m!そして、その距離から離れれば途端に能力が落ちる!)」
この事象をニャルラは瞬時に理解し、シェリー(仮)の行動の意味を導き出す。
「(彼女が剣を生成させたにも関わらず、攻撃してこなかったのは私を誘き寄せる為・・・ならば、生成した地点を把握すれば恐るるに足らない!)」
完全に思考を読み切ったニャルラは再度グングニルに力を集中させる。
そう、もうシェリー(仮)を倒す算段はニャルラに十分にあった。
『誤算があるとするならば────』
次回更新は来週の金曜日(予定)です。
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