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第133話 邪気



時刻は16時────


アザートが初めて館に侵入した時間まで遡る・・・


『・・・これは』


アザートは邪眼を発動させ、シェリー(仮)の姉が居るである部屋を見た。


その目に映るは何やら黒い物体が数個・・・そして、全身が糞尿とドロドロとした白濁液に濡れている裸の女。


その女の肌は傷だらけで、目は虚ろで、ただ一点のみを見つめていた。


そして・・・最も特徴的なのはそのお腹・・・お腹の辺りが膨れていたのだ。


それはまるで・・・中に何かがあるかのように・・・ そう、それはまるで───胎児が女の腹の中に居るように。


『(まさかこの女が姉なのか?)』


アザートに疑問が生じる。


それもその筈、その部屋にはその女しか生きている者は居ない。


しかし、先程までシェリー(仮)は姉であろう者と話をしていた・・・


『(一体・・・どういう事────)』


その瞬間、先程感じた違和感が脳裏に浮かぶ・・・




 * * *


「お姉ちゃん、元気?」


『・・・えぇ、お姉ちゃんは元気よ』


「そう・・・アイツ等に変な事されてないよね?」


『・・・えぇ、大丈夫よ』


 * * *




その違和感は姉の返答であった。


姉の返答全てが一呼吸間を置いてから返ってきていたのだ。


その返答に会話のリズムが感じ取れなかったのだ。


まるで録音していた音声を流しているかのように────


瞬間、アザートに最悪の結末が脳裏を過ぎる。


『(まさか・・・この連中は・・・)』


過ぎる中・・・ふと、女の近くにある黒い物体へと目が行く・・・


・・・が、それは────


『────ッ!』


黒い物体と認識していたモノは物でなかった・・・










































赤ん坊であった・・・


既に死んで何日も経過しているのだろう・・・赤ん坊は酷く腐敗している。


それが1人ではなく、3人・・・いや、この空間には4人の赤ん坊の死体が転がっていた。


その死体の幾つかには明らかに産み落とされてから時間があまり経過していないであろう死体がある。


誰が産んだのか・・・?


そんなモノは分かりきっている・・・分かりきっている事だ。


目の前に広がる非人道的な行為の跡・・・手を下したのは?指示をした者は?目的は?


光景を前に様々な考えが巡る筈であろうが・・・しかし、アザートにはもうそれはどうでも良い事なのだ────



現在────


「・・・ニャルラさん、シェリー(仮)さん無事でしょうか?」


「さぁね・・・でも、もしアザート君の話が正しければ・・・絶望して死を選ぶか、異形化するかのどちらかだね」


「そんなの・・・最悪です」


ニャルラの言葉にヨグは言葉を詰まらせがら答える。


先程まで生が溢れていた者が既に最悪の結末へと片足を突っ込んでいるのだから・・・ しかし、そんな中でもニャルラは淡々と語る。


「でも、その結末はヨグ君・・・君も薄々分かっていた筈だ・・・私達が想定するのは次の段階・・・これが本当に最悪な結末になるか、否かが決まるんだよ」


「・・・異形化した場合の・・・理性の有無ですか?」


「あぁ、その通りだよ」




異形化した者と対峙した場合、もしくは異形化直後の者と対峙した場合・・・


最初に問題へと挙がるのが理性の有無である。


ここで勘違いしてはいけないのがこの問題が殺す殺さないの話をしている訳ではない事だ。


『理性があるから殺しちゃ駄目です、それは人間を殺すのと同義です』等といった倫理的な話では全く無い。


単純に理性の有無が被害の具合を大きく左右するのである。


理性が有る場合は単純な話、己を異形化させた者・・・いわゆる加害者やその親類等を殺すだけである、被害も大して大きくなりもしない。


しかし、その逆として理性が無い者は目に映る人間全てを殺す、己の肉体が壊れるまで全ての者を殺すのだ。


被害が大きくなる事は言うまでもない。


この事実により、理性の有無を見極める事がまず何よりも重要であるのだ。




「やっぱり、理性は保ってて欲しいですね」


「そうだね、じゃないと仲間に引き入れないじゃないしね」


「え!?異形化しても仲間に加えるんですか!?」


「当たり前だよ〜!私達、国境騎士団・バリアントは種族を問わないからニャ〜。それに・・・異形化した方が仲間に引き入れやすいしね〜」


ニャルラのその答えにヨグは呆れる・・・が、まぁ元々自分、ニャルラ、アザートの3人全員が異形者である以上、普通の人間を仲間に加える事の方が違和感が大きかった。


「まぁ・・・何はともあれ、私達はアザート君達が戻るのを待つだ────」


ゾクッ!


瞬間、とてつもなく歪で邪悪なオーラが一帯を支配する。


それはあまりにも途方もなく濃密で禍々しいモノ。


この場にいる者を、理性を、魂を・・・全て呑み込み喰らうような邪悪さと圧力を孕んだオーラ。


それにヨグとニャルラは戦慄する・・・


「な・・・何ですか!この邪気は・・・」


「これは・・・!」


が・・・それに浸る事なく、唸り声を上げているかの如く距離が詰め寄────


「ヨグ君!防御────」


ブツンッ!










































腕が弾け飛ぶ・・・


ニャルラの腕が吹き飛び、ヨグが叫ぶ・・・ そして、ニャルラの腕から噴き出る血が辺りを鮮血で染め上げる。


「ヨグ君、落ち着け・・・私は無事だ・・・が、」


ゆっくりと目の前にいる者に目をやる。


そこにはどこまでも黒く塗り潰された瞳をしたシェリー(仮)の姿があった。


「(どっちだ・・・?)」


ニャルラは考えを巡らせる。


「(肉体に変化は無い・・・ならば、ヒト型か?いや、違う。ヒト型レベルで私の腕を飛ばす事はあり得ない・・・いや、まず私は何で攻撃された?)」


通常の異形者は触手などに己の肉体を変化させて攻撃を繰り出す。


しかし、先程シェリー(仮)から触手のようなものが伸びる素振りは無かった。


「(よって触手ではない・・・ならば、考えれるのは────)」


巡らしている最中・・・それは唐突に生成された・・・いや、再生成と言った方がいいのだろうか?










































禍々しい剣がシェリー(仮)の虚空から生成された。


「邪神・・・型────」


ニャルラの呟きはシェリー(仮)の殺意によってかき消される。


ガ・・・キィィィィンン!!!


次の瞬間、槍と剣の接触音が辺りに響き渡る。


殺気を察知するや否やニャルラは瞬時に己の武器・グングニルを生成して攻撃を防いだ・・・が、


「チッ・・・重い!」


ニャルラは舌打ちをすると同時に剣を受け流し、シェリー(仮)から距離を取る。


「ニャルラさん!」


「あぁ無事だ・・・だけど、まさか邪神型に成るとはね・・・物凄く運がいいね、シェリー(仮)ちゃん」


シェリー(仮)に向け言葉を飛ばすニャルラだが、返事は無い。


「(恐らく意識が無いんだろうね、完全に暴走状態・・・って所か。私達の所に来たのも多分最も近い生物だったからだろう)」


ニャルラはそう思考を巡らす・・・


「(・・・という事はアザート君はやられちゃった訳だね・・・はぁ〜、本当に彼は・・・よし、しょーがない)ヨグ君、アザート君探しに行って」


「え!?でも、ニャルラさんは・・・」


「大丈夫、心配いらないよ。シェリー(仮)ちゃんは私に任せて」


「・・・分かりました!でも、気を付けて下さい!」


「あいよー」


ニャルラが軽くヨグを送り出す・・・と、同時にシェリー(仮)が剣を振るい襲いかかる。


その攻撃を紙一重で避けるニャルラだが・・・


ブシュッ!!


先程戦った時とは擦り傷程度であったが、今では比べ物にならない程の鮮血が飛び散る。


「・・・へぇー、パワーもスピードも人間の時よりも段違いだね。いや、邪神型だから当たり前か」


ニャルラは己の身体から流れる鮮血を見てそう呟く。


「いいね・・・私も本気で対応しなきゃならなくなってきた」


ニャルラはそう呟くと、左手に持つグングニルを強く握る。


「第二ラウンドと行こうじゃないか」


次回更新は来週の金曜日(予定)です。


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