第129話 ブッ潰す!
「─────早く開発しろよ」
そう言いながらシェリー(仮)の部屋から出て行く中年の男がいる・・・オベロンだ。
部屋から出たオベロンは何かを思い出したかのように笑みを浮かべ、足早に何処かへと向かう。
そんなオベロンを背後からじっと見つめる者がいる・・・アザートだ。
「(あのオベロンという男・・・この人間がこの組織のトップってとこか・・・)」
そう考えながらアザートはオベロンの尾行を開始した。
─────それからしばらく歩いた後、オベロンはある部屋へと入る。
社長室と書いてあるが故、オベロンがトップであるというアザートの予想は当たっているようだ。
「(さて・・・どのように入るかだが・・・あそこが良さそうだ)」
そう考えながらアザートはオベロンが入った部屋の外の壁に取り付けられた通気孔らしき場所の前まで移動する。
そして、いきなりアザートの身体はドロドロと黒い液体へと変わっていく。
これはアザートの能力の一つである『黒獣』の応用で、自身の肉体を獣ではなく、液体へと変える。
ズル・・・ズル・・・ズル・・・
黒い液体となったアザートは壁を伝い、通気孔へと入っていく。
そして、オベロンのいる社長室の真上へと移動した所で、小さな穴を空ける・・・これで部屋の様子は真上から覗く事ができるわけだ。
オベロンは社長室の椅子に腰を掛けて、スマホをいじっている。
「(さて・・・どうするべきか・・・)」
アザートは少し考え込んだいた時・・・オベロンは耳にスマホを当てていた。
「もしもし?ボルドさんですか?────あぁ、儂だ。薬の進捗情報を伝えようかとね────あぁ、問題ないよ、完成まで後少しだそうだ・・・これで私も幹部になれますかな?」
どうやら相手はボルドという人物らしい・・・通話しながら、オベロンは笑みを浮かべている。
「(薬・・・は、恐らくあの女が開発している薬の事だろう・・・しかし・・・))」
アザートは薬の事よりもある言葉に引っ掛かる・・・それは、
「(ボルド・・・この名前・・・何処かで聞いたような・・・)」
アザートが引っ掛かている言葉・・・それはボルドという名前である。
この名前を何処で聞いたのか思い出そうとしていると、オベロンが通話を終えていた。
「フフフ・・・薬さえ完成すれば、この儂は世界を牛耳る事さえ可能となるのだ」
オベロンはそう不気味な笑みを浮かべながら、独り呟く。
そんな中・・・
コン コン
「失礼します、オベロン様」
オベロンのいる社長室の扉がノックされ、1人の男が入って来た。
「オベロン様・・・そろそろ、あの女が姉の元へと出向く時間です」
「あぁ、そうだったな。毎日毎日、ご苦労な事だ・・・まぁいい、いつものようにしろ・・・いいな、絶対に悟られるなよ?あの女はまだまだ利用価値があるからな」
「はっ!」
男はオベロンの指示に敬礼をした後、部屋の外へと出て行った。
「(姉・・・なるほど・・・読めてきたな・・・そうと決まれば・・・見に行くか、女の姉を)」
アザートはオベロンのいる社長室から外へと出ていく・・・そして、先ほどいた男の後を追った。
──── 数分後、男はカードキーなる物を使い、部屋へと入って行く。
「(この部屋があの女の姉の部屋か・・・)」
また通気口から侵入しようかと考える・・・が、見渡すもこの辺りには通気口なる物が存在しない。
「どうやって侵入するべきか・・・」
アザートがそう考えを巡らせていたその時・・・前方から足音が聞こえてくる。
「(まずいな・・・)」
アザートは急いで物陰へと隠れ、足跡の主を盗み見る・・・現れたのはシェリー(仮)であった。
「(まぁ・・・当然といえば当然か)」
アザートが立っていた場所まで来たシェリー(仮)は一呼吸間をおき、呼吸が整うのを待ってから男が入っていった部屋とは別の・・・隣のドアを開けて入っていった。
「(うん?この部屋なのか?)」
アザートは不思議に思いながら、その部屋のドアへと近付き、聞き耳を立てる。
侵入する手立てがない以上、古典的な方法でしか中の様子を探る手段がないのだから・・・
それでもアザートは異形者である・・・聴覚は人間の数倍鋭い為、何の問題もない。
「お姉ちゃん、元気?」
『・・・えぇ、お姉ちゃんは元気よ』
「そう・・・アイツ等に変な事されてないよね?」
『・・・えぇ、大丈夫よ』
「(なるほど・・・この声の主が姉か・・・しかし)」
アザートはある不可解な事に気付く・・・
しかし、シェリー(仮)自身は何も感じていない様子・・・
「(単なる思い過ごしか・・・?)」
アザートがそう考えている間にもシェリーとシェリーの姉との会話は続く。
「お姉ちゃん・・・必ず助けるから・・・」
『・・・えぇ、ありがとう。でも、無理はしないでね?」
「えぇ・・・じゃあ・・・また」
そんな会話をしながら、シェリー(仮)は部屋から出て行った。
そして、そのすぐ後・・・今度は例の男が部屋から出て行く・・・
「(あの男・・・シェリー(仮)が姉に会う前に隣の部屋に入り、シェリー(仮)が出て行ってからすぐ後に出てきた・・・そして、先程の会話での違和感・・・何かありそうだな)」
アザートはそう考えるとすぐに2つのドアの前に立つ。
男が入ったドアはロックされており、入る事は不可能(ドアをぶち壊す等の脳筋方法は除く)。
ならば、もう一つ・・・シェリー(仮)が入っていたドアはというと・・・
ガチャ
「フ・・・」
何の障害も無く、開く・・・
その事実にアザートは笑みを浮かべる。
部屋の中は狭い・・・4畳あるかないか・・・とても質素な空間で奥には壁にピッタリとくっ付いた机と椅子・・・机の上にはマイクが置いてある。
しかし、肝心の女の姉が居ない・・・恐らく、このマイク・・・そして、天井に付いてあるスピーカー・・・この2つで姉と会話しているのだろう。
スピーカーはもう一つの部屋・・・つまり、隣の部屋へと繋がっている。
「(隣の部屋に繋がるスピーカー、隣には男・・・そして、姉のセリフが全て、一呼吸してから話し出している事・・・この3つから推測される事実は・・・)」
アザートはある考えに達する・・・
しかし、その考えは最悪と言っていいほどの光景が隣の部屋に溢れている事となる。
目に力を入れる・・・それは邪眼を発動させる為・・・
目が赤黒くなっていく・・・そして、だんだんと物理的障害が消えていく・・・
そして、見える・・・
人間が見える・・・
生きている人間の女が・・・見える・・・
──────
────
──
「────それでそれでどうだったの!スカウトできた?」
「仲間になる気は無いそうだ」
「えぇ〜!そんな〜・・・アザート君のスカウトの仕方が不味かったんじゃないの?高圧的な態度取ったんじゃないの?『仲間にならないなら死ね』とか言ったんじゃないの?」
スカウト失敗という事実に不満が溢れ出るニャルラ。
「俺の所為にするな・・・お前が言っても無駄だ、あの女にはあの組織に残らねばならない理由が存在していた、それだけだ」
「ええ?何それ?」
「恐らく、姉を人質に取られているのだろうな」
「え!?それどういう事!?」
驚くニャルラとヨグにアザートは今日見てきた事を話す・・・
「何・・・それ?・・・え?・・・は?」
「それ・・・本当・・・なんですか?」
あまりの衝撃的な内容にニャルラとヨグは受け入れられないといった様子だ。
無理もないだろう・・・この事実は人間の悪意を集結したモノと言っても差し支えない行為だ。
人を人とも思う事のない者達が人の尊厳を踏み躙っているものなのだから・・・
「クズだね・・・人間のクズだニャ」
「そうですね、この際シェリー(仮)さんには申し訳ないですけど、仲間とか関係無しにその組織を潰したいです。そんな組織潰れてしまって構わないです」
「おっと!いい事言うね!ヨグ君も久々に殺る気みたいだし・・・どうする?アザート君」
「それを決めるのは俺じゃない・・・お前だろ?」
「ニャララ、そうだね・・・うん、
ブッ潰しに行くか・・・その組織全てを!」
次回投稿は来週の金曜日になります。
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