第12話 貴方と海に・・・
2章、最終話です。
「ここで、間違いなさそうだな」
アザートは蟲惑がいるであろう近くの林に着くと、そこは異形の空気で満ち溢れていた。
そして中から微かに男の悲鳴の様な声が聞こえてくる。
声がする方へ向かうと異形者が男を襲っていた。
おそらく蟲惑だろう・・・
が、昨日会った時の彼女の面影は既に無い。
今はただただ醜く、悍ましい姿へと変貌してしまっていた。
アザートが見ていると、男はこちらに気づいたのか恐怖混じりの声で助けを求め出した。
「た・・・助け・・てくれ・・・」
その言葉で蟲惑もこちらに気づいたのか顔を・・・
ぐるんっ
と、回してアザートに視線を移した。
が、反応は無く男を見つめ直す。
「た・・頼む・・・早く・・助けて・・くれ」
男はまた、頼み込んでくる。
当然、アザートの答えは・・・
「何故、俺が貴様みたいなクズを助けないといけないんだ?意味が分からんな。・・・・・・マリ、思いのままに・・・殺せ」
その言葉が聞こえたのか、体から触手が何本も伸び、それを形状を針に変え・・・
男をアイアンメイデンの様に突き刺した。
「ーーーァァァァァッッッッ!!!」
男の声にならない悲鳴を無視して、蟲惑だったモノは男をグチャグチャにした。
そして、腹の辺りを大きな口に変形させ・・・
ゴクンッ
飲み込んだ。
その間、アザートは
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
拍手をしていた。
まさにスタンディングオベーションだと言わんばかりに拍手をする。
そして、拍手を止めると、蟲惑はこちらに近づいてきた。
「(・・・さて、銃はこの住宅街・・音が出るから使えんな。
なら素手か・・・)」
アザートがそう考えを巡らしていると、1メートル先で止まった。
「ナ・・名前・・・呼ンデ・・クレ・・・テ・・ウレシ・・カッタ」
途切れ途切れに蟲惑が話してきた。
「(───ッ!? 正気があるのか!?)」
そう思ったが、今も体が肥大化しし続けている。
おそらく、もうすぐ正気も失うだろう。
「サ・・先ニ・・行ッテ・・・ゴメン・・ナサ・・イ・・・来テ・・クレ・・テ・・ウレシ・・カッタ・・・最期・・ニ・・・オ兄ー・・・サン・・ニ・・会エテ・・・ヨカッ・・タ。
オ願・・イ・・私・・ジャ・・ナクナル・・前ニ・・・殺シテ」
「・・・・・・」
アザートは無言で左手を構え、力を入れる。
「アリガ・・・ト、オ兄ーサンに・・出会エテ・・・本当・・ニ・・ヨカッタ」
そう言い終わると同時に、アザートは蟲惑の心臓を突き刺した。
すると、耳元から昨日の蟲惑の声がする・・・
「あぁー、お兄さんと一緒に海・・・行って見たかったなぁ」
─────アザートが動かなくなった死体を見ていると、
プルルルルルルルル
「何だ?────大丈夫だ、後一時間半もある。────ああ、すぐ行く、と言いたいところだが・・・用事が出来てしまってな」
そう言って、アザートは死体から骨を一つ拾い上げた。
「────大丈夫だ、フライト時間には間に合わせる」
ニャルラはまだ言いたそうだったが、アザートは電話を切り、素早く死体を土に埋めて林を抜けた。
─────
───
──
羽田空港搭乗口
「遅いニャ、遅すぎるニャ!後、30分でフライトなのにアザート君は何しているんだニャ」
「落ち着いてくださいよ、ニャルラさん。アザートさんは絶対来ますよ・・・多分」
そうニャルラさんを宥めていると、アザートさんが来た。
「遅すぎるニャ!君は時間というものを理解しているのかニャ?」
ニャルラさんが怒っている。
「間に合っているではないか、何が不満なんだ?おい、不満があるのか?」
「えっ・・いやっ・・・あの・・その」
突然話を振ってきたので反応が出来ない。
「ほら見ろ、不満なんか無いと言っている」
「どこがニャ!ヨグ君に君が話振っても答えないニャ!もう少しで君を置いて行くところだったんだよ!君はホーム○アローンのケビン君になりたいのかニャ?」
いや、ニャルラさん・・・そこ○にしても・・・
「いいから早く乗るぞ。俺は疲れているんだ、飛行機では寝かせてもらう。起こしたら殺す」
そう言って、アザートは飛行機に入って行く。
「なんで遅れて来た君が最初に入って行くんだニャ」
ニャルラさんもアザートさんに続いて入って行き、それについて行く僕。
でも、何故だろう?
アザートさんから潮風の匂いがする。
海でも行って来たのかな?
──────
────
──
人があまり近づきそうでない、羽田空港駅近くの海辺。
その場所に小さく簡易的な墓。
そこに供えられているとは花と一緒にもう一つ・・・
足が石に引っ付いて二度と離れそうにない黒猫のぬいぐるみが佇んでいた─────
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