第125話 一握りの天才
「随分な平等主義者ね・・・世界の差別主義者に聞かせてやりたいくらいだわ」
女は皮肉混じった言葉をアザートにぶつけるが、それを無視して、銃を女に撃ち放つ・・・
しかし、女は弾道が全て見えているかのような身のこなしで弾丸全てを避けた・・・そして、アザートの懐へと入り込む。
「終わりね」
女は剣を横一線に振るい、アザートの腹を切り裂こうとする・・・が、アザートもそう易々と隙を与えるはずもない。
瞬時に銃の銃身で女の剣を受け流す。
「へぇ・・・」
女はアザートの行動に驚きの表情を見せるも、すぐさま剣を上に掲げ振り下ろす────
が、それもアザートは後方に避ける事で回避!
逆に銃を女に向けて更なる追加射撃を与える。
しかししかし、これも女は弾丸全てを回避────
────した先にはアザートが既に先回りしていた。
「─────なッ!」
女は急いで横に飛ぼうとするが、既に遅い・・・避けられる時間はなかった・・・
アザートの銃は既に女に向けられていたのだから・・・
「中々良い動きだったぞ・・・女」
バァァァァァン!!!
避けられないと感じた女はアザートの銃から放たれた銃弾を剣で弾く・・・が、それでもやはり全ては捌き切る事など不可能・・・
数発が女の体を貫いた・・・
「グッ!」
女は苦悶の表情を見せながらその場に崩れる・・・が、瞬時に態勢を立て直す。
「・・・ふぅ・・・ふぅ・・・」
貫かれたのは横腹と左肩・・・血は白衣に染み込み、赤く染まる・・・が、女は笑みを浮かべている。
そんな女を見てアザートは目の前にいる1人の人間を高く評価した。
「(あの体勢から致命傷を避けるとは・・・素晴らしい身体能力だな)」
「・・・なるほどね・・・私が想像してた以上にあなたって厄介ね・・・異形者さん」
「ほう・・・俺の事を知ってるのか?」
アザートは意外そうに女を見た。
「えぇ・・・勿論よ、裏社会じゃ有名人よ・・・龍鳳カンパニーを潰した異形者ってね」
「フッ・・・そうか・・・」
「まぁ、あなたの実力も分かった事だし・・・ここからは本気で戦うとするわ」
女はそう言うと剣を構え、アザートに向ける。
しかし、アザートは対照的に銃を下ろした・・・笑みを浮かべながら下ろした。
「人間の割に中々やるお前に一度チャンスをやろう・・・ほら、攻撃してこい・・・俺は防御も避けもしない」
「・・・中々の自信ね、その余裕に満ちた顔が次にどんな顔になるか・・・今から楽しみよ」
「フッ・・・来るがいい」
「いいわ・・・お言葉に甘えて」
女は先程とは比べ物にならない程、剣に力を込めた。
そして、アザートに突進しながら剣を上段から振り落とす。
しかし、アザートは動かない・・・ただ見ているだけ・・・それも微動だにせずにいる。
そのアザートに向かって剣は振り下ろされた────
アザートには絶対の自信があった・・・
アザートには絶対に傷一つ付くことすらないという自信があった・・・
それは数撃打ち合う中で女の剣がただの鉄の塊であると分かったからだ。
知っての通り、ただの武器では弱個体の異形者にしかには効果がない。
ましてや、アザートの様な邪神型など傷付ける事など不可能である。
そんなアザートのような強個体の異形者にも対応できる武具・・・それが『蠢くモノ』『邪神固有武器』・・・そして、『オリハルコン性武具』だ。
しかしながら、女の持つ剣は先程述べた通り、前述した3つにどれも当てはまらない・・・下手すれば、後数撃アザートの銃と打ち合うだけで使い物にならなくなる代物・・・
そんなモノで攻撃されようともアザートにとっては痛くも痒くもない。
故に、アザートは己と女の力の差・・・異形者と人間の力の差を見せつける為にわざと攻撃を受ける事にしたのだ。
女に、己がどれだけ脆弱な存在であるかを理解させる為に・・・
女に、己がどれほど愚かな戦いをしているのかを理解させる為に・・・
アザートはノーガードで女の攻撃を受ける事にしたのだ。
「(女、お前は強い・・・だが、その強さは異形者からしてみればどれほど無力であるか・・・教えてや────)」
瞬間、アザートは嫌な予感を感じる・・・
この予感はアザートにとって・・・一度何処かで感じた事のある予感であった・・・
アザートの額から汗が流れる。
「(この感じ・・・は・・・以前・・・何処かで・・・)」
この感じは以前何処で感じられたのか・・・アザートは目の前の女が近づく事など無視して思考を回転させる。
「(何処で・・・いや・・・いつ・・・感じた・・・この予感は・・・)」
アザートは考える・・・考える、考える、考える・・・
その途中でも嫌な感じがどんどんとアザート自身に近づいてくる事が肌で感じられる。
「(これは・・・あの時の・・・あの屋敷での・・・アルバート・・・・と対峙した時と・・・同じ────ッ!?)」
その瞬間、瞬時目を見開いた・・・
この感覚はアルバートと初めて対峙した時と同じ感覚であった・・・
アルバートがアザート自身に『蠢くモノ』を発動させた時と同じ感覚であった・・・
あの時・・・アザートが感じた感覚は・・・
女はアザートへゆっくりと剣を振り落としていく─────
『死』だ・・・
* * *
数週間前 CRU施設 ドイツ支部
城下町で戦う異形・ベラと異形・メイ、スミヤ、ナイ、他12名との戦いをアザート一向とベライザは別のモニター室で見ていた。
『おい、アイツらが持っている武器は何だ?』
『うん?メイ達が持ってる武器・・・ああ、「蠢くモノ」の事かニャ?って、あれ?アザート君あの武器知らないの?』
『いや、大まかには知ってるが、詳しくは知らなくてな』
『フフフ、アザートさん・・・気になりますか?気になりますよね!そう気になるんですよ!』
アザートの質問に対してベライザは食い気味に反応する。
『あの武器は並の武器では倒す事が困難な異形者を人間と同じように殺す事を可能にした武器・「蠢くモノ」よ!』
『・・・それは知ってる』
ガクッ!
せっかくドヤ顔までしてカッコつけたベライザであったが、アザートの言葉を聞いて、ベライザは肩を落とす・・・顔は赤くなっているようだ。
『じゃ・・・じゃあ!何が知りたいのよ!』
『あの武器の使用条件だ・・・あの武器は異形者から造られるのであろう?・・・そう簡単に渡していいのか?個数も限られてはいるのではないか?』
『ああ・・・そっちね。それなら心配しなくてもいいわよ。あの「蠢くモノ」は私達とEF協会の共同開発で産まれた武器だけど、まぁ、ぶっちゃけ、私達が産み出したって言っても過言じゃないからね、いわゆる製造者特権というやつで私達が優先に使ってるのよ』
『なるほど・・・いわゆる職権濫用って事か』
『違うわよ!!』
アザートの言葉に怒り、怒鳴るベライザであったが、それを無視して話し出すアザート。
『まぁ、お前の話聞く限り、あの武器以外では異形者に攻撃を喰らわせることは出来ない・・・と』
『人の話を・・・はぁ・・・まぁ、概ね合ってるわ・・・他2つは一般人じゃあ絶対にお目にかかれないぐらい貴重な武具ですのでね・・・まぁ、「蠢くモノ」自体もアルカディア傘下の人以外には手に入らないけど』
『では、それらを持たない者達はどう戦ってるんだ?確か民間ハンターなる者がいるようだが・・・』
民間ハンター・・・詳しくは『2期 7章 黒と銀の処刑人』にて参照
『民間ハンターの規定として弱個体の異形者としか戦っちゃ駄目っていう暗黙の了解があるのよ・・・まぁ、大体のハンター達が強さを見誤って死ぬけど』
『話聞く限り、「蠢くモノ」のような武器を持たなければ、100%死ぬから・・・か』
『いやね、それでも通常の武器で倒しちゃう天才がいるけどニャ〜』
『ちょっと!ニャルラさん!話を複雑しないでくれます!?それは本当にごく僅かな天才ですから!』
ニャルラの言葉など信用するなと言わんばかりに文句を言うベライザ・・・だが、その言葉に興味を持たないアザートではない。
『ほーう、そんな者がいるのか?』
『うんうん!ほら、アザート君も知ってるでしょ・・・アルバート君、彼だよ』
『ほう、アルバートが・・・』
アルバートの名前を聞いて納得の表情を見せるアザート・・・
確かにアルバートの剣術と身体能力であれば、異形者など敵ではないだろう・・・
『しかもだよ!アルバート君が倒したのは強個体で、なんと獣型なんだよ!しかもしかも、中学生の時だよ!凄くない!』
『・・・中学生!』
『まぁ・・・確かに初めて聞いた時は・・・私も耳を疑ったわ・・・授業中に獣型が現れて・・・アルバートさんは給食室の包丁で惨殺したとか・・・』
先程までのふざけた雰囲気は何処へやら、ベライザは目を細め、真面目な表情をしていた。
『まぁ、ベライザも言ってるけど・・・本当に一握りの人間だからニャ〜、アザート君もあんまし気にしないで良いニャ────」
* * *
これは・・・ドイツにいた時の会話?
何故今になって思い出────
────ブツンッ
鈍い音と共に何かがアザートの前に舞う・・・
「(何だ・・・何が舞ってい────ッ!)」
アザートの目に映る宙を舞う何か・・・
それは・・・
「な・・・何だと・・・!」
アザートの両腕だった─────
次回投稿は来週の水曜日になります。
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