第120話 彼女の敗北
思った以上に長くなってしまった事により、
最終回は明日投稿します。
『『メイ!!!今がチャンスだ!!!いけぇぇぇ!!!』』
ナイとスミヤがそう叫ぶや否や一瞬でメイは腕の拘束から抜け出す。
右手に掲げるは剣・・・
『これが!私達の!人間の力だぁぁ!!!』
ゾブッ!!!
それから30秒が経過・・・
首が斬り落とされたベラの身体は動く気配・・・いや、生気が感じられない。
モニター越しから見えるこの光景から分かる事・・・それすなわち・・・
「あちゃー・・・あちゃちゃちゃちゃー・・・ベラちゃん・・・負けちゃったニャー」
「・・・そのようね」
ベラの負け・・・つまり、死である。
異形は異形者とは身体構造が異なる・・・
異形はその構造上『頭』に生物の核となるモノ全てが集結している。
それは頭が破壊されてしまう、もしくは切断されてしまうと全ての生命活動・・・そして再生能力が失われてしまい活動終了してしまうのだ。
逆に言えば、頭を破壊しない限り(精神力があれば)異形は無敵とも言える。
異形者の場合は核となる部位が身体中に埋め込まれている事から、例え頭を破壊、切断したとしても再生する事(それでも再生するのは全体の半分の個体)が出来る。
前述した通り、異形は頭を破壊しない限り無限に再生する・・・これは戦いにおいてはフェアではなくなる。
この情報を知っていると知らないとでは異形討伐の難易度が激変するからだ。
もし頭が弱点であるという事実を知らずにメイ達がベラと戦っていた場合・・・十中八九ベラが勝っていた。
しかし、これは全くもってフェアな戦いとは言えないのだ。
フェアな戦いとは互いに死と隣り合わせの状況において初めて成立するモノであり、このままでは公平さに欠ける・・・
では、頭が弱点であると公言すればいいのだろうか?
いや、それもまた公平ではない。
この情報はベラにとっては絶対的な武器になるのだから。
この情報を勝手に敵に漏らされてしまえば、たまったもんじゃない。
ならば、何をすれば良いのだろうか?
何をすれば公平な戦いになるのだろうか?
考えに考え抜いた結果・・・G・ティーチャーはそれとなく、自然な形でメイ達に伝えた。
いつG・ティーチャーは伝えたのか?
それはメイ達に勝負の概要を話し、スミヤに蠢くものについての説明した時まで遡る・・・
* * *
『確かに不意をつかれたわよ、スミヤ。でも、頭狙ってくる事は織り込み済みなのよ。だから、頭狙われても致命傷にならない武器を与えたのよ』
そんな・・・スミヤが頭を狙ってくるであろう事まで読んでいたなんて・・・
『まぁ、この中のどの武器を試しても私レベルには致命傷にならないわよ。ただただ痛いだけだから・・・だから』
* * *
頭を狙われても致命傷にならない武器を与えた・・・
この中のどの武器を試しても私レベルには致命傷にならないわよ
言い換えると、これは頭を狙えば致命傷・・・殺す事が出来ると暗に意味しているのだ。
これがこちら側から弱点の情報について教えられるギリギリのライン・・・
この程度の隠れた情報にも気が付かない挑戦者など、そこまでのレベル・・・殺されても文句を言われる筋合いはない。
何せコッチは詰んでしまうと思われる状況を消してあげているのだから・・・
そして、今回のメイ、スミヤ、ナイの場合・・・この隠しメッセージに気が付いた。
故に負けイベントではなくなった・・・いや、それだけでなく・・・勝った。
勝ったのだ・・・張り巡らされた情報を見落とす事なく、情報の意図を理解して、勝ったのだ。
確かにベラは素晴らしかった・・・
個人個人として比べてしまえば、全員ベラ以下の能力の生物・・・普通なら確実にベラの勝利であった。
しかしながら、この勝敗を分けたのは個人の力では無い・・・
メイ達は個人の力ではなく仲間と力を合わせたのだ。
仲間と協力する力だ・・・仲間との絆の力で絶対的な力の差があるベラに勝利したのだ・・・
いくら強くても1人では勝てない・・・仲間と共に戦う者には勝てない────
と、言うとでも?
違う・・・違う・・・全然違う・・・
仲間との絆の力?
全くもって違う・・・見当違いもいい所・・・
ベラが負けた理由?
そんな事は一つ・・・たった一つに決まっている。
それは─────
「あ!アザートさん、動きましたよ!今から動き出すみたいです!」
「うわ!アザート君、ドス黒いオーラめっちゃ放つじゃん!明らかにさっきまでの空気と違うよ!モニター越しですらビンビンに感じるニャー」
「えぇ・・・確かに・・・これは・・・凄い・・・」
アザートから放たれる黒々しいオーラを初めて目の当たりにしたベライザは目を見開いていた。
ベライザはこの時までアザートの実力について半信半疑でいた。
噂は前々から耳にしていた────
曰く、ニャルラとの邂逅時にニャルラに本気を出させた男・・・
曰く、EF協会の鬼札・アルバートに勝った男・・・
曰く、龍鳳カンパニーの龍鳳をアルバートと共にだが、倒した男・・・
数え上げればキリがないぐらい噂されている男・・・
しかしながら、ベライザは己の目に映る光景でしか信じぬ女・・・
例えそれがどんなに信用できる者から情報であった所で最終的に信用するかどうかは己の目に映った真実のみ・・・
「(アザートさん・・・ついに彼の実力が分かる・・・ニャルラは彼の事を推しているのですが・・・随分と禍々しいオーラを放つのですね・・・はてさて、どれほどの男か・・・)」
しかし、数分後・・・ベライザの余裕が消える事となる────
◆
「・・・哀れだな」
アザートはベラの死体を見つめながら呟く。
「あれだけ油断はするな・・・手を抜くな・・・と言ったにも関わらず、手を抜き殺されるとは・・・哀れ・・・いや、哀れみを通り越して呆れすら感じさせるな、貴様は」
ベラが負けた理由・・・
それはベラが手を抜いた事であった。
覚悟は決まった・・・そんな事を口に出したり、頭では考えてはいた・・・
しかしながら、無意識に頭の片隅には『殺したくない』そんな言葉が埋め尽くされていたのだ。
それをアザートは最初から見抜いていた・・・戦う前から、戦っている最中もヒシヒシと感じていた。
そして、それにアザートは怒りを感じていた。
「使えない奴だ、死んで当然だ・・・」
「待て!!!」
そんなアザートの言葉に我慢ならなくなったのかメイが叫ぶ。
「なんだ?何か気に触る事でも言ったか?」
「謝って!!!この人に!!!謝って!!!」
「ヒト?・・・コイツはヒトじゃないぞ?」
「うるさい!!!黙れ!!!お前みたいな奴にこの人の何が分かる!!!お前は言ったな・・・この人は手を抜いたと・・・つまり、この人は本当は戦いたくはなかったんじゃないの!!!」
メイは必死になって声を荒げる・・・
しかし、アザートの心にはどの言葉も響かない。
「さぁな・・・俺はエスパーではないんだ。コイツの真意など知る由もないし、知りたくもない」
「ア・・・アンタ!!!仲間だったんじゃないの!!!この人と!!!同じ元人間じゃないの!!!」
「仲間?元人間?・・・俺は一度も思った事はない」
「な・・・何を言ってるの?」
メイは本当に何を言っているか分からなかった・・・目の前の男が本当に何を口走っているのか分からなかった。
アザートからしてみればどれも本当の事を言っているだけに過ぎないのだが、メイにはその意味が分からない。
「一つ教えといてやろう。俺が最も軽蔑する者・・・それは力があるにも関わらず、手を抜き負ける者だ。優しいから手を抜く?いや違う、馬鹿だから手を抜くのだ」
その言葉・・・アザートのその言葉にメイの怒りが爆発する。
「────まえは・・・お前だけは・・・殺す・・・お前のような奴は生きてちゃいけないんだ」
殺意を全力でアザートにぶつける・・・ナイやスミヤ・・・そして、家族達も同じ気持ちみたいだ・・・目の色が先程とは違い、冷たい色を感じさせるほどだ。
しかし、アザートには効果が無い。
「フッ、生きてちゃいけないか・・・俺と対峙した者は不思議とそう口にする・・・何故だろうな?まぁ良い、無駄口はここまでだ。俺を殺せば晴れて貴様らは自由の身だ。素晴らしい外の世界が待っているだろう・・・だが、俺から一つ言っておく・・・諦めて降参しろ、それがお前達の最善の策だ」
「最善?最悪の間違いだろう?バケモノが」
「そうだね、おまえを倒して僕達は自由を手にする!」
ナイとスミヤがそう答える・・・言葉には怒気が混じっている。
「フッ、自由を手に入れる・・・か。どうやって?」
「こうやってだ!!!」
ナイのその言葉と共にメイ達全員、黒の男に銃を構える!
そして・・・
“““ダァァァァァァァァァァァァン”””
けたたましい銃声が城下町中を覆う。
例えガードしたとしてもこの弾幕の数・・・通常ならば受け切れる事なんて無理に決まっている。
しかし・・・
「─────ニィィィィィ」
ゾクッ─────
全身を弾丸で撃ち抜かれているにも関わらず、アザートの表情は笑顔で満ちていた。
ガードなんてしない・・・
避けようともしない・・・
攻撃態勢にも入らない・・・
アザートはただ笑う─────
アザートの肉体は弾丸に触れる度飛び散っていく・・・
右腕が飛ぶ・・・左腕が飛ぶ・・・
しかし、アザートは不敵に笑う─────
内蔵が剥き出しになっていく・・・
しかし、アザートは心満ちているかのように笑う─────
右脚が飛ぶ・・・左脚が飛ぶ・・・
もう、アザートの身体はダルマ状態だ・・・しかし、地に伏せる事なく、メイ達に笑みを浮かべ続ける。
その異様すぎる光景を前にメイ達の頭の中にある言葉を埋め尽くされる・・・
不気味、薄気味悪い、奇奇怪怪、この世のものとは思えない、底気味わるい、気味わるい、きみ悪い、底気味悪い、うす気味悪い・・・
そして・・・
────怖い
メイ達は既に恐怖に支配されて、身体は既に硬直状態だった・・・
動けない・・・いや、動く事すら恐怖・・・
唯一動いているのは『引き金を引く指』と『リロード時』その2つだけ・・・
メイ達はただひたすらに弾丸を撃ち尽くす機械へと成り果ててしまった。
それは何故か?
撃ち尽くし続けないと何されるか分からないからだ・・・
殺される?いや、もっと根源的な何かをしてくるような瞳・・・そして、笑み・・・
それを前にして誰が正気でいられようか?
頭の中の不気味という言葉から恐怖に移り変わる音が聞こえる・・・
メイ達は一心不乱に撃ち続ける・・・
この恐怖から逃れる為に─────
今度こそ次回で8-裏章最終話
負けたメイ達の運命は?
次回投稿は明日になります。
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