第112話 恐怖・・・差
「──── 家族ハ殺サセナイ!!!!」
そう叫ぶベラは既に人間の姿ではなく、身体のあらゆる部位が人外のモノへと変貌していた。
腕────
肉が爛れて、丸見えとなった6本の骨は蟷螂の鎌のごとく鋭い刃の姿へと変化している・・・
胴────
剥き出しの肉肉しい内蔵がグチョグチョと音を立てながら蠢き出し、動くたびに黒々とした肉片が血に堕ちる・・・
脚────
腕と同じようなものが数多に地に這いずり、その数10や20はくだらない・・・
しかし、ある一点・・・これまたある一点のみがベラをベラたらしめる部位が存在する。
それはルー・・・そして、レナと同じく、『頭』・・・
頭だけが元の状態であった・・・恐らく、これは『異形』の特徴なのだろう。
同時に発せられるは溢れんばかりの殺意・・・その全てがある人物へと注がれる・・・
しかし─────
しかし、しかし、殺意を向けられている人物、アザートは動じない・・・いや、動じないどころか・・・笑みを・・・深い深い笑みを浮かべていた。
「ほら見たか?見たことか?男女とパープル女」
「「ほぇ?」」
突然の呼び掛けに2人とも素っ頓狂な声を上げる。
「何が『イメージ』だ、くだらん。貴様がそれで異形化出来た所でそれが万人に通じるとでも思っているのか────」
「ウガァァァァァァァ!!!」
アザートがヨグとレナの2人に話しかける最中ではあるが、そんな事はお構い無しに攻撃を開始するベラ・・・
6本となった腕を自在に操りアザートを斬殺にかかる・・・しかし、アザートはその全てを躱す。
「例え異形者から産まれたモノであり、人間ではないバケモノであろうとも本質は同じく、コイツは『異形の者』だ────」
「何デ!・・・何デ当タラ無イノ!!!当タレ当タレ当タレ当タレ当タレ当タレ当タレ当タレ当タレ当タレ!!!」
攻撃は激化する・・・しかし、肉体の一部が斬り落とされる────どころか、擦り傷1つすら付けられていない・・・
「人はいつどんな時に異形化する?答えは簡単だ────」
「当タレ当タレ当タレ当タ────ヒッ!」
見えた・・・
いや、見えてしまった・・・
攻撃が開始してから数十秒────
一度たりともベラへと移らなかったアザートの目が・・・
遂にベラに視線を移した。
瞬間、ベラは恐怖の感情を身体全体から感じ取る。
アザートが発する凍てつく負のオーラが身体中を強張られたのだ。
「(ヤバい・・・攻撃・・・される・・・距離を・・・距離を取らないと─────)」
「怒りや恐怖といった負の感情が1つになった時だ」
ガガガガガガ!!!
瞬間、合計6発の銃声が鳴り響く・・・
アザートは既に銀の装飾銃を生成させていたのだ。
では、それで何を撃ったのか?
その疑問がアザート以外の全員の頭によぎる中・・・宙にあるモノが舞うのを目撃する・・・
それは太陽の光で何かまだ分からない・・・
数にして約5・・・いや、6・・・何か・・・何か・・・
腕だ・・・
あるモノ腕が6本飛んでいるのだ。
先程の銃声で6発同時に着弾させて6本の腕を撃ち破いたのだ。
────誰のモノか?
ここまででまだ時間にしてまだ1秒すら経ってはいないのだ。
撃ち抜かれた本人は未だ何が起こった分かっていない・・・
しかし、答えは簡単だ・・・ほら、もう腕の持ち主が己の腕が全て無になっているのに気が付いた。
ほら、その事象に気が付けば瞬間に痛みが脳へと伝達される。
ほら、口が開きかけている・・・痛みのあまり口が開きかけている。
ほら─────
「Gyaaaaaaaaaaaa!!!」
うめき声を上げながらベラはのた打ち回る。
動けば動くほど千切られた断面から血が留めなく流れ出る。
そして、ものの数秒でベラの周りが血の海へと化した。
「中々のパワーとスピードだ。並の異形者以上の力はある・・・が、その程度だ。ただ並の異形者よりパワーが凄いだけ、ただスピードが速いだけ・・・その程度で俺を殺す?優秀と聞いていたが、これで優秀なのか・・・存外異形とやらはレベルが低いな」
「あはははは・・・レベルが低い」
自分とベラの両方を見ながら呆れたに話すアザートを見て、渇いた笑いを出すレナ・・・
「さて、何故貴様がこれほどまでに俺と差があるか・・・分かるか?」
「・・・・・・」
アザートの問いに対して答えないベラ・・・これは痛みから声が出ない訳ではない。
痛みはだいぶ引き、声も上げるほどでもなくなり、腕も徐々にだが再構築され始めている・・・
しかし、再構築されつつあるのは腕が2本のみ。
数多く構築された脚も既に2本だけとなっている。
とどのつまり、ベラの姿は人間の姿へと・・・元の姿へと戻っているのだ。
では、何故答えないのか?
答えは単純明快・・・アザートの事が怖いからだ。
己が例えこれから何年も何十年も闘いの修行に明け暮れたとしても決して覆すことの無い差・・・
たった一瞬の攻撃であったが、ベラが優秀であるが故に感じ取ってしまったのだ。
下手な事を言えば殺されるのは2日前にレナが殺されかけたのを見れば明らかなのだ。
しかし・・・
これが悪手である事を黙った直後に気が付いてしまった。
ゆっくりと・・・ゆっくりと・・・アザートの左腕が・・・装飾銃を持つ左腕がゆっくりと自分に向けられるのを見ながら後悔する。
「(死ぬ・・・何か・・・
何か・・・話さなければ・・・
私が死ぬ・・・一撃で・・・
痛みも感じる事なく・・・
絶命させられる・・・)」
銃口が己の頭と直線の位置になるまで残り数秒・・・いや、1秒も無いかもしれない。
「子供でも分かる内容だ・・・それを答えない・・・いや、聞こえなかったか?ならば『もう一度』聞く・・・俺と貴様の差は何だ?」
もう一度・・・これが最期であると言うことが身体全体から感じ取られる。
「(私と・・・この男の・・・差・・・差・・・差・・・差・・・差は────)
経験・・・」
無意識に己の口から出た言葉・・・
この言葉を己の耳で聞いた時・・・ベラは死を悟った。
何だ?その単純な回答は?そんなモノなのか?
いや、そんなモノの筈が無い・・・何で私はそんな子供でも分かる事を口走ってしまったのか!!
何故私は今はの際にそんな事を喋ってしまったのか・・・あぁ、殺され─────
「分かってるじゃないか」
「─────え?」
一瞬何を言ったか理解が出来ないベラ・・・
「(────今なんて?)」
「そうだ・・・貴様は実戦経験が無い・・・見た事があるか?己の肉の色を・・・嗅いだ事があるか?己の血の匂いを・・・感じた事もないだろう?そんな奴が他者を殺せるとでも?
分かっているなら、さっさと腕を治せ・・・治ったら即刻、実戦経験を積ませてやる」
アザートはそう言いながらその場を去った。
忙しくなり、次回投稿は土曜日になります。
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