第111話 イメージしろ
「─────まぁ取り敢えず早いとこ始めちゃいましょうか・・・・・・といっても僕自身は異形じゃないんで、どう変身するか知らないんですけど・・・」
「まぁそこは私に任せてよ、腐っても私も異形ですから」
「・・・腐ってるって自分で言うの」
ベラの小さくツッコミをいれた・・・
当然、レナは聞こえていないかのように話し続ける。
「そう・・・異形になりたいのなら・・・イメージが大事ね・・・うん、だからイメージして」
あまりにも抽象的すぎる助言・・・
ベラは数秒の間、レナの言っている事が分からなかった。
「なるほど・・・イメージするだけで変身出来るんですか、簡単ですね!」
ヨグの嬉しそうな声にレナは目を細めて、心の中で思う・・・
あぁ・・・コイツはバカなのか?、と────
「あ・・・あの・・・イメージって具体的にどんな事をイメージするんですか?」
「そんなの自分が異形になった姿に決まってるじゃない!ほら、時は金なり、タイムイズマネーって言うじゃない?ほら、イメージイメージ」
「は・・・はぁ・・・」
──────
────
──
それから数時間経過した・・・
しかし、ベラは未だに異形化してはいない。
「異形・・・異形・・・・・・異形ぅ〜〜〜」
さっきからベラはブツブツ言いながらイメージするも成果が一向に現れない。
一度、『はぁあぁあぁあぁ・・・!!!』と声を上げながら気合を入れたりするも・・・
「うわ・・・声出してる」
「あの・・・思い浮かべるのに声はいらないと思いますけど・・・」
と、厳しいレナとヨグ2人の冷静なツッコミに顔を赤ながらもベラは自分の異形化した姿をイメージする・・・しかし、異形化しない。
そんな中・・・そして、遂にその時が訪れる・・・
「あ・・・あの・・・全然異形化しないんですが・・・」
「うーん・・・もしかしてベラって集中するの苦手なタイプだったり?」
「ああ!なるほど、そういう事!」
手をポンと叩き、笑顔になるヨグ・・・
「馬鹿にしないでくれる!?っていうか、私そもそも異形や異形者の事あんまり知らないんだから!!」
「・・・え?ベライザさんからはベラは異形は見た事あると言ってたけど?っていうか、昨日見たんじゃないの?」
「え?・・・あぁ、確か昨日のルーの事?確かに昨日ルーが異形化する所を見たけど・・・気が動転しすぎて何が起きたかいまいち覚えていないのよ。現にどんな姿だったか、もう覚えてないし・・・」
ベラの発言に今度はレナとヨグの2人が沈黙した。
予想外の発言・・・頭の片隅にも無かった発言・・・
そんな発言がベラの口から出たからだ。
「・・・え?・・・じゃっ・・・じゃあ、何?異形がどんなのか知らないのにイメージしてたってこと?」
「・・・は・・・はぁ・・・まぁそうなるわね」
「な・・・な・・・
何でそれ早く言わなかったの!?完全にさっきまでの時間無駄だったじゃん!!!」
「いや・・・それは・・・言うタイミングが無かったというか・・・」
「言い訳はいらないよ!!!あぁ〜・・・完全に時間潰れた・・・ベライザさんにドヤされる〜〜!!」
そう言いながら頭を抱えながら項垂れるレナ・・・
「・・・はぁ〜・・・で、異形をじっくりと見た事ないんでしたね。はいはい、分かりました。見せてあげますよ、だから早いとこ異形化して下さいよ」
そう言い終わるや否や・・・
空気が変わった────
先程まで澄んでいた空気が一瞬の内に重くなっていく・・・
「(この感覚・・・は・・・あの時と・・・同じ・・・)」
何かが来る感覚・・・何かが顕現される感覚・・・
神経全体から感じ取れる不快感・・・負のオーラ・・・
昨日はガラス越しからヒシヒシと感じたモノ全てが今は目の前の女が発する・・・凍てつくオーラ・・・
ブチ・・・ブチ・・・
ブチブチブチブチブチブチブチブチブチ!!!
皮膚が破れる音・・・胸部の皮膚が破れる音・・・破れた先に見える赤いモノ・・・臓器・・・肉・・・骨・・・
胸部だけではない・・・腕、脚の皮膚すら破れ、そこから顔を出すのは異常に発達し、刃のような形をした骨・・・
それに絡みつく赤々とした肉・・・
ズズズと音を立てながら蠢くように伸びる骨は遂にレナの身長を超える・・・
ルーと同じように胸部から肉や血液、臓器などかボトボトと落ちていき、既に地面は赤黒くなっている。
しかし、たった一点・・・たった一点でレナをレナたらしめる部位がある。
それが頭であった・・・
頭だけはレナの顔のままである・・・しかし、それがまた一層に不気味さを際立たせている。
「さてと、ほら見本見せたよ。これでイメージが湧くんじゃない?」
完全にバケモノの姿をしているのに口調とテンションが先程と何も変わらない事に一抹の恐怖を感じるベラ・・・
「あ・・・あの・・・えらく流暢に喋れてますね・・・てっきりバケモノの姿になったら上手く喋れないんだと思ってた」
「これは慣れだよ慣れ・・・そりゃ私も最初はこの姿じゃカタコトでしか話せなかったけどね・・・じゃあ、もう一度イメージ巡らしてやってみよう!」
「は・・・はぁ・・・」
──────
────
──
それからまた2日が経過した・・・
しかし、ベラは未だに異形化してはいない。
異形がどんな姿であるか確認した・・・これでイメージ抜群!・・・なのだが・・・一向に異形化する気配が無い。
この状況・・・いや、この修行内容に1人不信感を抱く者がいる・・・言わずもがなベラだ。
ベラ自身、イメージ(?)で異形化する訳が無いと思っているのだ・・・
「・・・うーん、イメージ不足ね」
「いや、あの・・・やっぱり異形化するにはイメージとかふわふわした助言じゃなくて・・・もっと・・・何というか・・・技術面も重要じゃないんですか?」
「はぁ・・・あのね、ベラ・・・貴女の勝手なイメージを押し付けちゃダメだよ」
「いや、この際ハッキリ言いますが、イメージは必要無いと思いますよ!」
「ベラさん、あの・・・僕からも一言あります」
ベラとレナの言い合いにヨグが手を上げる。
「何ですか?」
「ベラさん・・・そのイメージは間違ってるよ」
「ほら、ヨグさんも言ってるじゃないですか・・・だからイメージしたまえ」
「イメージしてください」
「・・・・・・
コレなんかの宗教?」
呆れ果てて、ベラは細い目を2人に向ける。
「もういいぞ、お前ら」
その時、ある声が闘技場に鳴り響いた。
声の主は誰か?
アザートだ。
「あの?もういいってどういう事ですか?っていうか、朝からどこ行ってたんですか?」
「そのままの意味だ。もうコイツに修行なんかつけなくても良い・・・先程、ベライザに話はつけた。異形化すら出来ないような奴に殺戮など出来る筈が無い・・・とな」
「そ・・・それで・・・どうなったんですか?」
恐る恐るアザートに質問するレナ。
まだ2日前のトラウマが抜け切っていないのだろう・・・
「俺がその任を引き継ぐ事になった。良かったな、人間モドキ。家族と殺し合わずに済んで」
「え・・・あ・・・え」
状況が理解できていないベラ・・・
まだアザートの言葉の意味を飲み込めずにいる。
「そ・・・そうなんですか・・・で、アザートさんはどうするんですか?」
「どうするか・・・決まっているじゃないか?やる事は1つ・・・皆殺しだ」
「・・・・・・ぇ?」
「と言っても、ベライザが言うには3匹・・・確か名前は・・・ナイ、スミヤ、そして、メイの3匹は殺すなと言われているからな・・・だが、要するに、人間モドキの中でコイツら3匹以外は殺しても問題はないと言う事だ」
アザートは笑みを浮かべながら話す。
それはまさに悪魔と言っても差し支えない表情をしていた。
「(・・・・・・メだ)」
「さて、こちらからは以上だ。お前は家族が殺されるのを指を咥えて見ているのだな、人間モドキ」
「(ダメだ・・・コイツは・・・ダメな奴だ)」
アザートが出て行こうとした瞬間・・・
空気が変化した────
先程までの何も変哲もない空気が一瞬の内に重く深くなっていく・・・
その空気を発しているのは─────
ベラであった・・・
「ベラさん?」
「・・・ベラ?」
「ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ!!!」
「ほう、何がダメなんだ?」
変貌していく・・・
グチャグチャと音をたてながら、ベラの身体が変貌していく・・・
「お前に・・・オマエニ・・・オマエニオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエニニニニニニニ!!!!!!
家族ハ殺サセナイ!!!!」
その姿は既に人間では無かった・・・
次回投稿は金曜日と言いたい所ですが、恐らく忙しいので再来週の火曜日か水曜日辺りになるかと思います。
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