第103話 異形の子達
「奴が人間モドキを産み出す理由・・・それは人間を誘惑させる為ではないか?」
「・・・奴が異形を孕んだ数ヶ月後、子は産まれた・・・数にして5匹。私達はその子達を調べ上げました。その結果、2点の異常点が判明しました」
ベライザはアザートの言葉を聞き、笑みを浮かべて話し始めた。
「1つは彼等の身体能力です。彼等を研究してから5年が経過した時、彼等の身体能力は急激に高くなりました。100m6秒台、垂直跳び約4m、1500m3分・・・分かりますか?彼等は5歳の段階で既に人間の身体能力を超越した存在になっていた」
「・・・凄いな・・・しかし、それは────」
「えぇ、それは予想の範疇・・・異形者から産まれた生物なのだから当たり前なのですから・・・しかし、もう1つの異常点・・・これがCRU施設ドイツ支部を一時機能停止させた原因となったのです」
そして、ベライザは一呼吸間を置いてから答えた。
「それは『彼等が全員見た目が美形であった』という点」
「・・・やはりそうか」
「えぇ、本当に頭の回転が速いですね。話がヒジョーにスムーズです。3歳程の段階で予感はしてはいました、考え過ぎだとも思ってもいた。しかし、その予感はやはり的中してしまいました・・・彼等が14歳の時に・・・」
* * *
その日は彼等異形の14歳の誕生日・・・
いくら研究対象であり、かつ異形であっても見た目は人間・・・彼等全てに私達は愛着を持っていました。
そこで私達は彼等6匹に1人ずつお守り役も付け、彼等のケーキとプレゼントを買う為に街に出掛けました・・・
しかし、これが私の誤りであった・・・私は安心しきっていた・・・異形相手にに安心する時など一部の隙も無いというのに・・・
『─────ふー、いっぱい買っちゃったわね。毎年の事になるけど、私が一番盛り上がってるかも・・・って、何この異臭!?』
私は城に入ったと同時に辺りに蔓延る強烈な異臭を感じた。
何なの!?この異臭・・・人間が感じるであろう最悪の臭い・・・生臭く濃い・・・臭い・・・まるで男女が交わっているかのような─────
『まさか!?』
ある嫌な予感が私の足を速めていく・・・
此処は1号館・・・彼等が居るのは3号館・・・
私は全力で走った・・・走り続けた・・・
臭いが濃くなってくる・・・吐き気が催してくる・・・
歩をすすめる程、肺が抉れていく・・・
あ・・・あ・・・あ─────
膿─────
『どう?気持ちいい?』
『あ・・・う・・・あ・・・』
『どう?どう?』
『気持チ・・・イイィィゥィァィゥィァァ』
『なっちゃえ!気持ちくなっちゃえ!』
『ハァ!・・・ハァ!・・・ハァ───?』
職員は犯してる・・・彼等異形を・・・
まるで操られているかの様に犯している・・・いや、犯されている?
そして、犯し終えた職員は次々と膿へと姿を変えていく・・・
赤黒い膿へとなっていく・・・
何故?何が起こっているの?
出かける前までそんな予兆は無かった・・・どうして?
分からな────
『彼等はもう昨日までの記憶ないよ。ただ人間を誘惑し、犯され、犯した人間を膿へと変えるという目的の為に生きている傀儡よ』
凛とした声が響き渡る。
私は声をする方向に視線を移した・・・そこに居た者・・・それはG・ティーチだった。
『G・ティーチ・・・貴女は平気なの?』
『まぁね、私は自我があるみたい・・・ほら?私、優秀だし?・・・っていうか、ベライザ先生の方こそ大丈夫なの?この瘴気に当てられた人間普通は発情して犯すんだけど・・・』
『平気よ。私も優秀だから』
『いや、優秀とかの話じゃないでしょ』
『ははははは』
いや、良かった・・・本当に良かった、G・ティーチのお陰で止まりかけた思考が動き出した。
職員達は既に膿となってしまった・・・コレはもう元に戻らない・・・悔やんでも仕方ない。
ならば今出来ることは何か?
『えー、一応聞くけど彼等はもう正気には戻らないわよね?』
『そうね、一度こうなってしまったらどうする事も出来ない・・・それが母体の意思だから』
『じゃあ、まずは彼等を駆逐するわ。手伝ってくれるわよね?』
『14歳の子供にキツイ事言いますね・・・良いですよ、手伝いましょう』
* * *
「まぁ、その後何とか撃退に成功したけど、あの時は本気で焦ったわ。本当、危ないったらありゃしないわ」
「もう奴は産み落としていないのか?」
「いや、毎年3、4匹産み落としているわよ。そして、例によって全員育ててるわ」
「大丈夫なのか?また奴等暴走しないのか?」
アザートが真っ当な疑問を投げかけた。
ベライザが言うに本当に危なかったのだろう・・・
一度痛い目を見ていると言うのに、今も育てているのはただの学習能力が無い馬鹿なのでは?
アザートはそんな考え浮かんでいる。
「安心して良いわよ。その後、新しい取り決めを皆んなに言ったから。『CRU施設ドイツ支部内において性行為をする事は禁ずる』・・・とね。これを言い渡してから40年・・・事件は起こらなくなったわ」
「そんな事で取り締まったのか?」
「そんな事で取り締まれたわ」
アザートはあまり納得はいかなかった・・・
しかし、ベライザの断言により『そういうものなのか、人望あるのだな』と思いそれ以上言及はしなかった。
「・・・そういや話の中で唯一自我が保っている異形がいたと言ったな」
「あぁG・ティーチの事が気になるの?」
「いや、そいつ以外にも自我を持つ者はいるのかと思ってな」
「いるわ・・・ほら、案内してくれたレナ・・・彼女も自我を保ってる異形よ」
確かに空港の時の動きは人間ではない動きをしていた・・・
アザートが暴れて殺されるのではないかという時でもレオンの様に死にたくないとは言っていなかった・・・
所謂ヒントはたくさんあった・・・という事だ。
「何か特徴でもあるのか?自我を持つ者の」
「あるわよ、自我を保つ事が出来るか否かを判断する唯一の方法が・・・それはテストよ」
「テスト?」
次回投稿は来週の金曜日になります。
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