第101話 不老は・・・お好き?
私は・・・ちょっと、お好き
「一言で言うなら・・・そうね、不老の施術よ」
「ほう、不老の施術・・・そんな事が可能なのか?」
「あら?貴方も見た事ある筈よ、不老の生物を・・・」
ベライザはそう言いながら意味深な笑みを浮かべる。
「不老の・・・生物」
アザートはそう静かに口にして、しばし考えた・・・
「─────!」
そして・・・そのその生物の心当たりを見つけた。
そうだ・・・アレだ・・・あの生物だ・・・
その生物を殺される所をアザートは何度も見ている、アザート自身も何度も殺した事もある・・・
しかし、その生物が老衰死する事など聞いた事はないし、見た事もない。
ましてや『歳をとる』という概念すらその生物にはあるかどうか怪しいぐらいだ・・・
灯台下暗し・・・という言葉がアザートの母国、日本には存在する。
今、アザートの頭の中にはその言葉で埋め尽くされている。
その生物とは─────
「異形者か」
「その通りです。異形者には『老ける』という概念は存在しません。存在するのは『成長し続ける』という言葉のみ」
「成長・・・し続ける?」
ベライザの言葉にいまいちピンとこないアザートを見て、ベライザはある例を話した。
「良く素人がこんな事を言います・・・」
『あ〜、歳とりたくないなぁ〜。20歳位になったら成長止まってくんないかなぁ〜』
「実は人間、止まるから老けて死んでいくんです・・・」
* * *
教えて!ベライザ先生! 『成長って?』
人を構造するのは細胞であり、細胞は最初1個から始まり、何十兆個になるまで分裂して増え続けます。
細胞は分裂する度にDNAはコピーを繰り返します。
しかし、コピーの度DNA の両端が少しずつ短くなってしまうのです。
♾♾♾♾♾♾♾ ←コレをDNAと仮定
↓ コピー後
♾♾♾♾♾ ←両端が減る
それは何故か?
DNAが合成される時、両端の部分は完全にコピーする事が出来ないのです!
故に1回分裂する毎に短くなっていくのです。
DNAのこの部分を『テロメア』と言い、テロメアがある程度短くなると、細胞はもう分裂する事が出来なくなってしまいます。
つまり、テロメアが短くなる事で生物は成長を止め、老いて、死ぬ訳なのです!
はい!ここまで講義を聞いた読者の方・・・そうです、そこの貴方!今、こう思いましたよね?
『テロメアを長くしたり、減らさない方法はあるのか?』・・・と
実はあるんです、そういう能力を持った細胞・・・あるんです、皆様もよく知るアレです。
そう、ガン細胞です!
ガン細胞は『テロメラーゼ』と呼ばれる物質を持っていて、短くなったテロメアの部分を長くして増え続ける事が出来るのです。
あら?そこの貴方、新たな疑問を持ちましたね?
『なら普通の細胞にもテロメラーゼがあれば歳をとない事になるのでは?』・・・と
ところが、そうはいかないんですよ・・・
確かにテロメラーゼさえ働けば、いつまでも細胞は働き続けます・・・が、それが長生き、不老になるかは別問題なんです。
一つの問題点として、もしもテロメラーゼが働いている細胞にエラーが起きても細胞は増え続けるんです・・・
そして、もう一つは細胞を一つ一つで見たら元気でも、身体全体を見れば、既に人ではなくなってる可能性もあります─────「おい、ちょっと待て」
* * *
アザートはベライザの言葉を無視して問いかけた。
しかし、ベライザはアザートの問いに答えてはくれない・・・否、完全に固まってしまったのだ・・・
「ちょっ!アザートさん!?今、ベライザさん気持ち良く話してたのに、それを遮るって・・・一番やっちゃダメなやつですよ!?」
「何がだ?・・・というか、お前居たのだな。前回、お前の出番無かったから死んでるかと思っていたのだが・・・」
「生きてますよ!?勝手に殺さないで下さい!!・・・って、今はそんな事どうでも良いんですよ!ほら!見てますよ!ベライザさん!めっちゃこっち見てますよ!怒られますよ!これ!」
「・・・何ですか?アザートさん」
ベライザの目に光が無い・・・口は笑っているが、目は笑っていない・・・そんな表情を見せながらアザートに問いかける。
「お前確か、今こう言ったよな・・・『既に人ではなくなっている』・・・と、つまり・・・それは・・・異形者ではないのか?」
アザートの言葉・・・その言葉が辺りを沈黙へと変える・・・
誰も何も言葉を発しないこの状況・・・次に声を上げたのは・・・ベライザだった。
「アザートさん・・・貴方・・・
貴方って方は・・・本当に・・・本当に
頭の回転が良い方ですね!!!」
「は?」
アザートは予期せぬ言葉に思わず、声を漏らす・・・しかし、そんな事をお構いなしにベライザはアザートに話し続ける。
「いや!本当素晴らしいです!いや、まさかこの事実に気が付くとは・・・いや、本当に流石としか言いようがありませんよ!素晴らしいです!スタンディングオベーションをあげたいくらいです!」
そう言ってベライザは大きな拍手をアザートに送った。
しかし、送られたアザート自身は少し引いている。
「ほほーう、アザート君をドン引きさせるとはベライザも中々やるねぇ〜。さて、ベライザその辺にしといた方が良いよ。アザート君、面倒くさい人だと思えば直ぐに殺しちゃうからニャ〜」
「はっ!?・・・すいません!つい興奮しちゃって!科学者としての悪い所が出ちゃいましたね!アザートさん、とんだご無礼を!」
我に返ったベライザは顔を赤くしながらアザートに謝罪した。
今のが・・・ベライザの本性だろうか・・・だとしたら、鬱陶しい奴だな・・・
アザートは謝るベライザを見ながらそんな事を考えた。
次回投稿は来週の金曜日になります(もしかしたら土曜日になるかも)。
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