第99話 CRU施設
「─────死ぬと思って気が動転したレオンがハンドルを離しちゃって、そのままドカンと・・・よく生きていましたねレオン。普通なら死んでいると思いますけど」
「それはアザート君が助けたんだよ。でも、お礼言わないんだよね、彼」
「いや、誰のせいで事故が起きたんだと思ってるんですか!?」
レオンが抗議の声を上げる。
さながら俺は悪くなく、アザートのせいだと言わんばかりだ。
しかし、そんな抗議を素直に耳に入れる者達ではない(非を認めない)のがバリアントだ。
「貴様がハンドルを離した所為では?」
「確かにハンドルを離すのはいただけないニャ〜」
「うぐ!」
ぐうの音も出ないとはまさにこの事・・・
過程はどうあれ結果としてハンドルを離したレオンが悪い・・・過程は気にしない結果だけを気にするの事がアザート、ニャルラの数少ない共通点なのだ。
因みにヨグは過程を大切にする模様・・・
「まぁ良いわ、これ以上は話が長くなりそうだからね。さて・・・レナ、レオンご苦労様。これからニャルラさん達と話があるから、またお願いする時があったら連絡するわ」
「はい、分かりました」
「では、失礼します」
そう言ってレナとレオンの2人は部屋から出ていった。
「ふぅ・・・じゃあ、話を始めるわね?まぁ、電話でも話した通りクーデターが起きたのよ・・・まぁ、いつもの如く起きたっていうか、わざと起こさせたのだけど・・・」
「どう言う事だ?起こさせた?」
アザートがベライザに投げかける。
「あら?知らないの?ニャルラさん、教えてないんですか?」
「うん、やっぱり?CRU施設で起こる事はベライザから説明した方が良いかと思ってね」
「うーん・・・まっ、そうね・・・アザートさん・・・だったかしら?私の名前はベライザ=タシス、CRU施設について何を知ってるかしら?」
「何も知らん」
アザートのシンプルな返答に数秒フリーズするベライザ。
まるで時を止められたこの様だ・・・何も動く事が出来ずにいる。
その数秒後、ギギギとニャルラの方にゆっくりと顔を向ける。
その目は半目・・・ニャルラは直感で察する、『また怒鳴られる』と・・・
「ニャルラさ〜ん、どう言う事ですか?これは」
「えーと?何が?」
シラを切るニャルラ。
「『何が?』・・・何が?」
しかし、容赦の無い言葉がベライザの口から続く・・・結果、ニャルラは瓦解する。
「・・・えーと!・・・えーと!・・・アザート君には予備知識無しの方が良いかと・・・思ってだニャ」
「・・・はぁ・・・それって世間では面倒くさいからって言うんですよ?分かります?」
「うぐ!」
図星を疲れるニャルラ。
「はぁ・・・もう良いですよ。コホン・・・えー・・・アザートさん、CRU施設について簡単に説明します─────」
そもそもCRU施設のCRUとは何なのか?
異形に対し、以下の3つの目的・・・
C・・・Captured(捕獲)
R・・・Research(研究)
U・・・Useer(使役)
それらを持つことからその名が付けられた。
さて、ここである意味を持たない事に疑問を持たないだろうか?
そう、Destroy(破壊)だ。
彼らは基本的にEF協会のように異形者の駆逐を目的としてはいないのだ。
異形者を研究する事に対して、重きを置いているのだ。
そして、彼らの研究は世界に対し多大な貢献をしている。
最近では人類史上最高の貢献と呼ばれる武器・・・『蠢くもの』が開発された。
この武器が産み出させる以前の異形者との戦闘では異形者の肉を溶かして造られたV・バレット弾が用いられてはいたが、強さがある一定以上の個体に於いては無力と化す。
しかし、蠢くものはほぼ全ての異形者に於いて致命傷を与える事に成功するという絶大な効果を誇っている。
これは人類にとっての大きな進歩なのだ。
他にも以前はCRU施設だけが使用していた『V・class』を一般の異形者にも適用する事で危険度の目安を示した。
以前から使用されていた異形者の各typeは危険度の指標についてはお世辞にも分かりやすいとは言えない・・・いや、不十分過ぎるのだ。
理由は簡単であり、ヒト、獣、無生物、邪神というようにカテゴリーを明確にしてくれるものであって強さを表している訳ではないからである。
勿論、ヒトより獣、獣より無生物という認識に間違いは無い。
しかし、この組み分けは各typeの中での強弱関係と言ったものは一切表してはいないのだ。
これが明確にされていない当時はヒト型であると高を括り、返り討ちに合い死亡するケースが度々あった。
しかし、今では殆どそんな問題は起きない(闘いの中で進化する異形者や自信過剰で馬鹿な討伐者は除く)。
このような数々の功績を残すCRU施設は一般市民からは憧れの職種の1つ・・・なのだが、そんな彼らをよく思わない人々も存在する。
よく度々衝突するのが前述したEF協会だ。
EF協会は異形者の殲滅を目的とした組織なので、度々研究のために異形者をに生け捕りにするCRUを快く思っていないのだ。
更にバケモノの異形者ではあるが、元は人間という事もあるので人体実験の類ではないのか!倫理的に問題ではないのか!・・・と言った様々な意見が寄せられており、必ずしも万人受けはしてはいない・・・
「─────まぁ、それがCRU施設の簡単な説明でしょうかね?」
「ほーう、なるほどな」
「因みにそんな厳しい意見が飛び交っていても将来職業ランキング上位には必ず入っていますよ」
イェーイと言わんばかりにピースをするベライザの顔は笑顔だ、本当に嬉しいのだろう。
「で、そんな人気の職種にも関わらずクーデターが起きた・・・いや、『起こさせた』だったな」
「まさかだと思いますが、職員が起こしたとか思ってます?」
「違うのか?」
「そんな訳ないじゃないですか!私は職員達に慕われてますから!」
胸を張って答えるベライザ。
確かにレナもレオンもベライザを慕っていた様子だった・・・ベライザの言葉が正しければクーデター(ストライキでは?という意見は無視)は起きないのだろう。
人間ではない・・・ならば自ずと答えは出てくる。
「異形者か?」
「その通りニャ、アザート君!異形が起こしているのだよ!」
いきなり話し出すニャルラ。
「そう、ニャルラさんの言う通りクーデターを起こしたのは異形よ。と言ってもさっきから言ってる通り私達がわざと起こさせたのだけどね」
「どれくらい強くなってるかな?彼女ら異形に会うのって3年くらい経つからニャ」
「私は毎回報告を受けてますけど、かなり強くなっていると思いますよ。特に最年長の異形3匹が」
「ちょっと、良いか?」
ニャルラとベライザが話している最中・・・アザートはある一点が気になり2人に問う。
「何故先程から異形と言う?異形者ではないのか?」
沈黙が流れる。
ベライザはアザートの言葉に驚愕の表情を浮かべているのだ。
「・・・そこに気が付きますとはニャルラさんの言う通り素晴らしいですね」
「でしょう!」
ニャルラは自分が褒められたかのように胸を張った。
そんなニャルラを無視し、ベライザはアザートを見て微笑む。
「そう、クーデターを起こしたのは異形者・・・ではなく、異形なんですよ」
次回投稿は来週の金曜日になります。
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