第92話 再生される絶望
今回で8章の最終話と言いましたが、文字数が多くなってしまいましたので急遽中止とさせて頂きます。
なので、今日は最終話ではないです・・・
本当の最終話は明日投稿します。
カッカッカッカッカッカッカッカッカ
得体の知れないナニカは10数m先で立ち止まった。
そのナニカは黒いコートを身に纏っている。
人間・・・か?いや、違う!な・・・何だ・・・あれは!?
外見は人間の男ではあると思われるが、人間では無いという事が肌から感じとる。
匂いや雰囲気で分かる・・・コイツは異形者だ!
しかも、さっきのとは違う!明らかに違う!
まるでヒトの・・・人の形をした悪魔・・・
そう例えるのが正しいと言わんばかりの相手が目の前にいる!
その事実がメイ達の喜びの心を一瞬にして凍て付かせた。
「・・・哀れだな」
・・・えっ?何だ?・・・哀れ?
メイ達は男の呟きを確かに聞いた。
しかし、その真意は分からない・・・
一体誰に対しての言葉なの?
「あれだけ油断はするな・・・手を抜くな・・・と言ったにも関わらず、手を抜き殺されるとは・・・哀れ・・・いや、哀れみを通り越して呆れすら感じさせるな、貴様は」
な・・・何だ!・・・コッ・・・コイツ・・・まさか!?
「使えない奴だ、死んで当然だ・・・」
「待て!!!」
私はつい言葉が出てしまった・・・しかし、後悔はしていない。
コイツには言わなければならない事が出来たのだから。
「なんだ?何か気に触る事でも言ったか?」
「謝って!!!この人に!!!謝って!!!」
「ヒト?・・・コイツはヒトじゃないぞ?」
「うるさい!!!黙れ!!!お前みたいな奴にこの人の何が分かる!!!お前は言ったな・・・この人は手を抜いたと・・・つまり、この人は本当は戦いたくはなかったんじゃないの!!!」
私は聞き逃さなかった・・・『死んで当然だ』その言葉を・・・
「さぁな・・・俺はエスパーではないんだ。コイツの真意など知る由もないし、知りたくもない」
「ア・・・アンタ!!!仲間だったんじゃないの!!!この人と!!!同じ元人間じゃないの!!!」
「仲間?元人間?・・・俺は一度も思った事はない」
「な・・・何を言ってるの?」
「一つ教えといてやろう。俺が最も軽蔑する者・・・それは力があるにも関わらず、手を抜き負ける者だ。優しいから手を抜く?いや違う、馬鹿だから手を抜くのだ」
その時・・・その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが切れた・・・
私は生まれてから12年・・・嫌いな者はいなかった。
例え、私達を裏切っていたG・ティーチャーでも嫌いにはならなかった。
G・ティーチャーにも何か事情があるから・・・
本当はG・ティーチャーは良い人なんだ・・・
もしもそんな事情がなく、唯の悪人だったとしても、私はG・ティーチャーの事は嫌いにならないだろう。
しかし・・・
しかし、しかし・・・
コイツは・・・
コイツは別だ・・・
目の前にいるコイツだけは嫌いになるなと言われる方が難しい。
こんな・・・命をなんとも思わないような奴に・・・
こんな・・・仲間をなんとも思わないような奴に・・・
「───まえは・・・お前だけは・・・殺す・・・お前のような奴は生きてちゃいけないんだ」
初めて殺意という感情を持った・・・
先程の闘いはそんな感情は一切持ち合わせてはいなかった。
先程は自由を手にする為に闘うのに必死だった・・・いや、相手にも敬意を払って闘っていたと今になって思う。
無意識にそうさせていたんだろう、この異形者が・・・
しかし、コイツだけは敬意などというモノは一切無い。
コイツは生かしてはいけない存在だ・・・そう肌で感じ取ってしまったんだ。
ナイやスミヤ・・・そして、家族達も同じ気持ちみたいだ・・・目の色が先程とは違い、冷たい色を感じさせるほどだ。
「フッ、生きてちゃいけないか・・・俺と対峙した者は不思議とそう口にする・・・何故だろうな?まぁ良い、無駄口はここまでだ。俺を殺せば晴れて貴様らは自由の身だ。素晴らしい外の世界が待っているだろう・・・だが、俺から一つ言っておく・・・諦めて降参しろ、それがお前達の最善の策だ」
「最善?最悪の間違いだろう?バケモノが」
「そうだね、おまえを倒して僕達は自由を手にする!」
ナイとスミヤがそう答える。
さっきまでの戯けた表情は無い・・・私もあまり聞いたことの無い怒気が混じった声で話している。
「フッ、自由を手に入れる・・・か。どうやって?」
「こうやってだ!!!」
ナイのその言葉と共に私達全員、黒の男に銃を構える!
そして・・・
“““ダァァァァァァァァァァァァン”””
けたたましい銃声が城下町中を覆う。
ターゲットとの距離は10数m・・・
この距離ならば家族達も含め全員の射程距離範囲。
例えガードしたとしてもこの弾幕の数・・・受け切れる事なんて無理に決まっ─────えっ?
ゾクッ──────
撃ち尽くしている最中・・・予想外の状況に目を疑い、悪寒を感じた。
「─────ニィィィィィ」
─────笑っているのだ。
ガードなんてしてはいない・・・
避けようともしてはいない・・・
攻撃態勢にも入っていない・・・
敵は・・・男はただ笑っているのだ・・・
男の肉体は弾丸に触れる度飛び散っていく・・・
右腕が飛ぶ・・・左腕が飛ぶ・・・
しかし、男は不敵に笑う。
内蔵が剥き出しになっていく・・・
しかし、男は心満ちているかのように笑う。
右脚が飛ぶ・・・左脚が飛ぶ・・・
もう、男はダルマ状態だ・・・しかし、地に伏せる事なく、私達に笑みを浮かべ続けている。
な・・・なんなの・・・一体・・・なんなの
ナイやスミヤ、家族達も異様すぎる光景を前に頭の中にある言葉を埋め尽くされる。
不気味、薄気味悪い、奇奇怪怪、この世のものとは思えない、底気味わるい、気味わるい、きみ悪い、底気味悪い、うす気味悪い・・・
そして・・・
──────怖い
なんなの!?何で死なないの!?何でそんな不気味な笑みを浮かべられるの!?
身体は既に硬直状態だった・・・
動けない・・・いや、動く事すら恐怖だった・・・
唯一動いているのは『引き金を引く指』と『リロード時』その2つだけだった・・・
私達はただひたすらに弾丸を撃ち尽くす機械へと成り果ててしまった。
何故だって?・・・決まってる。
撃ち尽くし続けないと何されるか分からないからだ・・・
殺される?いや、もっと根源的な何かをしてくるような瞳・・・そして、笑み・・・
それを前にすれば誰だってそうなるに決まってる・・・
怖い!恐い!こわい!コワイ!kowai!
頭の中の不気味という言葉から恐怖に移り変わる音が聞こえる・・・
しかし、私達は撃ち続けなければならなかった・・・いや、撃ち続けるしかなかった。
この恐怖から逃れる為には─────
──────
────
──
────あれから何分が経過しただろうか・・・
男は既に元の姿を微塵も感じさせないほどに肉塊と化していた。
あれだけ不気味だった顔もとうの昔に破壊されている・・・
しかし、私達はまだ撃ち続けていた。
既に頭の中に潜んでしまい、拭っても拭っても払い切れないでいるあの全てを飲み込んでしまうような不気味な瞳と笑み・・・
頭がおかしくなりそうだ・・・いや、もうなっているのだろうか?
どちらにせよターゲットは既に跡形も無い・・・
もう撃ち尽くすのも止めても構わない状況まで来ている。
しかし、止める事は出来ない・・・頭に残ったあの表情を消すには撃ち続けなければならないのだ。
しかし、それは唐突に終わりを迎える・・・
────ダダダダダダ───ガチッ!
ガチッ!ガチッ!ガチッ!ガチッ!ガチッ!
そう・・・弾切れだ。
そこから皆んなの弾も切れたみたいだ・・・
ガチッ!ガチッ!ガチッ!ガチッ!ガチッ!
しばらく、弾切れであるにも関わらず引き金を引き続ける。
ガチッ!ガチッ!ガチッ!ガチッ!ガ────
そして、ようやく私達は正気に戻った。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・うぅ!・・・おぇぇぇぇ!!!」
気分が悪い・・・頭痛も酷い・・・何なの・・・一体ヤツは何だったの?
息をするのも忘れるぐらい引き金を引き続けていたのだ・・・その反動がドッと私の身体を重くする。
まるで頭を金槌で突かれたみたいにグワングワンする・・・目眩もしている状態だ。
しかし、それは私だけではなくナイやスミヤ・・・そして、家族全員が項垂れていた・・・
「み・・・皆んな・・・大丈夫?」
私は絶え間ない吐き気と目眩を振り払いながら問う。
「う・・・うん・・・」
「な・・・ん・・・とか・・・」
「だ・・・い・・・じょう・・・ぶ・・・」
各々平気だと答えてはいる・・・しかし、側から見れば一発だ・・・大丈夫じゃないに決まってる。
何故なら、あの目と笑みが頭から離れられないから・・・
思い出せば出すほど震えと吐き気が止まらなくなる。
いや、思い出そうとしなくとも目に焼き付いてしまっている・・・そんな状態だ。
でも・・・でも、大丈夫・・・もう・・・大丈夫だ・・・
「皆んな・・・怖いのは分かるけど、もう
大丈夫だよ・・・」
震えながらそう答える私・・・説得力も何も無い・・・しかし、事実は事実だ。
何とか皆んなを安心させなければ・・・
「ほら、見てよ皆んな!悪いヤツはもう姿形も無いよ!もうただの無力な肉片になったんだよ!私達が勝ったんだよ!だから、皆んな安心し────」
「─────本当にそうか?」
ぇ
声が聞こえた────
誰かの声が耳を通り抜けた─────
それは────まるで────暗々と────
光を飲み込む闇のように─────
私達の希望を絶望に塗り替えた─────
見る─────ある一点・・・を見る─────
なっ・・・な・・・に・・・こ・・・れ・・・
ザワ・・・ザワ・・・ザワ・・・
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
シィィィィィィィィィィィィィ
ザワ・・・ザワザワ・・・ザワワ・・・
風が鳴る・・・鳴り響く・・・
不穏で重たい風が辺りを包み込む。
肉片が・・・破壊されている筈の肉片全てが溶け出している・・・
黒い液体となって溶け出している・・・
その液体はある一点に集まっていく・・・
そして・・・そして・・・
「あ・・・あ・・・あぁぁ・・・」
目の前の事象・・・
それを端的に表す言葉・・・
簡単だ・・・一つしかない・・・
絶望だ─────
前書きであるように、次回投稿は明日になります。
ブクマ登録をしてくれた方、評価をしてくれた方、そして、読んでくれている方、モチベーションに繋がってます、本当に嬉しさと感謝でいっぱいです!
ありがとうございます!