第90話 作戦変更プランB
「う・・・うそだろ!?」
「マ・・・マジ?」
「あんだけの弾幕を喰らったのに・・・」
「作戦は成功したのに・・・」
『倒しきれてないなんて・・・』
私達の脳内に、ある2つの文字が生成される・・・
絶望────
作戦は成功した・・・何一つの間違いもなく・・・
しかし、結果は私達の予想とは大きく異なっていた・・・
私達の予想とはかけ離れていた・・・
予想と現実の差異・・・それは単純明快であった。
私達は舐めていたのだ・・・異形者を・・・
表では油断してはいけないなど言っておきながら、心の奥底で思っていたのだ・・・楽に倒せるなどと・・・
それは『訓練の順調さ』が産んだ哀れな妄想だったのだ・・・
少し考えれば分かった筈だ・・・
少し立ち止まって客観的に見れば分かった筈だ・・・
素人同然の私達が少しばかり訓練したからと言って簡単に異形者を倒せるならば、世界中の指導者が悩む心配など無い・・・
この程度で倒せるならば、とうの昔に世界は平和になっている筈だ・・・
でも・・・
でも・・・
でも!!!
だからと言って逃げ出すわけには行かない!!!
ここで逃げて待ち受けるは『死』ただ一つ・・・
逃げる訳にはいかない!勝つんだ!
勝って自由を手に入れるんだ!!!
しかし、私の思考とは裏腹に異形者は瞬時に攻撃モーションに移行している・・・
あの蟷螂のような手・・・いくら距離を置いた状況であっても一番距離が近いのは私だ・・・
数秒後には斬りつけられているのは必然だが────
「作戦変更!!!プランBに移行!!!」
スミヤの声が辺りを包み込む・・・
プランB・・・その言葉を合図に陽動隊であるスミヤ達が異形者に向け、あるモノを放つ・・・
────カッ!!!
瞬間、辺り一面が白く光り輝く・・・
────閃光弾
咄嗟に異形者はコレを瞬時に防ごうとするが、コンマ数秒時間が足りない・・・
よって直撃は必然の出来事だ!
* * *
『────でも、ありったけの弾丸を撃ちつけるって作戦は1つ欠点があるんだよね』
『えっ!?あるの?』
私は欠点の存在に驚愕を受ける・・・
弾丸を撃ち続ければ相手は死ぬのは当たり前じゃないの?
『そりゃ無限に喰らわす事が出来れば倒せると思うんだけど、1つ1つの攻撃が米粒程度のダメージの場合は一回の総射撃じゃ倒す事は難しいと考えるのは妥当じゃないかな?』
『・・・まぁ、確かに』
まぁ、そりゃそうなんだけど・・・一回の総射撃は300発は超えるんだよ?
倒せるに決まってるじゃん・・・ちょっと、考えすぎじゃない?
そう思う私の考えを読んでるかのように次の言葉を告げた。
『まぁ、僕も一回で倒せる確率の方が高いと思ってるよ・・・念の為だよ、念の為。もしも作戦が失敗したらプランBに変更するから』
『プランB?』
『そう、プランBはスミヤが閃光弾を投げ、異形者を怯ませて僕達は各々のチームと共に家々に身を潜める事・・・潜めたら頃合いを見てコレでお互いの状況を伝え合うんだ』
そう言ってナイはトランシーバーを渡してきた。
『えっ?これどこで?』
『G・ティーチャーに頼んで用意してもらった。言ってただろう?出来る事はなんでもしてくれるって・・・』
それで用意してもらったのか・・・使える手段をなんでも使う・・・流石ナイだな。
『プランBはスミヤが合図をして、その直ぐ直後に閃光弾を投げるから気を付けてよ────』
* * *
白い世界の突入と同時に私達は記憶していた家に身を潜め、コチラを悟られぬように異形者を観察する・・・
異形者はモロに喰らったのが効いたのか地に伏せ、のたうちまわっていた。
あの様子から見て、正常な動きになるまで1〜2分はかかると見た。
ならばやるべき事は1つ・・・今が作戦を立てるチャンス────
ドガァァァァァァァァン!!!
瞬間、耳を覆いたくなるような爆音が辺りを占めた。
なんだ!?・・・何が起きたの!?
私含め、家族の皆んなが恐る恐る音のする外に視線を移す────
さっきまで見えなかった風景が目の前に広がっていた・・・
さっきまであった物が無かった・・・
さっきまであった家が瓦礫と化していた・・・
「・・・え?」
「う・・・そ・・・」
「な・・・にが・・・あった・・・の?」
皆んな各々受け入れがたい光景に思考が停止している・・・
何があったのか・・・私もコンマ数秒は理解出来なかった・・・
が、瓦礫の真ん中に佇むモノの姿を見て、嫌でも理解出来た・・・
異形者が・・・ヤツがやったのだ・・・
なんだ・・・なんなんだ!?あのチカラは!?
一撃で・・・音がしたのは一度だけ故、一撃で10mぐらいの家を瓦礫と化すチカラ・・・
これが・・・これが異形者だとでも言うのか!?
眼前で異形者のチカラを目の当たりにし、恐れの感情が心を侵食しているが、次の瞬間・・・そんな事は頭から離れる。
ナイは!?スミヤは!?大丈夫なのか!?
その事で頭が埋め尽くされていく・・・
え?ナイ?スミヤ?え?ナイ?スミヤ?
死んだ?いや、嘘?嫌・・・嫌だ!
嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!
嘘─────
ブルルルルルルルルルルル
突然、ポケットが振動し出す。
その振動でパニック仕掛けた頭がどうにか現実に引き戻れたことに安堵しつつ、トランシーバーのボタンを押す。
『おい、ナイ!メイ!大丈夫か!?生きてるか!?』
『僕は大丈夫!その様子だとスミヤは大丈夫そうだね!メイは大丈夫!?』
「私も平気だよ!良かった!皆んな無事で!」
どうやら皆んなあの家には隠れていなかったようだ・・・
本当に良かった!!
『喜ぶのはまだ早いぞ、メイ。問題はこっからだ!』
『うん、作戦通り不意を打って計300発の弾幕をヤツに浴びせた。倒せはしなかったが、ここまでは予想通り・・・でも、予想外の事も起きた、それは・・・』
「『『想像を超えるバケモノである事』』」
先程の攻撃を見れば分かる・・・一撃だ。
恐らく一撃で私達の半数は死ぬだろう・・・
それほどヤツの攻撃面がイカれてるのだ!
どうする!?どうやって倒す!?
『あまり時間も無さそうだから手短に伝えるぞ。この状況から導き出せる作戦は2つだ!』
そう言ってスミヤは作戦を提示した。
① 先程の攻撃を続ける
これはいわゆるヒットアンドアウェイと言っても良いだろう。
総攻撃を加え、閃光弾を放ち、身を潜め、また攻撃・・・
これを何度か繰り返せば、いくら相手がバケモノじみた異形者であったとしても、倒せるのは必然だ。
しかし、これには大きな穴がある。
それは閃光弾の数だ。
残りの閃光弾は2つ・・・
この数で果たしてヤツを倒す事は出来るのだろうか?
そして、もう一つは同じ手は通用するのかと言う事・・・
ヤツはあの閃光弾を防ごうとしていた。
不意打ったつもりであったが、避ける素振りを見せていたのだ。
ギリギリモロに喰らわせる事を成功はしたが、次は成功するのか?
そもそも総攻撃も成功する確率も低い・・・
確率を上げるためには近づかなければならないが、先程の攻撃を見て近づくなど言語道断だ。
「────成功確率が低く、危険なら無理だよ!2つ目は?」
『2つ目・・・それは弱点を狙う・・・だ!』
・・・弱点!?
「そんなのがあるの!?」
『覚えてないか?俺がG・ティーチャーに向け、撃った後の言葉を・・・』
“頭狙ってくる事は織り込み済みなのよ。だから、頭狙われても致命傷にならない武器を与えたのよ”
『コレは言うならば致命傷になる武器ならば死んでいた・・・こう聞こえないか?』
「確かに!?」
『それにこうも言っていた・・・』
“私レベルには致命傷にならないわよ”
『G・ティーチャーは俺達が倒せるレベルの異形者を用意したと言った・・・つまり、頭を撃ち抜けば即死は確実と言う事だ。何よりも頭にナニカ袋のようなモノが被さっているのが証拠だ。恐らく防護壁かなにかだろう』
頭を撃ち抜けば勝てる・・・先程までの絶望が嘘のように希望へと変わる・・・
俄然やる気が出てきた!
『じゃあ作戦は─────』
スミヤの話を聞いている途中、ふと窓を見る。
視線の先には窓を複数の長い下で舐め回すモノの姿が・・・
「ミィィィィィィケェェェェェァェェ!!!」
「皆んな!窓から離れて!!!」
バァリィィィィィン!!!
瞬間、窓のガラスが弾け飛ぶ・・・
しかし、瞬時に部屋の奥へと避けたお陰か、私達は無事だった。
まぁ、ヤツに見つかった時点で安全な訳がないか・・・いや、逆に考えろ!
これは仕留めるチャンスでもある!
逃げるのが安定策であるのは間違いないが、勝利と安定の両立なんてあり得ない!
いつだって勝利とはチャンスの先に輝くモノであり、安定を選ぶ者には勝利の女神は微笑まないのだ!
「皆んな!ここは逃げて!私が時間を稼ぐ!」
私はそう言って一歩前へと進める。
しかし、一向に逃げ出す足音が鳴らない・・・
「・・・皆んな、どうしたの!?早く逃げて!」
「メイ姉ちゃん!私達逃げないよ!」
「そうだぜ、メイだけにいい格好させてられるかよ!」
え・・・
「ここで逃げて、もしメイ姉ちゃんに何かあったら一生後悔する・・・」
「うん!だから、僕達は逃げない!」
そう言って振り返ると、みんなの目は光り輝いていた。
誰も負の感情を宿したりはしていなかった・・・
「・・・・・・」
私は勘違いしていた・・・
皆んなの事を解っていなかった・・・
信じていなかった・・・
こんなにも頼りになる家族がたくさんいる事を・・・
まるで皆んな、覚悟を決めてここに立っているようだった。
真実は知らないのに、なんで闘わされているのか知らないのに・・・
「・・・分かった。じゃあ、作戦を言うよ!弱点は頭・・・良い?1発でも撃ち抜けば私達の勝ちだよ!皆んな相手の攻撃に気を付けて・・・行くよ!」
「「「「うん!!!」」」」
この闘いが終わったら皆んなに真実を話そう・・・
──────
────
──
場面変わって、テレビが何台もある部屋。
映し出されるはメイ達の戦闘・・・
『弱点は頭・・・良い?1発でも撃ち抜けば私達の勝ちだよ!────』
「おいおいおい、弱点知られてるじゃないかニャ。いよいよヤバいんじゃないかニャ〜?」
「確かに・・・これは中々厄介ですね・・・確かに彼女の言う通り、異形の弱点は頭ですからね。コレは本当に貴方の出番がありそうな気がしますよ・・・って、いない!?ちょっ、何処行ったんですか!?」
「あぁ、彼ならいつでも殺しに行けるように街の前で待機してるニャ」
「随分と前に『勝負は見えた』とか言って行ってましたからね」
「はぁ!?ちょっ!なんで止めなかったの!?」
「無理」
「え?」
「彼を止めるなんて無理」
『次回予告』
────瞬間、周囲に負のオーラが立ち込み出した・・・
なんだ?おかしい?明らかに空気が変わった
私達は戸惑いを感じていた。
ナニカがおかしいのだ・・・ナニカが・・・
すると・・・
カッカッカッカッカッカッカッカッ
何者かが近づく足音が聞こえてきた。
私達は音のする方向に視線を移そうと身体が動く・・・
しかし、動く最中・・・とんでもない警告音が身体中から聞こえてくるのを感じられた。
前みたいの嘘の警告ではない・・・
本物の・・・本能がこう囁いている・・・
『見てはいけない・・・姿を捉えてはいけない・・・』
・・・こう囁いている。
しかし、時すでに遅し・・・身体を止める事は出来ず、近づいて来る者の姿をついぞ捉えてしまっ─────
「な・・・んだ・・・」
視界に入った途端、身体が硬直する・・・
眼前に映るモノを表す言葉・・・簡単だ。
それはまさしく混沌を制す悪魔
to be continued
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次回投稿は来週の水曜日になります。
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