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1 少年


少年は今日も机に向かっていた。

朝日の入る窓辺は薄い光と風が入り、少年を照らしている。


ベッドから体だけを起こして少年はひたすらに本を読んでいた。



本を読み、深い知識を手にいれ、優秀な人間に育つこと。

そうあることでしか、少年は自分が生きることを許されなかった。


顔を合わせるたびに父は呪いをかけるように少年に呟いた。

誰よりも賢くあれと。

体が弱くても、賢くあることで人より勝ることの素晴らしさを説き、病弱な体に鞭打って勉学に励む少年を、さらに叱咤した。


父の仕事を手伝う母は、ぼろぼろに荒れた手で少年の世話を焼く。

そして、小さく柔らかい少年の手を見て時折ため息を落とした。

その背中はいつも疲れ果てており、薄暗い影が付いて回っているようだった。



病弱な少年は、その人生のほとんどを家のベッドの中ですごしていた。

だから、父が小さな商家を営んでいることも、母がその手伝いで父を助けていることも知っていた。そして、その経営状態がよくないことも、きちんと理解していた。


少年が10才を越えたころ、父の商売も傾いていき、いよいよ生活も苦しくなっていった。食事がより質素になり、少年のために時折取り寄せられた高価な薬は姿を現さなくなった。祖父が貯えたという蔵書は、少しづつその数を減らしていった。

そして、父親は縋るような目で少年を見るようになった。

傾いた家を支えるだけの人間に育つことをひたすら切望されたのだと、小さいながらも少年は分かっていた。



そんな頃だった。

一人の少女が家に、やってきたのは。


********



母はいつのまにか出て行った。父に献身的につくした母だったが、父の私生児が発見されたことがきっかけだった。


怒鳴り声が響く夜をいくつも過ごし、すすり泣きの響く夜をいくつか跨ぎ、父母の心が擦り切れていく様子を息を殺して見守っていた矢先のことだった。

身寄りのない少女を、父は引き取った。そして、やつれた顔の母は家から姿を消したのだ。


家がそうやって、ぐらぐらと形を変えていったそのときも、少年は息を潜めてひたすら本を読んでいた。ただ新しい知識を読んで覚え、そして新たな知識をひたすら詰め込む。家族に捨てられないように、ひたすら息を殺して時を過ごした。家の中以外の場所を知らない少年は、未知のものが積みあがった机上の知識にかじりつく以外に、自分の価値を確かめる術を知らなかった。


だから、新しく家に住むようになった半分血のつながった妹というものが、どういう生き物かなんて、少年にとってはどうでもよいことだったのだ。




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