魔神と名乗る者
半年かけてようやく迷宮から出ると眩しいくらいの日差しが照りつける。
ようやく、ようやく、迷宮から出ることが出来たのだ。
迷宮での事が長く感じた。
メリーとの仲も深まったはずだったのに。
「あの子を迷って守れなくてごめんなさい。ユウリ」
リリエは唇を噛み締め、悔しそうに顔を下へ向けた。
「いえ、リリエ様は悪くありません。僕の責任です。僕が判断を見誤った結果メリーは」
「でも思いつめないで。あれはメリー自身が選んだ道。もし何か困ったことがあったらここへ行くといいわ」
そう言うとリリエは馬車に乗って去っていった。
渡された地図は2枚でひとつは王都にあるヴィルステッド家、もうひとつはおそらくここの地図だろう。地形が酷似していた。
「なんじゃぁ!この無礼者がっ!」
さっきまで隣にいたクロが褐色の少女を追いかけ回していた。
「クロ!?ハウス!」
クロが大人しくなり自分のところへ戻ってきた。
「はぁはぁ、助かったぞ、人間。感謝してやろう」
息を切らした少女が歩み寄ってきた。
「ごめんね、うちの犬が」
と少女の頭を撫で回す。
『我が犬ですと!?』
「ぶ、無礼者!子供扱いするでないわ!このたわけめ!」
だが少女は嬉しそうな顔をしている。
「迷子?」
「迷子でもないわ!妾はこの大陸を統べし魔神!高貴なる存在、ルーフィア・ベアトリクスじゃ!」
ふふんと少女は誇らしげに胸を張っている。
だが伝説のイメージとは似ても似つかない。
「またまた〜」
『ユウリ殿、そのお方は正真正銘の"魔神"ルーフィア・ベアトリクス』
「本当に?」
「うむ、先からそう言ってるであろう。人間」
「じゃあ魔神ともあろうお方が何故ここに?」
「はぁ、ここはクロウニクス大陸。お主ら人間の言葉を借りるのなら暗黒大陸じゃここは」
「まじですか、、、」
「?何を言っておるそれを知っていてこの迷宮より出てきたのであろう?」
「あー、えっとですね」
それまでの経緯を全て話した。
「うぅ、お主もさぞ辛かったろう。そのメリーとやらを亡くすのは」
ルーフィアが号泣している。
「そんなことがあったのですね」
「ー!?、い、いつからそこに!?」
声のした方へ振り返ると角の生えた軍服の綺麗な女性がたっていた。
「突然申し訳ございません。私は"魔神"ルーフィア・ベアトリクスの親衛隊が一人、氷鬼姫と申します。以後お見知りおきを」
「こやつは鬼族の姫で妾の右腕じゃ。怒らせるとマジで怖いんじゃ」
」」初めまして、ユウリ・ヴィルステッドです」
「さて、ルーフィア様。仕事が途中でございます。戻りますよ」
「嫌じゃ嫌じゃ!!妾がずっと座って仕事できるとでも思うておるのか!氷鬼姫よ」
「知りませんし、興味ありません。私はルーフィア様が仕事さえしてくれればそれで構いませんので」
氷鬼姫はルーフィアの耳を掴み、歩き出す。
「分かった分かった!自分で歩くから耳を離すのじゃ!」
「はぁ、嫌なら最初から自分の足で歩いてください」
「むぅ、、あ、そうじゃ。ユーリシアよ、ここであったのも何かの縁。妾の城へ招いてやる。付いてくるがよい」
「僕は人族ですよ?」
「そうじゃな、だからなんじゃ?」
「え、しかし、"魔神"は人族が嫌いと聞きましたよ」
「それは、4代前の"魔神"であろう、妾は種族は違えどいつかは分かり合え
ると思っておる。おかしいか?」
「あ、いえ」
「ユーリシア様、ルーフィア様は決して種族差別などしません。ルーフィア様はかつて"魔神"の子として生まれたせいで差別を受けてきました。だからこそルーフィア様は種族差別を無くそうと尽力しているのです」
言葉が出なかった。
ルーフィアは凄すぎる。自分とは違う価値観だ。
確かに種族差別をする気なんて毛頭ないが、ここまではっきりと口には出来ない。
「氷鬼姫、恥ずかしいからそうホイホイと言わんでくれ。妾恥ずかしすぎて死にそうじゃ」
身体を震わせ顔を赤らめていた。
「いいじゃないですか。私は尊敬していますよ、ルーフィア様のこと」
この二人の関係性が少し羨ましく感じた。
この二人は本当に信頼しあっているのだ。
「どうしたんじゃ?ユーリシアよ」
「あ、いえ。仲が良くて少し羨ましく感じただけです」
「ハグします?ユーリシア様」
かもーんと言わんばかりに氷鬼姫が両腕を広げている。
「このド天然め!」
「あうっ」
また顔を赤くしたルーフィアが氷鬼姫の頭を叩いた。
「それではついてこい、ユーリシアと犬」
クロはお利口さんになり、ルーフィアの隣を歩き始めた。
この犬は誰にでもしっぽを振るのだろうか。
なんか腹が立ってきた。