初めての迷宮
先生が居なくなってから数ヶ月が経ち、
山奥でいつものように鍛錬する。それが今の日課になっている。
「ユウリ、お前ももう少しで10歳な訳だが」
「何をおっしゃいますか、父上。自分は今7歳、10歳まであと3年もあります。もう少しではありません」
「こ、細かいことは気にするな」
「子供の歳を細かいことで済ますとは、、、」
「分家とはいえお前もヴィルステッド家の者だ。将来は公爵家の名を継ぐことになる。が、しかし、俺はお前に将来は決まっているからと甘えた人生を生きて欲しくはない」
「はあ、そうですか。何が言いたいのですか、父上」
「お前が公爵家を継ぐのは16即ち、9年後だ。それまではお前に自由に生きて欲しい。王都にある学校に通うなり、冒険者になるなりお前の自由だ。お前はどうしたい?」
両親共に険しい顔いや真剣な顔でこちらを向いているが、あまりにも突然すぎて答えが思いつかない。
「父上、母上、僕にはまだ答えが分かりません。少しばかり時間を頂いてもよろしいですか?」
「構わないわ、ゆっくり考えなさい」
自室に戻り考えたが答えは思いつかない。
自分のやりたいことがなんなのかも思いつかない。
そう考えていたらメイド見習いのメリーが部屋へ尋ねに来た。
「なんの御用でしょうか?メリーさん」
「さん付けはおやめ下さい、ユーリシア様。私は同い年とはいえ、メイド見習いでございます」
「そういうわけにはいきませんよ。それで何か用があってきたんですよね?」
「あ、はい!。こちらをお持ち致しました」
メリーさんが持っていたのはケーキと紅茶だ。
紅茶をティーカップに注ぐと自分の前へ出した。
「えっと、、?」
「何か考え込まれていましたので甘いものが必要かとお持ちしましたがご迷惑でしたか?」
「いえ、そんなことありません、ありがとうございます」
ティーカップを手に取ろうとした瞬間足元が青白く光り輝いた。
目を開けると薄暗い場所が視界に入った。
「ユーリシア様ここは一体どこなのでしょうか?」
魔術で光を灯すがそれでもやや薄暗い。
何かが殺意をこちらへ向けているが人ではない何かなのだ。
「メリーさん、危ない!」
「きゃうん!」
咄嗟に【光雷】でその何かへぶつけると呻き声を上げた
「これはブラックウルフ」
ブラックウルフは洞窟や迷宮など薄暗い場所に生息する魔物だ。
即ちここは迷宮もしくは洞窟と考えるべきだろう。
「ということはここは洞窟か迷宮というこですか?」
「恐らくは、、でも何故こんなとこに」
「何者かによる転移魔術。ですが、王国に転移魔術を使えるものはいないはず」
「なぜいないと言いきれるんですか?メリーさん」
「転移魔術は古代の魔術で使えるのはラザニス帝国の現皇帝のみとされているのです。お母様やメイド長がする理由もありませんし、奥様と旦那様にもユーリシア様をここへ転移させる理由もないです。一体誰が、、、」
「メリーさん、今は誰かを疑うのはやめておきましょう。ここから脱出を優先しないと」
誰が転移魔術を仕掛けたのかは気になるが今ここで疑うことに時間をかけている暇はない。
今は出来るだけ早くここから脱出をする方が大事だ。
「そうですよね」
壁伝いに歩いていると奥の方から何か大きな足音が迫ってきた。
「メリーさんは後ろへ下がってください」
「ユーリシア様がお下がりください、主人を守るのはメイドの仕事です」
そう言うとメリーさんがナイフを取りだした。
「ガルルルルルルルゥ!」
鳴き声の正体をみるとそれはブラックウルフとは思えないほどの巨体だった。
「これは、師匠が言っていた変異種」
「変異種、ですか?」
ふと師匠との会話を思い出した。
『ユウリ、よく聞いておいてください。洞窟や迷宮、魔族が住む暗黒大陸は過酷でそこに住む魔物には協力な変異種や亜種といったものが存在します』
『通常の魔物と何が違うのですか?』
『強さが違います。通常とは違い魔力量も桁違いです。変異種や亜種には変わった能力もありますのでくれぐれも倒そうとは思わないでください』
『どうしてですか?』
『私は何度も仲間が死ぬのを見てきました。これは年上からの忠告として受け取っておいてください』
メリーさんが何か思いついたようにスクロールを取りだした。
スクロールには簡易的な魔術を使えるように魔方陣が書き込まれている。
「メリーさん?」
「私もメイドです。主人を守れずしてメイドなど務まりません」
「メリーさん!、1人では危険です!」
「【雷鳴よ、数多の敵を穿て!雷弾】」
メリーさんの使った【雷弾】がブラックウルフに直撃すると軽く呻き声を上げたが大したダメージにはなっていない。
「やっぱり、あまりダメージになってない」
「【人智を超えし力を持たんとする圧政者を封じ、地獄へと落とせ!神封ノ鎖】」
その詠唱によってブラックウルフの足元に4つの魔方陣が浮かび上がりその鎖が足をつなぎとめ、更に新たな魔方陣が浮かび上がると首を鎖が繋いだ。
「これは一体、、、」
「ーーーーーー!」
メリーさんが僕には聞き取れない声を発するとブラックウルフが犬のようになり、彼女に対して腹を見せた。
「メリーさん?」
「あ、すみません。でもこれで大丈夫です。この子案外大人しいですよ」
ブラックウルフの頭を撫でている。
「えっと、、いまのは?」
「あー、あの魔術はそのまぁまたあとで説明させていただきます。少し複雑ですので」
「わかりました」
「申し訳ありません。母とこのことは他言無用と言われてますので」
「お気になさらないでください。人には言いたくない秘密の一つや二つはあると思いますし」
「ありがとうございます!今後もユーリシア様のそばに使わさせていただきます!」
理由はわからないがどうやらブラックウルフは彼女へ服従したようだ。
暖炉を取り、彼女の話を聞いた。
どうやら彼女はシルフィーさんの実の娘ではなく、奴隷から父上が買いシルフィーさんの名目上の娘としたらしい。
彼女はかつて、七大魔獣のひとつ"煉獄ノ虎"を倒したとされる英雄の一人で六神が1人、"神封ノ魔女"の子孫らしかったが家は名誉も地位も地に落ち奴隷へ売ったということらしい。
先程の魔術も古代魔術で彼女しか使えないとのことだ。