プロローグ
俺、佐藤浩市は自分でもわかってるくらいにはクズだ。
28にもなって親の金で衣食住をして、部屋から1歩も出ることなく過ごしているのだから。
両親が死んでようやく気づいた。
自分の愚かさと醜さに。
親はずっと自分の為に声を掛けてくれた。
なのに自分はそれを無視し続けていた。
そんなことを考えながらふらふらと外を歩いていると目の前で女子高生と包丁を持った不審者みたいな中年の男が言い争っていた。
気づいた時には体が勝手に動き、間へ割って入っていた。
何かが腹部に突き刺さり、自分はそのままアスファルトへ倒れた。
ふと見上げると男は駆けつけた警察官に取り押さえられ、女子高生は体を小刻みに震わせ、座り込んでいた。
そこで暗転し、長い眠りに落ちた。
目を開けるとそこにはメイド服を着た20歳くらいの女性と亜麻色の髪をした女神のような女性がいた。
(ここは天国か?アニメとかテレビでしか見た事ないぞ。メイド服は)
そんなことを思っていると亜麻色の髪をした母親と思わしき女性に抱き抱えられた。
「ユウリは大人しいわね、あなたとは大違いね」
「うっせぇ」
父親だろうか上裸の男がその女性の隣に立っていた。
ここは本当にどこなのだろうかと思って自分の体を見ると赤ん坊の姿をしていた。
(これが俗に言う転生?)
5年の月日が流れた。
どうやら俺はこの世界で最も大きい国、シルヴァスタ王国の公爵家ヴィルステッドの分家の子供らしい。
父親の名前は、グレイズ・ヴィルステッドで母親はニア・アルミニウス。
メイドは3人いて、1人はメイド長ローズ・クォーツ、もう1人はシルフィー・アーリス、3人目はメイド見習いでシルフィーの娘のメリー・アーリス。
分家とはいえ公爵家であるため、家も広々している。
簡単に言えば豪邸である。
5歳になると神殿で自身の能力を見てもらう訳だが俺にはどうやら魔術の才能はないらしい。けど、魔力総量だけは極めて高く、魔族よりも上ならしいがもう一度言おう、魔術の才能はない。
宝の持ち腐れってやつだな。
親は落ち込んでるいのではないかと心配し、魔術の家庭教師を雇ったらしく今日その人が来るとか。
ノック音がなり扉を開けるとそこにいたのは想像したような仙人みたいな人ではなく、可愛らしい少女だった。
「お初にお目にかかれて光栄です、第8階梯魔術師"深淵の魔女"シャーリア・フェリクス・エルディム先生」
「こちらこそ。第7階梯魔術師"操演の魔女"ニア・アルミニウスさん」
どうやら母親は相当有名な魔術師みたいだ。
で、家庭教師は恐らく母親のツテだろう。
「母上、この人は?」
「んー、階梯とかわかんないわよね、、、まぁ、有名な魔術師と思ってくれたらいいわ」
「では、彼が?」
「はい、息子の、、」
「ユーリシア・ヴィルステッドです。よろしくお願いします」
みっちりとシャーリア先生から授業を受けた。
厳しく辛く、険しい授業だった。
「貴方、魔術の才能が皆無ですね」
「うぐっ」
「少し考えさせてください、、、」
魔術を当てた木を見ながら先生が深く考え込んでいる
「どうしたんですか?先生」
「ひとつお聞きしても構いませんか?」
「僕の好きな人ですか?当然先生ですよ」
「この魔術もしかして、詠唱とか魔方陣とか書き換えてますか?」
当然のようにスルーされた。
「え、はい、自分の使い易いように書き換えてますけどダメでした?」
「ダメでは無いですがこれは、、、」
彼女は再び考え込んでいる。
「あの、先生?なにかまずいんですか?」
「むしろその逆です。ここまで完璧な魔術の書き換えは初めてみました。攻撃力を下げる代わりに速度を上げてますよね?これ」
「さすが、先生!師匠と呼んでいいですか!?」
「構いませんが、私を買いかぶりすぎです。まぁでも貴方に魔術の才能がない訳では無いというのがわかりました。才能がないのではなくただその才能を生かせてないだけみたいですね」
「でも書き換えて魔術を使うしか出来ませんよ」
「使える魔術がないのなら使える魔術を作ればいいのです」
既存魔術の派生があるとはいえ魔術を作ろうと思ったら基礎から作らねばならないためかなりの難易度である。
「できるんですか?そんなこと」
「はい、ここまで精密に魔術を書き換えてるなら作ることも可能なはずです恐らく。確証はありませんが、、、」
魔術の基礎を徹底的に叩き込まれ、知識も詰め込まされた。
そんな感じで先生から教わり2年がたった。
「あれからもう2年も経ちましたね」
「はい」
「ほとんど貴方には教えました。私が貴方に教えることはもうありません」
「そ、そんな事ありません!!」
「いいえ、もう教えることは無いのです。親離れならぬ師匠もとい先生離れする時です」
「僕はまだ師匠からもっと教わりたいです!」
涙を堪え、唇を噛み締める。
「貴方は気づいていないと思いますが貴方はもう充分強いです。第七階梯魔術師になるのもそう遠くありません」
「師匠、、、」
「これから卒業試験を行います。ユウリ、以前私が出した課題を覚えていますか?」
「えっ、はい。オリジナルの魔術を作れと」
「その通りです、今日はそれを使ってもらいます。基準点として第6階梯以上の魔術であれば合格それ以下は不合格です。だからといってわざと加減したら私も怒ります」
「わかりました」
村に被害を出さないために山奥まできた。
「では、卒業試験を始めます」
「【世界の理を以って円環する、闇と光は決して交わることなく穿つ、存在を肯定せよ、"光闇ノ雷"】」
唱え終わると大きな魔方陣から魔力波のようなものが放たれ周りは焼け野原と化した。
「ーッ!?」
師匠は驚きを隠せないまま立ちつくす。
「師匠?」
「こほん、す、すみません、取り乱してしまいましたね。文句なしの合格です。今のは?」
「魔力波を圧縮させてそこに【闇雷】と【光砲】の術式を加えて発動させたオリジナル魔術です、どうでした?僕の最高傑作です」
「はっきり言ってあれは最古の魔術【神ノ雷霆】同等の第9階梯言っても過言ではありませんね」
「そんなにですか?」
「はい。合格祝いにこちらをお渡ししておきます。では、私はこれで」
「え、もう行ってしまうんですか?」
「ええ、私も次の仕事がありますから、、あ、そうそう、言い忘れてました。その魔術は自分の危機と感じた時しか使わないでくださいね。人攫いに会いますから」
「師匠!お元気で!」
「はい、貴方もお元気で」
彼女の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
渡された鞄をあけるとそこには杖とローブ、お守りのようなものが入っていた。