ソフィーティアの世界
「しかしお前ら、一人残らずコッチに来たのか。」
やれやれといった風にジョンは言う。しかし顔は笑顔だ。
「仕方ありませんよ隊長。女神の姉ちゃんは美人だった。美人の言うことは聞いとくもんでしょ?」
横から大柄な男が口を出す。彼はフリッグだ。
「それに何より、俺達みたいのはどうせ死んだら地獄行き。だったら、女神様のオファーを受けておいた方が得ってもんですぜ。」
更にフリッグの横から少し背の低い男が口を出す。彼はマイク。
「まぁ、確かにな。」
あちこちで笑い声が聞こえる。散り散りになって殺された隊員達が再会を喜んでいるのだ。
そう、彼等は全員一度死んでいる。
「なぁ、お前らなんて言われてここに来たんだ?」
ジョンはふと思いついて、彼等に聞いてみた。ジョン自身はうかつな受け答えの果てだが、団の中にはひょっとしてまともな理由で女神のオファーを受けた者がいるかもしれなかったからだ。
あまり期待はしていなかったが。
「俺は最後にパーっと金使ってから死にたかったって言ったんです。そしたら女神様が、私の契約を受けたら老後は遊んで暮らせるわよって言うから。それに、隊長も来るって言ってたし。」
と、ヨハン。
「俺は女っスね。女神様の話じゃ、この世界は美人がいっぱいいるとか。隊長も来るって言ってたし、だったらいくでしょ。」
とフリッグ。
「お前ら、いや、良いけどよ。お前はどうなんだ、マイク?」
「俺ですか?いやだって、女神様が直々にスカウトに来たんですぜ?隊長も来るって言ってたし、乗っといた方が得でしょ?」
三者三様の答えを聞いて、ジョンは少しだけ照れくさくなった。それぞれに個々の理由はあるが、そこには必ず隊長、つまりジョンの存在が含まれていたからだ。
しかしジョンは嬉しさの裏に後ろめたさも感じる。彼を慕う彼等を殺したのは、間接的にはジョン自身であるからだ。
「フッ、まぁいい。俺も似たようなもんだ。しかし女神様の世界に来たことは良いが。」
ジョン、フリッグ、マイク、ヨハンはそれぞれ周囲を見渡す。
「ここはどこだろうな?」
ジョンの言葉に、三人は両手を上げた。
広場になっているものの、ここは完全に森の中らしかった。
「まぁいい。全員集めて装具点検だ。フリッグ、マイク、ヨハン等小隊長は班をまとめて整列させろ。」
広場の中央に皆を集めて点呼し、各自装具を点検していく。殆どが小銃を放り出して逃げ出したため武器は無し。こちらに来る際にサービスしてくれたのか服に異常は無かった。
「皆持ってるのはタバコとナイフくらいか?まぁ俺もだが。」
隊員によってはガムを持ってたりプロテインバーを持っていたりと様々ではあったが、微細な差だ。
「後はこのリュックだけか、これどこにあった?」
「隊長、アンタが枕にしてたんですよ。」
ジョンが手に持つリュックサックだが、皆見覚えは無かった。真っ黒なリュックサックなど隊で支給していないし、ジョンが枕にしていたというのならジョンの私物だと考えられるが、それもない。
「ふむ、中は本が一冊と、何だこれ?」
中には分厚い本と折りたたんだ一枚の紙が入っていた。
本の表紙には「補給品カタログ」と書いてある。
「補給品カタログね。総員自由に休め、フリッグ、マイク、ヨハンはこっちに来てくれ。」
隊員達は散会して各々喋ったり寝そべったりし出す。
「隊長、なんですこれ?」
「見ての通りだフリッグ。おそらく女神様からのプレゼントなんだろうな。あの女神様は俺に十分な補給を約束すると言った。まぁ何はともあれ見てみようじゃねぇか。」
そう言ってカタログをペラペラとめくりだす。
「うぉっ、マジっスかこれ?ヤバイっスね、何でもあるんじゃないスか?」
カタログには様々なものが載っていた。食料品や衣類、武器は刀剣から火器まで何でもござれで挙げ句の果てには車両の類いまである。
「カタログから品名と必要員数を書き出して、広げたこの紙はなんだこりゃ?魔法陣ってやつか?まぁいい、とにかくこの上に乗せるんだな。」
「ここじゃ車両を出しても走れませんし、取り敢えず行軍するものとして背嚢から小銃まで一式揃えておきましょうか。食料も三日分ほど。」
ヨハンの言う通り、ここは取り敢えずと言うことで試験もかねて必要最低限の装備の補給を行うことにした。
「試験って言っても、大した量になるなこりゃ。広場の真ん中に置いて離れて見てみよう。どうやって出てくるか知らんが、空から降ってこられでもしたらたまらんからな。」
皆を広場の端に寄せ、真ん中に魔方陣の描かれた紙を置く。そしてその上に希望物品を書き出した紙を置くと、ジョンは走って隊員達に合流した。
紙は魔方陣の上で揺らめくと一瞬の内に燃えて無くなり、辺りに淡い光が立ちこめたかと思うと次の瞬間には補給品が一塊になって現れたのだ。
「なるほど、こういう感じね。」
「こりゃ一度やっておいて良かったですね。少なくともこの感じだと、車両は一台づつしか出せなそうですし。おーい、各自必要な装備もって整列しろー。」
60人が手際よく補給品を選り分けて渡していく。傭兵とは言っても基本は軍隊だ。各員テキパキと動いていく。
そうして皆が装備を調え整列すると、多少は見られるようになった。
「よしよし、大分サマになってきたな。後は各員このワッペンを付けろ、どうやら女神様からのオマケらしい。」
補給品の中にひっそりと紛れ込んでいた員数外のワッペン。チェックを入れた覚えはおろかカタログに載っていた覚えも無い。見ればソフィーティアの顔とおそらくこの世界の文字で何か刺繍がしてある。
「神の軍隊って訳ね、これで大義名分もバッチリって訳だ。」
マイクが肩をすくめる。
「いいかお前ら。確かに俺達は女神様に連れられてこの世界にやってきた。だが俺達は傭兵だ、好き勝手やって良いわけじゃ無い。隊のルールは何よりも尊重される。忘れるな!」
ジョンが声を上げる。この傭兵団は規律を守りマナーが良い。それはジョンが徹底して守らせて破った者には厳罰をもって臨んでいるからだ。
「了解!」
隊の全員が声を揃えて敬礼し、返事をする。
「ようし、それじゃぁ取り敢えず出発するかね。」
そう言ってジョンは紙を広げて見る。
「隊長、それは?」
「ワッペンのついでに紛れ込んでた地図だ。おそらくはここら一帯のものだろう。赤い丸で囲われてるのが今俺達がいるこの広場だ。少し東に行けば道がある。後はその道沿いに北上すれば村だか町だかに着くって事らしい。」
そう言ってジョンは意気揚々と歩き出した。
「全体進めだ!」
傭兵団は歩き出す。ソフィーティアの世界を。