白露
青白い、雪色の顔をした少女が、褐色の、夏がよく似合う少女の前で、仰向けで寝ていた。その姿は、もう生きているのか、それとも死んでいるのか。小屋を照らす蝋燭の火がゆらりと揺れる度、褐色の少女は当惑する。蝉声が時雨の如く降る、夏の事だった。
「夏の、貴女の季節に死にたいの」
雪色の少女は、静かにそう言い涙を流す。そして、「貴女は私の季節、冬に」と言った。褐色の少女は、本当は共に死にたかったが、これは遺言かと思うと無下にできなかった。
と、蟋蟀が鳴き始めたと褐色の少女は気がついた。雪色の少女は、とうに息絶えていた。
ジィと見ていると、どこか微笑んだ気がしたので、つられて褐色の少女も微笑んだ。
数刻の間そうしていると、一匹の蟲が、骸に近づくのが見える。褐色の少女は、雪色の、儚さが美しい少女に、蟲がついては困ると手で払った。しかし、払えども払えども蟲は近づき、その数は増えていく。褐色の少女は、冬の中、自分が息絶えるのを隣で見ていて欲しいと思っていた。そうしたら、ようやく二人で永遠を旅する事ができる。その時を思うと、褐色の少女は喜びに身を震わせた。
しかし、蟲が、また数を増やし近づいてきた。それはついに褐色の少女の手をすり抜け、骸の左腕に止まり、歯を立てようとしている。
「やめなさい」
褐色の少女は蟲を握り潰し、壁に叩きつけた。嫌な液体を残し、蟲はぼとりと落下。褐色の少女は蟲が歯を立てようとしたところに頬を近づけた。そして、蟲のように、歯を立て肉を噛み千切った。少々硬いが、雪色の少女の味がする、と褐色の少女は一雫、涙を流した。
「秋の夜が長い事を、貴女は知らないでしょう」
そう呟くと、骸に覆い被さり、衣を剥ぎ、乳房を弄りながら首元を噛み砕いた。咀嚼するたび、褐色の少女から人間が消えていく。血肉の背徳と情愛が、祝福と共に喉を通る。深深と降り積もる雪のように白かった少女は、赤赤とした舞台の上で、一際赤黒く輝いた。そして褐色の少女は、それをひたすらに貪った。
朝日が小屋の隙間から入ってきて、血濡れに肌を隠した少女が外に出た。小屋の中には誰もいない。少女はまだ生きていても良いかもしれない、そう思った。
そして結ばれた朝露が花々に降り、一つ地に落ちる。