自分の役割④
投稿日が一日遅れてしまいすみませんでした。
多内:「選手交代、キャッチャー内埜」
塚谷は交代を言い渡された。内埜は守備位置に向かった。
内埜:「ノーアウトランナー1、2塁。内野ゲッツー体制」
内埜の声がグラウンドに響いているのを背にしながら、茫然として塚谷はベンチに戻って行った。ベンチに戻ると、多内先生に呼ばれた。
多内:「塚谷、ちょっと来い」
気持ちの整理がつかないまま向かう。
多内:「俺は試合前になんて言ったのか覚えているか?」
多内先生はサングラス越しに、グラウンドをまっすぐ見ながら問いかけた。
塚谷:「自分のやれること、できることをしっかりやれと言っていました」
多内:「そうだな。じゃあなんで交代させられたと思う」
塚谷は一回強く唇を噛んでから、口を開いた。
塚谷:「それは、西谷のボールを止められることができなかったからです」
悔しそうに言う。だが、多内先生の返答は意外なものだった。
多内:「それも一つの要因だが、違う。」
多内先生は塚谷の顔を見て話しを続けた。
多内:「エラーは誰にでもある。ましてやキャッチャーを始めて一か月もたたないお前に全球止められるとは俺も思っていない。だが、エラーをした後の行動が俺は気に入らない。エラーしたことを引きずり、ピッチャーや野手に声もかけず、一人で野球をしていた。声を出すことはお前でもできたはずだ。だが、お前はそれをしなかった。だから俺はお前を変えた」
塚谷:(その通りだ。俺は自分のことで精いっぱいになって周りのことなんか考えていなかった)
自分への情けないという気持ちが込み上げてくる。
多内:「この試合は、ブルペンでピッチャーの投球練習するとき以外は俺の隣にいろ」
塚谷:「はい」
塚谷は水分補給をしてベンチで声を出した。
この回は西谷が何とか踏ん張り追加点は与えたものの、最少失点で切り抜けることができた。4回の表が終わり、3-2と鳥一が勝っていた。塚谷はベンチに西谷が帰ってくるとすぐに声をかけに言った。
塚谷:「ごめん俺のせいで点を取られてしまった。」
謝ると、西谷は答えた。
西谷:「まぁ、そうだな。止められなくなって最後に変化球じゃなくて逃げてストレートを要求するようなやつは最悪だな」
最悪という言葉が心に刺さる。
西谷:「でも、この試合で何か一個でも学べたなら良いんじゃないの?」
そう言うと、水を飲んだ。塚谷は少しその言葉に救われた。
西谷:「帰りに牛丼おごりな」
塚谷:「あっ、はい」
塚谷は多内先生の隣に戻った。この回は6番の堀之内からだ
多内:「塚谷、相手のキャッチャーをよく見て学んでおけよ。同い年のはずだから」
多内先生の言葉に塚谷は驚いた。
塚谷:「あのキャッチャー一年生なんですか?!」
多内:「たぶんな」
堀之内はサードフライを打ち上げて帰ってきた。
多内:「あのピッチャーもたぶん一年だろうな。試合が始まって守備の時の掛け声を敬語で言っていただろ。あの性格で同い年に敬語を使うはずもないと思うし、照葉高校は人数の多い高校でもないしな」
塚谷は1回の守備の時の掛け声を思い出してみると敬語で言っていたような気もする。
多内:「こんなに近くで、あんなにいいキャッチャーを見れることなんてなかなかないから、しっかりと見て一個でも自分のものにできるようにしろ。特にタイムを取るタイミングなんて完璧だぞ」
塚谷はグラウンドを真剣なまなざしで見た。
塚谷:(同じ一年、、、、)
その後試合は七回まで膠着状態で進んだ。
西谷は七回までをピンチは作るものの得点させることは許さなかった。対して照葉のバッテリーも変化球を使いながら目立ったピンチもなく抑え続けた。
松林:「ここからが正念場だぞ」
少し息のあがった小田嶋に向かって言う。
小田嶋:「わかっているよ。中学までは7回までしかないから、こっから先は未知数だ」
2人はベンチに戻ったら、小田嶋だけは監督に呼ばれた。
監督:「おつかれさん。8回からは次のピッチャーでいく」
小田嶋:「なっ?!」
小田嶋は突然の交代に少し戸惑った。
小田嶋:「なんで交代なんですか!!まだ俺投げられますよ!!最終回までいかせてください!!」
続投を願い出たが、監督の反応はノーだった。
監督:「お前の実力は十分わかった。明日も投げるかもしれないんだから、しっかりと体を休めておけ」
少し不満そうだが、明日も投げる可能性があることを知り、渋々交代した。
鳥一のピッチャーも変わった。
多内:「西谷よく七回までしっかりとゲームを作ってくれた。ここで交代だ。」
西谷:「わかりました」
西谷はダウンをしに行った。
多内:「次のピッチャーは中川だ。ブルペンから呼んで来い」
前もって知らされていた中川は8回のマウンドに上がった。
照葉の八回の攻撃は7番から始まった。ランナー二人を出すも松林の前でしっかりと抑えることができた。鳥一は5番の杉本からだ。杉本は変わったばかりの照葉のピッチャーからセカンドの後ろに落ちるポテンヒットを打ち、ファーストベース上でガッツポーズをしてみせた。
杉本:「よっしゃーー!!!」
鳥一ベンチは恥ずかしくて誰も反応しなかった
武田:「恥ずかしいからやめろよ」
下を向きながら言った。
大松:「あいつまるでホームラン打ったみたいに喜ぶじゃん!!」
大松だけ爆笑していた。
杉本が出るもあとが続かず、8回の攻撃は0点になってしまった。9回の表、照葉高校の攻撃は3番の松林から始まった。
松林:(このまま小田嶋の初マウンドを負けでは終わらせない)
ベンチにいる小田嶋を見てから打席に入った。
中川:(俺は絶対打たれないぞ)
内埜:(このバッターが一番危険だ。ここさえ抑えられればこの試合勝てるぞ)
外野は長打警戒で定位置より後ろに下がっていた。セカンドとファーストも強い打球が飛んでくるのに備えていた。
中川はセットポジションから初球を投げ、松林はそれを見逃した。
内埜:(初球はボールか。中川に西谷ほどコースを狙えるほどのコントロールはない。ボールになってもいいから俺は厳しいところに構えよう)
内埜はストレートをボール気味に要求した。
中川:(そんなところに投げても打ち取れない。違うのでいこう)
中川は首を振った。
内埜:(首を振ったってことは、中川にも何か考えがあるんだろう)
そしてバッテリーはインコースのスライダ―を投げることにした。(すべて中川の意見だが、、、)
中川は二球目を投げた。しかし、ボールは浮きインコースの高さは真ん中になってしまった。
内埜:(まずい!!)
金属音が響き、長打警戒をしていた外野の頭を超え、ボールはライトスタンドに吸い込まれていった。
「「よっしゃーー!!!」」
松林は小田嶋に向かってガッツポーズをした。
小田嶋:「あいつ」
フッと笑いながら小さい声で言った。
松林はホームに帰ってきてベンチに戻って行った。
皆がハイタッチで迎える。
「ナイスバッティング!」
「お前スゲーな!!」
「どこまで飛ばすんだよ!!」
チームメイトが並んでいる一番後ろには小田嶋が待っていた。
小田嶋:「ナイスバッティング」
そう言うと、グータッチを求めた。
松林:「初めての試合でお前を負けさせねーぞ」
松林はグータッチに応えた。
しかし、後が続かず9回の攻撃は松林のホームランでの1点で終わってしまった。
松林:「さぁ、最終回しっかり3人で抑えていこうぜ」
照葉ベンチは盛り上がって守備についた。
鳥一の攻撃は8番の内埜から始まったが、誰も塁に出られることなく3人で終わってしまい、塚谷たちの初めての試合は引き分けで終わった。
試合が終わり、グラウンド整備をしていると、塚谷は試合をバックネット裏から見ていた神山コーチに呼ばれた。
神山:「おい、塚谷。ちょっといいか」
塚谷は走って神山コーチのもとに走って行った。
神山:「さっきの試合の反省点は多内先生に言われたと思うが俺からも言わせてくれ」
塚谷:「はい」
塚谷は返事をした。
神山:「途中で声が全くでなかったのはよくないな。あそこは気持ちをしっかりと切り替えていかないと、次のプレーにも迷いが出てしまうぞ」
塚谷は小さく返事をした。
神山:「だが、俺はお前を応援している。この3週間、残ってキャッチャーの練習をしているのも知っていたし、それは多内先生も認めている。だから、今日のスタメンマスクを決めるときに一致で塚谷になった。だから、これからもその姿勢は続けていけよ」
塚谷はこの3週間が無駄ではなかったことが知れて少しうれしくなった。実際、昨日の中田との件でこの3週間の自主練習は意味がなくなったかのように思っていたからだ。
神山:「あと、川口監督が好んで使うキャッチャーの特徴を教えよう。なんだと思う?」
塚谷は考えたが、よくわからなかった。
神山:「それはだな、元気な奴だ。レギュラーの近道は実力や技術も必要だが、とにかく声を出せ。そうすれば、目立つし、監督も使ってくれる。わかったな?」
塚谷:「はい!!」
塚谷は大きな声で返事をした。
神山:「ベンチにいるときも、自分が試合に出ているみたいに指示をとにかく出しておけ。そうすれば試合に出ても自分がどんな指示を出せばいいか、わかるようになるからな」
神山は一呼吸置き、頑張れよ、と言いその場を去った。
塚谷:(声か、、、声なら今の俺でもすぐできる。俺はこのチームで1番声の出る選手になってやる)
塚谷は前を向いた。




