1回の表
ついに始まった練習試合、鳥手一校は後攻で先に守備に就いた。
塚谷:(ついに始まるんだな。)
塚谷はマスクを被り、しゃがんだ。練習試合だが、緊張がピークに達していた。マウンドに上がっている西谷がとても遠くに感じた。西谷の投球練習が終わり、塚谷は立ち上がり、ホームベース前で大きく息を吸い込んだ。
塚谷:「1回、声出してしまっていくぞ!!!」
そういうと、座り主審の試合開始の合図を待った。照葉高校の1番バッターが打席に入った。塚谷は自分の心臓の音がよく聞こえていて、緊張しているのが自分でもわかっていた。
「プレイボール!」
対外試合初戦、vs照葉高校との試合が今始まった。
塚谷:(まずは先頭バッターをしっかり抑えないとだな。初球はアウトローにまっすぐ。)
鳥一バッテリーはサインを交換し、西谷は大きく振りかぶった。西谷が投げたボールはミットに吸い込まれるように入ってきた。
「ストライーク」
塚谷:(よし!ブルペンの時と何も変わらない。今日の西谷ならしっかりと抑えられる。)
塚谷:「ナイスボール」
返球をするとすぐにサインを交換した。続く二球目、縦に割れるカーブがファールをとり、追い込んだ。
塚谷:(追い込んだ。ここはフォークで三振を取ろう。)
西谷はそのサインに頷き、投球モーションに入った。
コースは真ん中から落ちるように来た。だが、バッターも態勢を崩されながらもなんとかファールにしてきた。
塚谷:(ここは、もう一球落として三振を狙おう。)
西谷:(ファークは連投すると試合の後半に握力がなくなって、制球が定まらなくなるから多くは投げたくないんだよな。)
西谷は首を横に振った。
西谷:(俺の持ち味はストライクをテンポよく取って、打たせて取り、守備からリズムを作ることだ。フォークはここぞって時に投げよう。今日は絶対完投してやる。)
塚谷が次のサインを出すと頷き投げた。バッターはカーブをひっかけてショートゴロになった。
武田:「ワンアウトーーー!!」
外野からとんでもないくらい大きな声が聞こえた。その声につられるようにアウトカウントの確認など、各ポジション、コミュニケーションを取っていた。
塚谷:(まずは、先頭バッターを抑えたぞ。)
続く二番バッターもセンターフライに打ち取りツーアウトになった。
「3番キャッチャー松林君」 (ホームグラウンドのマネージャーがアナウンスをしてくれている。)
松林は左打席に立ち、構えた。
西谷:(なんか雰囲気あるな。ここは際どくいっとくか。)
塚谷:(ツーアウトまできた。ここはテンポよくストライクを取っていこう。)
2人の考えは真逆になっていた。サインを交換すると、塚谷はアウトローに構えた。
西谷:(構えている位置が少し甘いな。まぁ、俺が少し外に投げればいいだけか。)
西谷は塚谷が構えている位置より少し外側に投げようとした。だが、内側に入ってしまい、松林はそれを見逃さなかった。
カキーン
松林の打球はショートの頭上をライナーで越えていき、左中間への強烈なツーベースヒットとなった。
「ナイスバッティング松林!!」
照葉ベンチが盛り上がった。
西谷:(クッソー。ミットを意識しないように意識したら、逆に甘くなっちまった。)
塚谷:「ツーアウト。外野定位置、内野オールファースト。」
塚谷の指示で、ポジショニングを変えた。
本田:「西谷、気にするな。あと一個アウト取って初回ゼロで抑えよう。」
西谷:「はい。」
「4番ピッチャー小田嶋君」
塚谷:(ピッチャーで4番とか、カッコ良すぎだろ。少し警戒して初球入ろう。)
小田嶋は右打席に入った。塚谷はストレートのボール球を要求したが、首を横に振られた。
西谷:(全員初球ストレートでいったら狙われるだろうが。)
球種をカーブに変えてボール球を要求すると、頷き西谷は投げた。小田嶋はその初球を狙っていたかのように思いっ切り振ったが、タイミングが合わず空振りとなった。
小田嶋:(ストレートがくると思ったんだけどな。)
打席を外し一回素振りをしてから、打席に戻ってきた。
塚谷:(あ、あぶねー。ボール球とはいえ、ストレートだったら危なかったな。)
西谷:(やっぱり、ストレートを狙ってきたか。そう簡単には打たせねーよ。)
二球目はアウトコースにスライダーを投げるもボール、三球目もボールになり、カウントは2-1となった。
西谷:(まだ、初回なんだから、カウントは悪いがこのバッターと勝負だ。)
塚谷:(スライダー二球外れちゃったか。なら、この球とか投げたら意外に面白そうだな。絶対このボールはこないとバッターも思ってるはずだ。)
塚谷のサインを見て西谷は驚いた。
西谷:(ここでその球はないだろう。でも、このバッターもピッチャーをやってるなら、この球がここで来るとは思ってないだろう。よし、それでいってみよう。)
西谷は頷いた。塚谷は自分でサインを出したが、まさか頷いてくれるとは思っていなかったので、驚いたがすぐに真ん中に構えた。
松林:(あのキャッチャーあんなに真ん中に構えてる。小田嶋次の一球をしっかり捉えろよ。)
西谷はセットポジションに入った。一度セカンドを見て目で牽制をいれ、クイックで投げた。
ボールは塚谷の構えた通り真ん中に来た。いや、それよりも甘く見逃すのがもったいないような球だ。
小田嶋:(ど真ん中の真っ直ぐ!もらった!)
小田嶋もそんな甘い球は見逃すはずがない。だが、ボールはベースの手前で落ちた。ボールはバットの下に当たり、ピッチャーゴロとなった。
「よっしゃーー!ナイスピッチング!」
鳥一ナインは声をかけながら、ベンチに戻って行った。松林と小田嶋もベンチに戻って行った。
松林:「まんまと、やられてやるの」
松林が馬鹿にしたように小田嶋に言った。
小田嶋:「いや、あんなど真ん中に来たら、打ちたくなるだろ!しかも、あのキャッチャーの配球的にここでフォークはないと思った!!」
小田嶋はしょうがないと言った感じだ。
小田嶋:「だがしかーし、やられっぱなしでは終わらねー。守ってるときはピッチングで借りを返してやる。」
そう言うと走って、マウンドに向かった。
杉本:「ナイスピッチング西谷!」
西谷:「サンキュー」
2人はグローブでハイタッチをした。
西谷:「先制点を頼むぜ」
武田:「任せておけ!俺が取ってきてやる!」
西谷はベンチで水分補給をした。終わると、塚谷をすぐに呼んだ。
西谷:「塚谷、ちょっとこっちきて。」
塚谷は呼ばれてすぐに行った。
塚谷:「なに?」
西谷:「何個か言うことがあるが、まず配球が全然ダメ。もっと色々考えながらじゃないとダメ。最後の4番バッター首振らないでまっすぐ投げていたら、確実に打たれてたぞ。」
塚谷:「たしかに、ストレートを狙ってた感じの振り方だったね。」
塚谷は同意するように頷いた。
西谷:「なんで狙われたかわかるか?」
そう聞かれると、少し考えこみ答えた。
塚谷:「、、、、、打てそうなくらい遅いから?」
塚谷は真顔で答えた。
西谷:「お前、すごく失礼な奴だな。」
西谷は話を続けた。
西谷:「そうじゃなくて、お前1~3番までの初球全部ストレートからだったぞ。」
塚谷:「えっ、そう?」
塚谷は思い出していた。
塚谷:「あっ、確かに全員初球はストレートから入ってる。」
西谷:「そうだろ?たぶん4番バッターはそれに賭けたんだと思う。俺は3番と4番が打席に立った時に他のバッターと違う雰囲気を感じた。やっぱりスイングが全然違ったよね。そういうの感じたか?」
西谷は塚谷の方をまっすぐな眼差しで見た。
塚谷:(俺はあの時アウトを取るのを急いでいた。打者を見るより、自分のことで精いっぱいだった。)
2人の間に少しの沈黙が続いた。
西谷:「なにも言わないってことはわかってなかったんだな。あとは、構える位置が甘いから、もっといつもの練習みたいにはっきり構えていいぞ。配球に自信がないのが構えから出ているぞ。」
塚谷は何も言えなかった。全部西谷に見透かされていた。俺は下を向いた。
西谷:「だけど、最後の配球は面白かったぞ。」
塚谷は顔を上げた。
西谷:「本来ならあの配球はありえないけど、あのバッターならありだな。俺も思いっ切り挟まないで、軽く落とすようにしてゴロを打たせるようにしたんだけどな」
西谷はニコッと笑い、それにつられるように塚谷も笑顔になった。
西谷:「最後に、フォークは握力を結構使うから、投げないで済むなら投げるのは少なくしたいかな。それを考えながら配球頼むわ。」
塚谷:「わかった。」
考えることが多すぎて、塚谷はパンクしそうだった。
西谷:「まぁ、お前が何もできないのはわかっているから、お前がこの3週間練習してきたことをやればいいよ。残りは2人で協力して、2回以降も抑えていこうぜ」
そういうと、西谷は塚谷にグータッチを求めた。それに塚谷も答えた。
1回の表が終わった。




