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第95話 キャンプといえばカレーだよね

精神的に病みかけて執筆が滞っていました。

 空気がかちこちに固まっていた。

 その原因は言うまでもなく、カナンの発言によるものだ。


「えーっとぉ……Sランクって……ほんと、なの?」


 沈黙を破り、リナリアさんが声を出す。


「本当よ。まだなったばかりだけどね」


「……くっ、ははは! そりゃどうりで強い訳だ! 一本取られたよ!」


 顔を押さえながら恥ずかし気に笑いだすエリナさん。

『3人ともあたしが守ってあげるから!(キリッ)』とか言っていた相手が上のランクだったとか、そりゃ笑うしかないわな。


「ふむ、応援に来る冒険者の人数とランクは聞いていたが、まさかカナンちゃんがSランクとは」


「なんだ、クラッドちゃんは知ってたのね。ま、隠していたつもりはなかったけどね」


「まあ、私はこの目でカナンちゃんの実力を一度目の当たりにしているものでな」


 それもそっか。オレの魔霊フォームも一度見せてるしな。終始冷静だったのはそういう事なのだろう。


「ちなみにだが、明日、カナンちゃんの他にもう一人Sランクの冒険者がこちらへ到着する予定だ」


「もう一人か……。戦力は多いに越したことはない。仲良くしたいね」


 そうえば、以前に一度会ったオイカワとかいう冒険者。

 あいつも一応Sランクらしいな。どうでもいいけど。



 そんな話は置いといて、話題はワイバーン討伐に関するものへと変わっていった。


『――という訳で、ワイバーン討伐の依頼はたった今からAランクへ上がることになったのう。申し訳ないが、Cランク以下の冒険者は総員帰還するように』


「俺たちじゃ力不足か。ま、命令なら仕方ねえってやつだ。こういう時に私情を挟む奴は大抵死ぬからな。大人しく帰るぜ野郎ども」


 野営地の中心にあるテントの中にある丸い水晶――クラッドさんいわく、ギルドと情報を共有する為の通信水晶だそうだ――を囲んで、この場にいる冒険者全員がギルドからの命令を聞いていた。


 身の丈に合わない依頼は受けない。それが冒険者たちの中での暗黙のルールであり、最低限のタブーでもある。


 今回の場合、ランク自体はAに引き上げられただけだが潜在的にはSランク以上の危険度に達しているとギルドの判断だそうだ。


 Cランク以下の冒険者10人ほどは、少し悔しそうにも文句は一切言わなかった。彼らが弱い訳ではない。相手にする魔物が強過ぎただけの事だ。


 ちなみにオレたちがこの依頼を達成した暁には、協力していた彼らにも報酬が支払われるらしい。



「さて、これからの作戦の為にも備えなくてはね」


 彼らが帰還したのにはもう一つ理由がある。それがオレたちの作戦だ。


「今回襲撃してきたワイバーンどもには、明らかに何か統率されたように見えた。となると、再びここを襲ってくる可能性もある」


「そこにあえて賭けるのよね?」


「そうだ。あえてワイバーンを誘い込み、泳がせて住み処を突き止める美しい作戦だ」



 要約するとこうだ。


 今回の襲撃でワイバーンどもに野営地の場所を知られている可能性が濃厚となった。しかしこちらはワイバーンどもの住み処をまだ突き止めていない。


 そこで、あえてワイバーンどもをこの野営地に襲撃させ、ワイバーンの一匹に何か目印をつけて倒さず泳がせるのだ。そうして住み処まで案内させたら、そのまま一網打尽という戦法だ。


 だが、この作戦を行うにはCランク以下の者たちでは足手まといにしかならないと思われる。万が一犠牲者が出てからでは遅いのだ。


 彼らは明日、もう一人のSランク冒険者と入れ替わりに帰還する手筈となった。


「ここまで共に戦ったのに、すまない……」


「いいってことよクラッドのおっさん! 俺たちには俺たちの役割があるからな!」


 報酬は支払われるとはいえ、共に依頼をこなしてきた仲間たちが戦力外であると思うのはなかなかに辛いものらしい。幸いなのは、誰ひとりとして反対する者がいないことか。


「……そうだ主様(ますたー)。ちょっと考えがあるんだが、いいか?」


「うーん、なあに?」


「それはな――」


 カナンに耳打ちでごにょごにょ。別に他の人に聞かれたくない話ではないけど。







「――これらを刻めばいいのね?」


「ああ。均等に頼む」



 オレはゴスロリの上からピンクのエプロンを身につけた格好をしていた。


 薄暗くなってきた野営地のはずれにあるひらけた場を石を並べて作った即席の調理場にて、オレは調理器具を一式収納から取り出して料理を始める。


 カナンにもまな板の上の野菜とお肉の絶対切断(カット)を手伝ってもらっているが、味付けには関わらせないのでひどいことにはならない……はず。能力の無駄遣いだなこれ。


「あたしたちにも手伝える事がありゃ言ってくれよ?」


「ああ、じゃあお米を炊くのを頼む。なるべく焦がさないようにおねがい」


「任せてくれ!」


「それじゃあわたしはカナンちゃんが刻んだものを炒める係をやりたいわねぇ」


「じゃあリナリアさんにはそれを頼む。主様(ますたー)が斬り終わったら取りかかってくれ」


 オレは大釜にネマルキス産の黒米とお水をあらかじめ入れたものをエリナさんに任せる。リナリアさんにはカナンの仕事が終わったら引き継いでもらう予定だ。


「さてと……」


 オレは細長い杖のような魔道具を取り出すと、鍋の下の燃料である木材に向けて強く握る。すると、先端から小さな火が出て木材に着火した。


「おぉ、ほんとに火がついた!」


 着火ライターみたいでなんだかちょっぴり感動。

 火がついたら、燃えやすい針葉樹の葉っぱとかをくべたりして少しずつ火力を高めてゆく。


 そうして弱火程度の火力になったら、バターの塊を入れたお鍋を熱し、温まったらバターをへらでかき混ぜながら小麦粉を投入。そうしてしばらくまぜまぜ。

 火力を調整している間にスパイスの用意も忘れずに。




 ――オレが作ろうとしているものはそのものズバリ、みんな大好きカレーライスである。

 それも、とろっとした日本人にはお馴染みのタイプのものだ。


 なお、そもそもインドには「カレー」という料理はないとか。


 お馴染みのとろっとしたカレーは、実はイギリス人が考案したものだったりするらしい。船旅の中でシチューが食べたくも、日持ちしないので断念せざるを得なかった船員たちが、余りある香辛料を用いて日持ちする「インド料理風シチュー」を作った結果、ひとつの料理として確立したという。


 ……説がある。




 それはさておき閑話休題。




 オレは、明日ここを抜ける冒険者のみんなを労う為に、美味しいお料理を作ってあげようと取りかかっている所だ。


 オレが作りたいのは、本場インドのさらさらスープカレーではなく、イギリス発祥のとろとろシチュー的カレーである。


 もともと作りたいとは思っていた。だが、食材や加工食品を売っているお店をいくら見ても、あの板チョコみたいなカレーのルーのもとは見当たらなかった。


 これではカレーが作れない……というのは嘘だ。実は意外と簡単に作れるんだなこれが。


 あのとろみは、バターと小麦粉を熱してかき混ぜればできたりする。そこに調合して炒った各種スパイスとはちみつをまぜまぜすりゃ、あっという間にカレーのルーのもとの完成だ。


 そこからは通常のカレーの作り方と変わりはない。


 ただし今回は十数人分の量を作るとなり、オレ一人では主に筋力的に厳しい所があった。なのでカナンはもとよりリナエリの二人にも手伝ってもらった。


「すごく良い香りがするわね」


「かれー? だっけ。そんな料理があるって話は聞いた事はあるけど、実際に作れるオーエンちゃんって凄いね? ほんとに二月前まで魔霊だったの?」


「……エリナはわかってないわぁ。きっとカナンちゃんの為に頑張って覚えたのよぅ。健気な子ねぇ」


 ……。

 そんなことないぞ。前世で習得したんだぞ。


 そんなツッコミは胸の内にしまっておいて、オレは出来上がったカレーを大鍋から小匙で一口味見する。ふむふむ、我ながらなかなか美味い。


 完成前はスパイスがちゃんとカレーの香りになるか心配だった。なにせ異世界、地球とは香辛料も色々微妙に違っていたりする。あるものがなかったり、ないものがあったり。


 地球のカレーと全く同じものとはいかなかったものの、これはこれでかなり美味い。大成功だ。


「もぐ……こりゃあ美味い! オーエンちゃんならお店を開けるよ!!」


「そうねぇ、カナンちゃんと二人で切り盛りするお店……行ってみたいわぁ」


 そりゃさすがに言い過ぎだろ。家庭料理の範疇だぞ?

 ……とはいえ、オレでもびっくりするくらいの良い出来だった。


「ふふん、そーよ! おーちゃんはとってもお料理上手なのよ!!」


 なんで主様(ますたー)の方が偉そうなんだか……

 それはともかくとして、いよいよ待ちに待った夕御飯の時間だ。


「列に並んで順番にねぇ~」


「なんだこの美味そうな匂いは? 今日はご馳走みたいだな」


 お皿にライスとカレーをよそって、オレたち女性陣とクラッドさんは列に並んだ冒険者さんたちに手渡していく。


 ……オレを女性陣に含めてもいいのかは些か疑問だけど。


「お嬢ちゃんすごいな、お料理が上手な上に強くって、しかもとっても可愛いなんて。将来はとっても良いお嫁さんになれるよきっと」


「カナンちゃんと揃ってこりゃあとんでもねえ美人に育つに違いねぇぜ!」


「へあぅっ?! ど、どうも……」


 急に『可愛い』とか『お嫁さん』とか言われるとどきっとしちゃうからやめてくれぇ……。胸の奥がもやもやしてきちゃうから……。


「っ! こりゃうめえ!!?」


「昔帝国で食べたカレーより数段は美味いぞ!?」


 それはそうとして、オレたちで作ったものを目の前でおいしく食べてくれるっていうのは、なんだか幸せな気持ちになってくる。


「なにこれすっごく美味しい……! やっぱりおーちゃんは天才ね!!」


「えへへ……」


 おもむろにオレの頭をくしゃりとなで回すカナンの手が、思いのほか心地よくて声が漏れる。


「……ふふ。それじゃあ、これからはおーちゃんの手料理いっぱい食べさせてくれる?」


 お? これは胃袋を掴んだってやつか?

 オレはマジで良妻になれる素質があるのかもしれないな。そろそろ諦めて女の子として生きていこうかしら?


 ……冗談でもそう思えてしまう自分がなんかめっちゃ怖くなってきたんですけど。


「あうぅ……」


 少し複雑な気持ちになり、思わず口へとかっ込んだあつあつ手作りカレーの味。それが、オレの否定する気持ちの全てを肯定しているような気がした。


 やっぱりオレって良妻の素質があるのかなぁ。


「おーちゃんかわいい」

「おーちゃんまじ良妻」


等と思った方々はぜひともブクマ&星評価をおねがいします。

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おーちゃんかわいい<遺言
[一言] さらっと帝国にカレーあるんかい
[一言] めすおちしてください()
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