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第87話 大海の魔王

風邪引いたけどコロナじゃなかったよ!

 がたんごとん。がたんごとん。

 心地よく揺られてうつらうつらとしていたその時。


『まもなく~、終点 霊峰麓町~。終点 霊峰麓町~』


「ふがっ……?」


 車内アナウンスが、目的地が近い事を知らせた。

 んー、今の時間は……




 《現在の時刻は 午前11時56分です》




 あっはい。ありがと明哲者さん。


 そうか、もうすぐ正午か。寝てたからどれくらい経ってたのか覚えてないけど、発車が9時だから三時間も乗ってたらしい。


「おーちゃんったらよだれ垂らしちゃってカワイイわね」


「あふぇ? ほんとだごめん……」


「いいのよ。かわいいから」


 なんだか最近ますますオレの幼女化が進んでいるような。気を抜くとオレがオレじゃないみたいだ。


「……着いた。降りるよ2人とも」


 列車の扉ががらりと自動で開き、座っていた他の乗客たちと一緒にオレたちもぞろぞろと降りてゆく。


 駅舎は翡翠のような蒼く透き通る色の石レンガで造られており、見ているだけでどこか落ち着く色合いだ。

 出口へと向かっていると、ホームの中心部にはお弁当なるものを売っている小さなお店が目に入る。


 いわゆる駅弁ってやつか。次に乗る時には買ってみようかな。


 ちなみにこの駅には他にもホームがあり、ここがこの国でも有数の大きな駅であると実感させる。


「興味津々ね、おーちゃん」


「まあな。なんだか懐かしいなって」


 地球ではこういう光景をよく見てたっけ。覚えてないけどな。






 改札の蒼い結界をくぐると、手に持っていたきっぷがぱらぱらと崩れて白い塵になっていった。

 魔法ってやっぱ凄いな。



「ほぇ~、ここが麓町かぁ」


「もっと田舎っぽいの想像してたわ」


 改札を抜け大きな駅舎から出るとまず目に入ったのは、雲も天も突き抜けるように聳え立つ霊峰の姿であった。


 数百メートルのタワーなんて目じゃない。富士山だとかそんなちゃちなものでもない。標高一万メートル。改めてその圧倒的な印象を植え付けられるようだ。


 そんな霊峰が見下ろすこの紺色の街並みは、異国情緒溢れる風景でもあった。


 街はしっかり区画が整理されており、大通りや小道がきっちり繋げられている。


 建物に関しては三階~十階と比較的高層のものが多く、その大半が紺色や白色の巨大な岩を四角く細かく削って組み合わせて造られているようだ。壁面は幾何学的な模様が描かれたりしていて、超古代文明的なイメージを抱く。

 地球の製法とは全く違う、オレの知らない技術が使われているのかも。




 《解析鑑定中……。紺色のものは〝星空岩(せいくうがん)〟、白色のものは〝白夜岩(びゃくやがん)〟を【地操作魔法】で加工して造られたものと推定されます》




 ちょっと明哲者さん?


 なんか頼んでないけど説明してくれた。ありがと。

 そして魔法を使ってこの建物たちを作ってるのか。凄いな、さすがはファンタジー。


「王宮は霊峰の頂上にある。ここはいわゆる城下町のような場所」


「頂上って、まさかオレたちこれからあの山に登るのか!?」


「さすがの私も骨が折れそうよ」


 カナンに部分召喚で翼を生やせばいけなくはなさそうだが、まさか一万メートルの頂に登らなくちゃいけないのか?


「……登る訳がない。〝転移陣〟を使って移動する」


「転移陣……って何だ?」


「特殊な魔法陣で、上に乗ったものを別の場所に飛ばす事ができる陣」


 なるほど、どこでもドアみたいなやつか。

 ふたつの転移陣を魔力で繋げておくと、互いの場所を行き来できるようになるらしい。

 そういやラクリスがそんなの使ってたような……。


「城内へ繋がる転移陣は霊峰の山体の中にある。そこへの入り口は少し遠い。だからまたバスに乗る」


「ヤダ!!」


 また即答かよ。このやり取り何回やるんだか。


「でも、おーちゃんが何でもしてくれるなら乗ってあげてもいいわ」


「……拒否権なくないかそれ?」


 その権利、元々列車乗る時にあげてるし。

 というかそんな権利なくても、カナンの頼みなら痛いこと以外何でもするけどな。


「……仲が良くて何より」


 なんでルミレインはオレ達をそんな冷めたジト目で見つめるのさ。


「そうよ、おーちゃんは私のお嫁さんだもの!」


「うぇっ!? そーなの!?」


 オレってカナンのお嫁さんだったの!?

 初めて知った!!?


 ……茶番はさておき、道を歩いているとバス停としか言えない立て看板が歩道に立っていた。

 そこでしばらく待っていると、トゥーラムルで乗ったものよりやや大きめなバスがやって来る。馬車を改造したような見た目だ。


 トゥーラムルで乗ったものとは違って運転手さんに現金の支払いをすると、奥の2人用の座席に3人詰めて座った。オレとカナンは小さいからこれでもまだ席のスペースに余裕がある。



 それからバスは走る。

 停留所には必ず止まって1分間扉を開くのは乗降の為だろう。

 馴染みのある路線バスとは違って押しボタンで知らせるタイプではないらしい。


「次、降りる」


「了解よ」


 ずいぶんと霊峰まで近づいてきた。

 すると霊峰の周りだけ急に建物が少なくなって、ひょろっと細長い幹をした不思議な木々が所々に生えているくらいの荒れ地になった。


 ほんとにここ城下町なのか?


「霊峰の周辺は魔素が濃いからたまに弱めの魔物が自然発生する。それに加えて、ここは道路を利用して広大な陣を描いている」


「陣……? うわ、言われてみればマジだ」


 一際太い曲がった道は小さな街がひとつ収まる程に巨大な真円を描き、そこから円の中へ入っていく小道はどれも幾何学的な紋様を作り出している。


 遮蔽物が無いから解ったが、ここは確かに超巨大な魔法陣を再現した場所だと分かった。


「でもなんでよ? 戦略核撃魔術の陣でもここまでの大きさにはしないわ」


「魔術を発動させるものではない。これは封印の陣。〝特級魔物(モンスター)嫉妬の蟒蛇(ハイドラ)〟が眠ってる」


「と、特級……」


 特級……正確には特S(ランク)モンスターとは、人類がもはや正面から太刀打ちできる次元ではない魔物が分類される枠組みだ。

 神々やごく一部の勇者や魔王でなければ、まともな戦いにすらならないという。


 オレとカナンが禁忌の【影葬(ナキモノ)】を発動させて変身した黒死姫も、正教国を物理的に消し去った事でこの枠組みに分類されたらしい……。


「そんなヤベー魔物を封印した陣にバスで立ち入っていいのかよ……?」


「さあね。そこの所は国王に直接聞けばいい」


「説明するのがめんどくさいだけじゃないの?」


「……」


 図星か?

 するとルミレインはぷいっとそっぽを向いて喋らなくなってしまった。なんか申し訳なくなってきたが、次の停留所が近づいてきてすぐに「ここで、降りる」と口を開いた。


 運転手さんにお礼を言って、バスから荒野へ降り立つ。

 おっと、スカートが長いから端をつまみながらじゃないと転びそうだ。


 なんて思ってた矢先。


「きゃっ!?」


 舗装されている道とはいえ、油断は禁物だった。

 小石につまづいて盛大にコケてしまう。スローモーションで迫ってくる世界に、オレは反射的に目を閉じて思考を破棄した。


「……う?」


「大丈夫おーちゃん?」


 あらヤダうちの主様ったらイケメン!!

 気がつくと、転びそうになったオレをぎゅっと受け止めてくれていた。


「ありがと主様(ますたー)……」


「よしよし、ここからは手を繋いで行こうねー?」


 ここでは虚無感溢れる目線で見つめてくるルミレイン以外、人目を気にしなくても良いので気が楽だ。


 それとカナンに完全に子供扱いされてる気がするけど、なんかもう抵抗感無いわな。


 そんなこんなで空を突き刺すように聳える霊峰へ向かう。と言っても、もう視界の大半がその巨大な一枚岩に包まれているが。

 しかし距離感が分かりにくい。あまりにも巨大すぎるのと、周囲に比較するものが無いので距離感を掴むのに少し苦労する。


 しばらく黒い岩壁を見つめながら進み、ようやく魔法陣の外縁の道にたどり着いて、隆起した霊峰の真下までやってきた。すぐ側で地面が途切れており、なんとか距離感がわかった。


 果てなく聳え立つ壁を前に途方に暮れかけていたが、壁沿いに小道を歩んでいるとずいぶんと大きな穴が開いている箇所を見つけた。

 その穴はただ開いている訳ではなく、蒼い龍が長い体で穴の縁を囲むような装飾が施されており、どちらかというと門のような印象だ。


 また、その門には駅で見たような半透明の結界に塞がれており、そのままでは入れなさそうだ。見た所門番もいなさそうだし。

 どうやって入るのか、ルミレインに聞こうとしたその時だった。




「くぁっはっはっはっっ!!! 久しいなぁっ!! ルミレインっ!!!」


 な、なんだっ!?


 何か大きな生き物が、上空からルミレインめがけて降ってきた。その刹那、金属を打ち鳴らすような激しい衝撃が大気を叩き壊す。


「くっ……大丈夫おーちゃん?」


「だ、なんとか……」


 咄嗟にカナンが庇ってくれたおかげで、オレへのダメージは無い。カナンもこの程度でダメージを食らう程やわじゃない。


「相も変わらず手荒な歓迎……。こっちは子連れ。今日はやめて」


「おっと、そいつは失礼したな。失敬失敬!」


 煙幕のように立ち込める土煙の中で、ルミレインに爪を立てようとするその何者かは、ゆっくりとこちらへ向き直る。


「……ほぅ、さすがはルミレインが見込んだだけあるな。なかなか強そうなお嬢ちゃん方だ」


 そいつは、どこぞの世紀末覇者を思わせる武骨に鍛え抜かれた巨躯の大男だった。

 真っ青な短髪から螺旋を描く二本の水色の角が後方に伸びており、腰からは太い蒼龍の尾を揺らしている。


 何より、あの力強い光を放つ蒼き瞳を見れば、こいつがただ者ではないという事を察するには十分だった。でもなんで半裸なんだ?


「なるほどね。あなたが……」


「くぁっはっはっ!! そう、この俺こそが6柱の魔王が一柱〝大海の魔王〟イルマセクである!!!」


 この半裸のおっさんが、魔王?!

百合には割り込まないタイプの弁えた戦闘狂おっさんです。




『また更新遅いぞ』

『毎日投稿頑張れよ』

『おーちゃんカワイイ』

『面白かった! もっと読みたい』

『ゴールデンウィークだぞ執筆しろ』


と言って作者を追い詰めたい人はブクマと星評価、あと感想を投げると発狂します。

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