第9話 ギルドで大乱闘
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今日の目標は、カナンを冒険者にする事。
朝おんケダモノ事件(意訳)の後朝食を摂り、コルダータちゃんの貸してくれた服に着替えて街に出た。
カナンは、金色の長い髪を片側だけサイドテールに纏めていた。毛先が赤っぽいこともあり、サイドテールがかなり映える。
二人の服とスカートはお揃いで、まるで姉妹のように見える。
ちなみにメルトさんは、オレの事を何も言わずあっさり受け入れてくれた。
――
中世ヨーロッパ風の町並みが続く。と言っても、所詮〝風〟である。
建物を構成するレンガに、なぜか小さなビー玉みたいなものが埋め込まれていたりと、実際にはなんか違う所の方が多い。こんなんでレンガの耐久性は大丈夫なのか……?
「ここかあ、冒険者ギルド――!」
そんな街並みで一際大きな建物の扉を開け、オレ達3人は足を踏み入れた。
「ざけんなっ!! なんであの素材が換金できねんだよ!?!!」
うわぁ……
まあまあな人口密度のある屋内で、受付嬢に怒鳴りつける荒くれ男が3人。
「あの人たち、最近しょっちゅうクレーム入れてるんですよ。いなくなるまで待ちましょう?」
「そうするね。全く迷惑だわ」
適当に近くのテーブル席に腰掛け、荒くれが去るのを待つ。
……一番無難そうな灰色のワンピースを選んだとはいえ、女の子の服なんて着たことないし……うぅ、スースーする上に視線が恥ずかしい。
「やあ、君たちも冒険者? よかったら僕達とお茶どう?」
唐突に隣のテーブルにいた若者の一人が話しかけてきた。
俗に言うナンパかこれ?
「遠慮するわ。受付が空いたらすぐに行かなきゃいけないもの」
「それなら当分は待つ事になるぜ。あいつらが諦めて空けるまでの間、お話しようや」
「そうだそうだ、きっと楽しいぞ可愛い子ちゃん」
オレよりは大きいとはいえ、カナンとコルダータちゃんは明らかに中学生にも満たない子供だ。それをナンパって、このロリコンどもめ!
「へっくち!」
おや、コルダータちゃんがくしゃみ。風邪だな。
「君たち名前は何ていうんだい?」
一向に去らないどころかぐいぐい来る。カナンは諦めて少し話に付き合う事にしたらしい。
「私はカナン」
「コルダータです」
二人は若者らにしぶしぶ名乗る。ウザいなーこいつら。
「カナンちゃんに、コルダータちゃんか。それに君は?」
君……え、オレの事か?
オレはオウカだ……と、言おうと思ったが、悪魔の姿とこの幼女形態を一致させてしまうのはどうなのか。悪魔フォームに戻れるかは知らんけど。
「恥ずかしがりやさんなのかい? カワイイねー?」
屈辱……! ちょっと悩んでいる姿が照れてるように見られたらしい。
オウカと名乗る訳にもいかないし、咄嗟に偽名を思いつきもしない。
助けてますたー!
「ふっ。この子は〝オーエン〟よ」
さっすが主様。オレの意図を汲み取ってくれた。
ひとまず今は「オーエン」で通す事にした。
「へえ、おーちゃんはそんな名前だったんですか」
まあ、ゴブリンを鏖殺した時以外コルダータちゃんの前では「おーちゃん」としか呼んでなかったしな。後で説明するとしよう。
「そっか、オーエンちゃんカワイイね~」
「あぅ!?」
可愛い……! 可愛い……!? オレことオーエンはカワイイのか?!
なぜだか頭の中で『カワイイ』という言葉がぐるぐる廻る。どうしちゃったんだオレ、それにしてもここはなんだか暑いなー。はは。
よし、主様よ後は任せた!
「おやおや隠れちゃった。オーエンちゃんはお姉ちゃんが大好きなんだねぇ」
何だか調子が狂うし、カナンの後ろに隠れてやり過ごそうと思う。
うー、早く受付空いてくれー。
「だーかーらー、換金しろっつってんだろうが!!! あれはBランクである人面獅子の素材だぞ、そ・ざ・い !」
うわ、びっくりした。受付に絡んでいた荒くれ男が一際大きな声で叫んだ。
「ですから、あんな粉微塵で魔石まで破損していては、どこも使い物にならないんです! そもそもDランクのあなた達が本当にBランクのマンティコアを倒せたんですかっ?!」
「そっ、それは俺達が嘘をついているとでも!? マンティコアを倒すのにあんだけ苦労したってのにこの仕打ち、俺たち可哀想だよなぁ!?」
「そうだ、可哀想だ!」
「俺らは被害者だ!」
受付嬢の言葉を受けた荒くれ男どもが、振り返ってなぜか他の冒険者達に同意を求める。
当然ながら、誰も賛同などしない。
「くっそが!! ……何見てんだテメエ!?」
あっ、やべ。目が合ってしまった。
目くじらを立てた荒くれ達が迫って来て、ナンパしてきた連中はそそくさ逃げやがった。くそが。
「なんでガキがここにいんだ、ギルドは遊び場じゃねえんだよ。馬鹿にしてんのか?」
「それとも大人と〝遊び〟に来てんのかもなぁ?」
下衆め。コルダータちゃんとカナンをイヤラシイ目で見やがって。
「コルちゃんとおーちゃんは、私の後ろに下がってて」
カナンがオレ達の前に出て、荒くれどもを睨む。
ボロい革の鎧に、腰に差す剣は刃こぼれがひどい。こいつらろくな奴じゃなさそうだ。
「何だ? ベッドの上でなら遊んでやってもいいぜ?」
「ふん。私は冒険者になりに来たの。あなた達みたいな三下と遊ぶ暇は無いわ」
カチン、という音が聞こえるようだった。さっきのナンパ野郎らが「あの子殺されるぞ」と仲間内で囁いている。
カナンの挑発に、荒くれどもは面白いくらいに怒っている。テンプレ展開かな?
「ガキの……コルダータの連れの分際で俺達をコケにしやがって!
コルダータァ! ろくに剣も振れない使えねぇ役立たず! お友達の後はテメエも痛め付けてブチ犯してやるからなぁッ!!」
――ブチッという音が、カナンの中から聞こえた気がした。
手を出してきたのは向こうから。荒くれ男の一人がカナンの顔面にいきなり殴りかかってきた。
「カナちゃん!」
カナンは荒くれ男の拳を、華奢な掌で軽々受け止めた。荒くれ男が驚愕する間もなく、拳を握る手にぎゅっと力を入れる。
ミシミシミシ……バキッベキン
硬いものが折れ、砕けた。
「いでえぇぇぇ!?! 手がぁっ! 手がぁっ!!」
悲鳴をあげる荒くれ男の五指が、あり得ない方向に歪んでいた。
「〝握手〟しただけで手が砕けるような雑魚が、私の友達を馬鹿にしないでちょうだい?」
「は……なっ!?」
次の瞬間、荒くれ男の顔面にカナンの拳が叩き込まれる。数メートルは吹っ飛び、男は壁に叩きつけられて失神した。野次馬どもがざわざわ一層騒がしくなる。
「な、何しやがったガキぃ!!? 嘗めるなぁ!」
よせばいいものを、荒くれ男(その2)は携えるボロい剣を抜いてカナンに斬りかかった。
「あなたも雑魚ね。遅い」
剣の切先が消えた。男にはそう見えただろう。
正確には、振るわれる剣を側面から蹴ってへし折ったのだ。恐ろしく速い蹴り、オレじゃなきゃ見逃しちゃうね。
そしてもう一発、男の腹に蹴りを入れた。
吹っ飛ばされ、荒くれ男(その1)のすぐ横に叩きつけられる。
「あの娘何者だ……」
「カッコカワイイ」
「パンツ見えた」
等という声が周囲の野次馬から聞こえてくる。何だ最後の。
荒くれはあと一人。懸命な判断をして去ってくれる事を祈る。……あれ、どこ行った? 逃げた?
「はは、このガキの顔に傷を付けられたくなきゃ降参しやがれ!」
「おーちゃん!?」
そう来たかぁ~。
オレ、人質にされてしまったぜ。
後ろから頚元に剣を突き付けられ、動いたら殺すと耳元で囁かれる。
「さすがに酷いぞお前!」
「そーだそーだ! そんな幼い娘を人質にするなんて最低だ!!」
野次馬から罵声が飛び交う。
「黙れぇ! 俺たちの味方をしなかったテメエらが悪りいんだよ!!」
うわ~、救いようが無いな。しかもこのせいでカナンが動けなくなっている。ある意味では、最適解かもしれない。
「おーちゃん!」
コルダータちゃんが目に涙を浮かべて叫ぶ。よーし、さっさとこいつ片付けるか。
「早く抜け出して、おーちゃん」
やっぱ主様分かってるな。それもそうか。俺は、カナンの一部なのだから。
「そんなんで勝ったつもりかよ?」
「か、勝手に動くな!!」
――さて、実験台になってもらうぞ。新しい〝アビリティ〟のな。
【中位闇魔法】
「……? な、なんだよこれっ!? うあぁぁ!?」
オレを押さえつける剣と荒くれ男(その3)の腕を、黒い煙のようなものが包み込む。
まとわりつき、男の腕と刃を黒く変色させてゆく。
そして、まずは剣がぼろぼろと砂のように崩れた。
「あぁぁ!!? ぎいぃ痛い痛い痛い痛いぃぃ!!」
カランと剣の柄を床に落とし、変色した腕を抱え悶える男。
『変色』は、じわじわ触れている反対の腕にも侵食してゆく。
「喰らえ!!!」
すかさず間合いを詰め、カナンは男の股間を蹴りあげた。
「おぶあぁっ!」
上半身と下半身を同時に襲う激痛に、男の精神は耐えられなかった。
そのまま失神して床に崩れ落ち、更にカナンの手により荒くれ男(1&2)の元に投げ捨てられた。オーバーキルが過ぎる。さすがに殺す訳にはいかないので、闇魔法はほどほどで解除しておいた。
「ごめんねおーちゃん。私の不注意のせいで……」
お? カナンがちょっと優しいぞ?
きゅっと抱き締める感触が心地よ……くない!!
「いだだだ! タイムタイム、息ができないー!!」
ちょ、呼吸ができないっ! 緩めてくれないと全身の骨が砕けてしまう!
主様の今後の課題は力の加減だな、怪力娘め!!
「見た目に似合わずなんて恐ろしい怪力……」
「それに加えて何なんだあの黒髪の幼子の魔法は……見たことが無い。もしや魔人か?」
「オーエンちゃんっていうらしいぜ。カナンちゃんの妹で、冒険者に憧れてるらしい。2~3年したらカナンちゃんに続いてあんなのが冒険者に……まだまだ成長途中と思うと末恐ろしいな」
冒険者どもの間ではオレと主様の話題で持ち切りだ。なんだか居づらいので、早めに用を済ませよう。
「邪魔。私は受付に用があるの」
カナンの一声で先輩冒険者どもはさっと道を開けた。
間を歩むオレとカナンに、連中は値踏みするような視線を向けてくる。悪意は無いが、居心地が悪い。
「冒険者になりたいわ。手続きはここでいいのよね?」
「はい。この魔導誓約書にサインすれば試験開始です。書いてある魔石を2日以内に提出すれば、晴れて冒険者の仲間入りです。貴女ならきっと高ランクの冒険者になれますよ」
受付の上でカナンが何かにサインをしている。
うーん、オレの身長じゃ見えないや。
「その可愛い子ちゃんは妹さん?」
「そうよ、妹のオーエン」
いつの間にかオレにカナンの妹設定が付け足されている件。まあ、その方が色々と便利か。
今度主様をお姉ちゃんって呼んでやろうかしら。
……やめとこ。
「お姉ちゃんだいすき!」とおーちゃんに言われたいカナンちゃん。そう呼ばれる日が来るといいね。