第66話 反転
ただいま! お待たせしました、ちょうど一月ぶりの更新です!!
どこまでも暗く、空と地面の境目すらわからない闇にまみれてオレは意識を取り戻した。
ラクリスの心象顕現に巻き込まれ、バラバラに刻まれてしまった所までは覚えている。今の姿は……幼女フォームだな。
というかカナンは大丈夫なのか? 死んではいないよな?
あれこれ思考を巡らせていると、ふと声が聞こえてきた。
『おーちゃん……ふふっ、こっちにおいでおーちゃん……』
『主様……?』
闇の奥からオレを呼ぶ声がする。聞き覚えのある声なのに、愛しき主様のものなのに、なぜか――
『そうよおーちゃん。私が迎えに来てあげたわ』
姿は見当たらない。どこから声が聞こえてくるのかもわからない。あるいは、この闇全体から聞こえてくるようでもある。
そこでオレは、この声の主に疑問を投げ掛けた。
『……ひとつ聞いてもいいか?』
『なあにおーちゃん?』
『お前は誰だ?』
違和感。カナンと全く同じ声なのに、あまりにもかけ離れた雰囲気を感じさせる。こいつはなんなんだ? ここにいるオレは一体どうなってしまったのか?
『何よ? 私を忘れちゃったの?』
『違う。お前はオレの主様じゃない』
『あは……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』
それは、男とも女とも子供とも老人ともつかないおぞましき笑い声。
そこらじゅうの闇からそんは無数の笑い声が降り注いできた。
しかし不思議と恐怖は無く、奇妙な事に懐かしさを感じさせてくる。
明らかにヤバい状況だ。どうにかしてここから脱出しないと……
『あはっ! あはっ!! 逃がさないわよおおおおぉぉぉ!!!!!』
『なっ!?』
走り出そうとしたオレの足を、何かが掴んだ。
それは闇から伸びる赤黒い手だった。しかもひとつじゃない。四方八方闇の中から無数の腕が湧き出してオレに襲いかかる。
『クソッ……! 上位氷結魔弾!!』
足元に氷の弾を炸裂させると、巻き込まれた腕は塵となって消えていった。
しかし、黒い腕は闇の中から次々と際限無しに湧き出してくる。
『上位氷結魔弾! 上位氷結魔弾! 上位氷結魔弾っ!』
くそ、消しても消してもきりがないな。キモいしもうやだ。
『アハハハハハハハハハハハハハ!! もう一度ひとつになりましょおーちゃん!!!!』
『く……』
もう魔力が尽きてしまいそうだ。しかも黒腕は更に数を増やして迫ってくる。
防ぎきれずに服を引き千切られてぼろぼろになり、手足は指が食い込んだ痣もできてきている。結界も破られるし、なす術が無い。
精神的な世界にしてはあまりにもリアルな痛みに、オレは仄かな絶望を感じていた。
『く……上位氷結魔弾……ダメか……』
『アハハっ!!!!』
とうとう魔力が尽きて魔法が発動しなくなる。
くそう、体にも力が入らなくなってきたな。
それを見越したように、両足を何人もの手に掴まれる。
引きずりこまれたらもう主様の元へは帰れない――
頭では理解しているのに体が動かない。やがて倒れこんだオレの腕も体も首も無数の腕に包まれて、意識さえ遠退いてきた――
その時だった。
『高位雷撃魔弾!!!』
ピシッ――ドッシャアァァァン!!!
肌を打ちのめす轟音に、闇を切り裂く金色の閃光が闇から出ずる腕どもを消し去った。
『あ……アスター?』
真っ白なワンピースを身につけ白髪の幼い少女――アスターが、金色の雷と共に突然現れた。今の魔法はアスターが出したようだ。
『詳しい事は後なのだ! わたしについて来るのだ!!』
絡み付いた腕から解放されたオレの手を取って、アスターは走り出した。あまり体に力が入らないけれど、何とかついていった。
『逃いぃぃがさなぁぁいぃぃ!!!!!!』
『アスター上だ!』
『言われなくてもわかってるのだ!! 広域雷魔撃!!!』
瞬間爆ぜる金色の閃光。かなり広範囲に根を広げた稲妻が、上から迫ってきていた巨大な黒い腕を焼き尽くした。
術式の練習に付き合ってもらった時に分かってはいたけど、アスターめっちゃ強いな。
『アレは一体…… というかそもそもここは何処なんだ?』
『……ここはカナンちゃんの魂の中なのだ。そしてアレは――』
『逃がさない逃がさないニガサナアァァァイ!!!!』
どこまで進んでもあのおぞましい声がどこまでもついて来る。オレを捕まえようと、何度も黒い無数の腕が追いかけてくる。
『どこへ逃げりゃいいんだ?!』
『わかんないのだ!! とりあえずキミをアレから助ける為に飛び込んでみたけど思ったよりヤバそうなのだ!!』
『エレボス? ってうおい!?』
逃げ場ないだろこれ。相変わらず考え無しじゃねーか! いやだが、助けに来てくれた事には一応感謝しないとな。
『一体どうすりゃ……』
『ヤツの破片とはいえここまでとは……こうなれば仕方がないのだ。わたしが何とかするのだ。
来たれ! 〝模造・暁ノ星神剣〟!』
『!?』
アスターが両手の指を開いて前に翳すと、朱い光の束がその手の中に現れて大きな剣の形と成っていった。
『レーヴァ……テイン?』
『悪いケド、少し乱暴なやり方になるのだ』
シャキンッ!
鋭い音を立ててアスターが朱い光の剣を素早く振るうと、突然暗闇の空間に星空のような裂け目が生じた。
『これは……?』
『すまんのだ、ヤツはわたしが抑えるから。えいっ!』
『うぎゃんっ!?』
後ろからいきなりアスターに蹴り飛ばされ、オレは星空の切れ目の中へと落ちてゆく。
咄嗟に振り返って見ると、あの赤黒い腕どもとアスターが戦っている様子が遠ざかっていった。
……どこまで落ちるんだこれ?
暗闇……って程でもないな。無数の眩い星々の合間を滑り落ち、オレはだんだんと黒い空間の裂け目へ吸い込まれてゆく。
『うおおおおおっ!?』
うおおおおおっ! ……おん?
あれは……主様?
『おーちゃん……?』
カナンは泣いていた。だがオレの姿に気づくと、両手を伸ばし降りてゆくオレの体を受け止めてくれる。
今度こそ間違いない、本物の主様だ。
カナンはただただ悔しそうに悲しそうに、泣き言を口にする。オレはただ、そんなカナンに寄り添うのであった。
――
この体にも少し慣れてきました。性別などには特に拘りはないですが、神である以上見た目が麗しいに越したことはありません。
紅から紺へと顔色を変えた東の空から星々が登ってきます。また、太陽を追うように西の空には明星が輝いていました。
眼下に広がるは、広大な白い建物の並ぶ街。わたしの支配する、いずれは帝国に並ぶ大国となる国です。
街の道道にはわたしの姿を見るべく大勢の民が詰めかけています。
まだまだ発展しているとは呼べないものの、近年は秘密裏に人間の王国の支援を得る事ができました。ただでさえ土地も貧しく資源も無いので、今はそうでもしないとこの聖教国の維持が厳しくなるからです。
いずれは王国も内側から貪り食らい、滅ぼしてやろうと思います。人間は邪悪な存在故に約束を守ってやる道理はありません。
何より、わたしはあの〝明星の勇者〟の魔石に適合する肉体を手にいれました。魔石の真の力を引き出せるようになれば、下級神程度はもはやわたしの敵ではなくなります。中級神以上を刺激しないよう警戒し行動に気をつけてさえいれば、わたしの敵は実質いなくなると言っても過言ではありません。
「嬉しそうですね、ティマイオス様」
『無論ですラクリス。わたしの夢が始まるのですから』
わたしの夢。それは、劣等種の分際で我々魔人を弾圧してきた人間どもを世界から一匹残らず消し去る事。
人間さえ居なければこの世界は平和になるのだ。間違った世界はわたしが正さなければなりません。
人間を生かしている七女神をもわたしは否定しよう。わたしはいずれこの世界唯一の神となるのだから。
*
紫色の夕闇が白き街を黄昏に染める。
この姿を街中に詰めかけた民へ見せるべく、わたしは背中に伸びる2対の白い翼をはためかせ街の中心にある時計台を兼ねる神殿の上空に浮かび上がった。
この身体は今まで宿ってきた肉体の中で最も美しい。
見た目は紫髪の愛らしい少女で、かつての勇者の仲間によく似たダークエルフがいた事を思い出します。もしや……と思い、この娘の記憶を探ったりもしてみました。
この娘の名はコルダータといいましたか。ふむ、カナンと共に世界中を旅してみたかった……か。人魔大国を一目見てもみたいと。
実にくだらない。わたしの大いなる夢に比べたら実に価値の無い馬鹿馬鹿しいものです。しかし、気になる記憶はそこではない。
ラクリスと戦ったおーちゃんやらいうあの魔霊……やはり気になります。よもやすれば、強力な戦力になりうりますね。
今一度、カナちゃんらにチャンスを与えてやってもいいかもしれません。味方になるか否かと。
……?
変ですね。裏切り者にチャンスを与えようと考えるだなんてわたしらしくありません。悪は悪だから滅ぼさねばならないのに、何を期待していたのでしょう。
肉体への定着も完了して気分は快調だというのに奇妙な不安が拭えません。早めに処刑を執行しましょう。
他ならぬこの、わたしの手で。
――――
夜空には星々のベールがかかり、地上の白い街並みと相まって神秘的な情景を醸し出していた。
そんな街の中心に聳える、ひときわ巨大な時計台を思わせる建造物。狂信国で最も大きな神殿である。
そのふもとには一帯を埋め尽くす程の数の魔人が詰めかけており、皆が皆時計台の上空を見上げていた。
『よく来てくれました、愛しき我が子たちよ』
時計台の上空に浮かぶ白い翼を生やした紫髪の少女の声に、人々は喝采に沸いた。
ある者は神に救いを求め
ある者は神に忠誠を誓い
ある者は神に全てを捧げた。
そんな人々を上から見つめ、ティマイオスは隣に浮かぶ金色の鎖の塊に触れる。
その中には脅威的な存在が封緘されている。
ティマイオスは、それを今まさに民の前で処刑しようとしていた。
ティマイオスは民へ言う。
神に歯向かいし叛逆者を、神自らの手で滅ぼすと。
そして一通り御託を並べると、鎖の塊ごと打ち砕かんと手の中に聖なる光の塊を膨張させる。
『これは、人々がわたしへ託した祈りの力。皆の意思と希望が、邪悪を無へと還すのです。
〝霊子純滅波〟!!』
金色の聖なる光の波が放たれる。眩い眩い光の奔流が、大気を消し去りながら突き進む。
その力は、あらゆる物質もエネルギーも分け隔てなく分解し、純粋な霊子へと変換するものだ。魔力の結界すら、これの前には無意味である。
――当たればの話、だが。
ティマイオスの放ったそれは、なぜかカナンの封緘されている結界にギリギリ当たらず空へと飛んでいった。
『ぐっ……胸がっ……!? な、なぜ……馬鹿な……あなたは確かに……』
突如、胸を押さえて苦しみだすティマイオス。
激しい痛みと意識の混濁に、ティマイオスはカナンを封緘する結界の維持ができなくなった。
パリィィィン――
金色の鎖の結界が粉々に砕け散り、そして中からカナンの姿が表れる。
面白いとか続きが気になるとかおーちゃんカワイイとか思っていただけたら、ブックマークと星評価をよろしくお願いします。
スマホ壊れて執筆どころじゃなくなってました。これからはいつも通り更新しますので、またよろしくです。
スマホは大事に使おうね。




