第60話 最悪とのエンカウント
がんばえドラヴァンちゃん
カナンの服が少し破け、下の白い肌が覗いてる。
その切れ目はまるで、ナイフのような鋭いものに裂かれたかのようだ。
「間合いがわからなくて厄介ね……」
相対するは、赤い肌に角と尾を持つ竜人の青年、ドラヴァンだ。
オレ達を閉じ込める光輝くこの結界を、自分に勝利したら解除してやるという約束の元に勝負をしている。
その戦闘スタイルは拳による格闘なのだが、生憎うちのカナンの速度や攻撃力は完全にこちらが勝っている。
だがしかし、ドラヴァンに関して一つだけその能力という不確定要素があった。
「どうしたどうしたっ!」
「なかなかやるわね!」
さっきまでとは打って変わり、やや防戦のカナン。
ドラヴァンの拳を――というより、その延長線上に入らないような奇妙な回避行動ばかり取っている。
――【竜爪】
これがヤツの能力の正体である。
気功で実体化させた竜の腕を自身の腕に纏わせ連動させる能力――らしい。
つまりアイツには、目には見えないのに大きなリーチを備える武器を纏っているという事になる。また、その強度と威力は並の武器を遥かに凌ぐ。
むしろよくカナンはそれに気づけたな。さすがはオレの主様だ。
「攻撃範囲がわからない以上、無闇に飛び込むのは得策じゃないわね……なんてねっ!!」
カナンは体勢を低くする事でドラヴァンの攻撃を回避し、隙だらけの脚部に足払いをかける。
「ぬあっ!?」
さすがは序列16位とやら。転倒はせず踏みとどまった。だが、そこで生じた隙を見逃さないカナンではない。
ガキィンッ!!!
カナンの魔剣とドラヴァンの腕がぶつかり合う。
まるで金属同士がぶつかったような音だ。到底生身で出せる音ではない。
「ぐっ……うごっ……!?」
【竜爪】があるとはいえ、カナンの一撃を受け止めるとはかなり強い。だがさすがに、受け止めた左腕は粉々に砕けていた。
「ここまでとは…… だが……!!」
「むっ!」
カナンはドラヴァンから何かを察知しバックステップで退避する。
すると――
「ぬうん! 【竜炎爪】!!」
それは、白熱する赤き竜の剛腕。
ドラヴァンは【竜爪】に炎を纏わせ、そして――
「きゃあっ!?」
『大丈夫かコルダータちゃん!?』
「わ、わたしは大丈夫ですけど――」
一帯を叩きつけるような、強烈な炸裂音が断続的に直撃する。
ドラヴァンの、燃え盛り爆発する右拳がカナンに襲いかかる。
「ぐっはっはっはっ!!! 我輩の奥の手を使わせるなど、誇りに思うがいい! 骨の一片すら残さんぞ、小娘ェッッ!!!」
「ふふっ! 面白くなってきたわ!!」
何度も繰り返される爆発により、複数のキノコ状の炎と煙が立ち昇る。
ちょっとヤバい光景だな。ドラヴァンのあの爆発パンチ、並の上位魔弾より強そうに見える。さすがのカナンといえど、一発でも食らったら無事では済まないだろう。
「ちょ、ドラヴァンさん本気出し過ぎっス……!」
「あれが序列一桁候補の力……」
他の騎士たちもまあ強いんだろうけど、この中でもドラヴァンは別格に強い。冒険者をやってたらAランクは下らないだろうな。
……だが、それでもなおラクリスの奴には及ばない。
あの時のラクリスは、半ばオレ達と戯れているような感じだったのだ。
だからこそ油断してくれたのだろうが。
「小癪なぁぁっ!!!」
「……っ!!」
瞬間、突如ドラヴァンの速度が上がった。それにも反応して咄嗟に回避を試みるカナンだったが、完全には避けきれず爆風に巻き込まれてしまった。
あれは……翼か? ドラヴァンの背中に赤い竜の翼が生えてやがる。なるほど速度が上がった理由はあれか。
「これで終わりだああぁぁっ!!!」
爆風により空中へ放り出されたカナンにドラヴァンが襲いかかる。
今度こそ逃げ場は無い。
だがしかし。この時ばかりは、運がカナンに味方したのである――
《能力:【空中跳躍】の獲得を観測しました。対象:カナン》
オレの中に流れ込んでくる、明哲者の無機質で揚々なき声。
明哲者はカナンかオレが新しい能力を獲得すると、その声で教えてくれるのだ。
「無駄よっ!!!」
「むっ!?」
カナンはなんと宙を駆けてドラヴァンの拳から逃れてみせた。
そしてドラヴァンの背後に回り込み
「楽しい勝負だったわ!!」
「ま、まだだ……! 〝秘奥――」
それは、ドラヴァンの攻撃と比べるとあまりにも静かなものだった。
全身を捻りねじり回転させ、強烈な回し蹴りをドラヴァンの後頭部に叩き込んだ。
その蹴りを受けたドラヴァンはついに地面に倒れ伏せ、勝負は決した。
「私の勝ちね」
【空中跳躍】。文字通り、空中でジャンプできるようになる能力らしい。スマブラかな?
しかし、さすがカナン。一瞬でその権能を理解し、使いこなすとは。伊達にルミレインと一月修行してはいない。
*
「さすがですカナちゃん!!」
「ふふん、私はおーちゃん抜きでも強いのよ!」
誇らしそうに胸を張るカナン。
今回のオレ、全然出番無かったな。
ともあれ、勝利は勝利。約束通り結界を解除してもらおう。
「起きなさいドラヴァンちゃん」
「モガッ!? わ、我輩は一体……?」
失神するドラヴァンにポーションを振り掛け、頭をげしげし蹴って起こすカナン。若干や雑。
「私が勝って、あなたが負けたのよ。約束通り結界を解除しなさい」
「ぐ……仕方がない。解除」
「ちょ、ドラヴァンさん!?」
おっ? こんなにあっさりとできたのか。
騎士の中に結界張れるアビリティ持ってる奴がいるのかと思ったが、どうも違うようだな。
「……全責任は我輩が負う。お前たちは――」
ドラヴァンは、部下の騎士たちにそこまで言いかけて口ごもった。何かを見て、驚いた表情で固まっていた。
「ほら言ったじゃん、君たちには荷が重いってさ。今どんな気持ちかな、ドラヴァンくん?」
「ラクリス……!」
おいおいおい、これは悪い冗談か? それは、飄々とした態度を崩さず空から降り立った。
今までずっと警戒してきたアイツが、白髪白装束の少年、ラクリスがそこに。
《指定対象を検索鑑定中……個体名:ラクリス
種族【閲覧不可】
能力【閲覧不可】
強度階域:第7域〝災厄級〟》
で、第7域……?!
「ラクリス貴様……」
「あーうっさい。敗北者どもは帰っておねんねしてなって。〝転移陣〟」
ラクリスが手を翳すと、ドラヴァンやあれだけいた騎士どもがぱっと消えてしまった。どうやったかは知らんが、多分どこかへ転送したのだろう。
「さて17番。君たちにはこの間ずいぶんとお世話になったね。どう調理してあげようかなー?」
「ふっ……調理してやるのはこっちのセリフよ!」
「はは、いいじゃん! 決めた決めた! 心も体も嬲り殺しにしてあげるよ!!」
ふわりとラクリスの体が宙に浮く。
それと同時にラクリスの周囲に金色の長剣が何本もシャキンという音と共に出現し、くるくる旋回する。
「一緒に最悪な一時を楽しもうじゃないか!」
オレたちは、脱出まで目前の最後の最後に最悪の敵とエンカウントしてしまったのであった。
ラクリスの実力やいかに。
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