第58話 すべてが終わったら
ちょっと短めです
きっとどこかにはいるのだろう。いつか会ってみたいなと思っていた。
それがまさかこんな形で――
「異世界人……!?」
「そ、異世界人と書いてメアリースー。この世界の外にもね、人間が住む世界がいくつもあるのよ。そこからたまーにこちらの世界に迷い込む人がいてね、それを異世界人って呼ぶの」
「へ、へえぇ……ソメイさんはそこから来たのか……」
髪がピンクなのはオレと同じく転生してきたからか?
何はともあれ、同じ地球の人に会えるとは思わんだ。
ただ、今はオレも異世界人であるとは明かさない。ローブ着てる以上ここの信者だろうし、面倒に巻き込まれる訳にはいかないのだ。そもそも記憶が曖昧だしな。
「ふっふっふ……。ま、ワタシが異世界出身な事は関係ないね。ところでオーエンちゃんはさ、一番早く国外へ出港する船を知りたいんじゃない?」
「な、なんで……!?」
「おっ、ビンゴ~。勘で言ってみるものねー」
心を読まれた……?! まさかそういう能力でも持っているのか?
《個体名:ヨシノ=ソメイ
情報の検索に失敗しました》
またかよ!
彼女の名前以外、情報の検索が阻害されている。おそらく意図的に。
「あの貨物船なら明日の早朝に出港するみたいよ。行き先は豊穣国バルアゼルの数少ない陸上部分ね、こっそり乗り込むならアレがベストだと思うわ」
「何でそんなに詳しいんだよ?」
「うふふ……。ヒ・ミ・ツ・!」
もーやだ怖いこのひと。そもそも端から見れば幼女を人気の無い所に連れ込んでる人だもん。あーこわいこわい。
ただ、おかげでかなり助かったのも事実。念のため明哲者で確認してみたけれど、話している情報に嘘は無さそうだ。
「それじゃ、ワタシはまた別の用事があるからね。ここでお別れよ」
「そうか。色々ありがとな」
「バイバ……おっと、その前に……ハイこれ!」
ん? ソメイさんは懐からごそごそと何かを取り出し、オレに差し出してきた。
「これって……」
それは、黒いドラゴンのぬいぐるみだった。
なんだか見覚えがあるぞこれ。まさかこの人って……
「 カナンちゃんによろしくね! 脱出したらまた会おうね!!」
「えっ……!? ちょっと待ってくれ! あんたは一体……」
そのままソメイさんはどこかへ立ち去ってしまった。いくらオレが引き留めようと叫んでも、反応してもらえなかった。
―――
「――というわけで、あの奥から2番目の大きな貨物船が条件ピッタリだったな」
「よくそこまで調べられたわね。さっすがおーちゃん」
「行き先があのバルアゼルなら安心ですね」
街の外の二人と合流し、港が見える位置まで移動してから得た情報を共有する。
それから、街から離れた所にある教会とおぼしき廃墟に身を隠す。
バルアゼルとやらいう国ならなぜ安心なのかとコルダータちゃんに聞くと、少し面白い応えが返ってきた。
「豊穣国バルアゼルはですね、〝豊穣の女神〟さまが物理的に支配している国らしいんですよ。ですから、こういう過激な思想の宗教は根付かないはずです」
「物理的にってどういう状況だ?」
「わたしも詳しくはないんですけど、女神さまの力によって国土の大半が異空間にあるそうですよ。あの船は数少ないこちら側の地域に行くみたいですけど」
異空間っ!?
いきなり桁の違う話が出てきて驚いた。たとえ小国とはいえ、地球でいう県ひとつ分の広さはあるのだ。それを丸々異空間に入れてしまうなど、さすが神だな。
更に言うとバルアゼルは小国どころか大国だそうだ。なおさらえげつない。
「それで、どうやって船に忍び込むのよ?」
「そりゃあ夜中にこっそり貨物に紛れるしかないだろ」
話はそういう方向に纏った。
バルアゼルまでおよそ1週間。貨物の中に身を潜めて生活する事になるが、その辺りのあらゆる問題はオレで解決できる。
まず、食料と水は次元収納にあるもので足りる。なんなら半年分くらいあるし、食べ放題だな。
更に〝清浄〟を使えば、風呂に入れずとも何時でも清潔さを保てる。それから排泄物も収納と清浄の併せ技で完璧に消し去れるのだ。
あとは見つからないように気を付けてさえいれば、困る事はあるまい。
今はただ、ここで夜中になるのを待つだけだ。
……
「なぁ二人とも。ここを脱出できたら何をしてみたい?」
少し退屈になり、二人に聞いてみた。
「そうですねぇ、まだ見ぬ甘いものを食べてみたいです。後はバルアゼル特産の果物とかも良いですよ~。あと、それから……」
「それから?」
「我が家に、帰りたいです。お母さんに会いたいです……」
「……そうだな」
向こうに残されたメルトさんが心配だ。
ラクリスに斬られた直後、コルダータちゃんが治癒魔法で介抱していたので無事だとは思うけど。それでも、わかっていても不安なのだ。
「帰ったら、ぐっすり眠ってメルトさんにお礼をして、あとルミちゃんに謝らないといけないわね。それから改めて出発するのよ」
「それは、いいですね。今度こそお母さんに見送ってもらって……」
コルダータちゃんはまだ不安そうだ。口では気丈に振る舞おうと努力しているが、その声は震えている。
「そうだおーちゃん……向こうに着いたら、私達のほっぺにちゅーしてくれるかしら?」
「……はぁっ!?」
「ちゅー!? おーちゃんにちゅーしてもらえると思ったら、なんだか勇気が湧いてきました!!」
ちょっ、なんで勝手にオレが二人にキスする方向に話が進んでんの!?
同意は!? 別にほっぺくらいならやってもいいけど!!!
「そもそもほっぺだけでいいのかよ……」
「ん? おーちゃん何か言ったかしら?」
「べ、別に何も言ってねーし!」
内心残念がっている自分がいることに驚いたものの、今はまだそれを認める事はなかった。
嵐の前の静けさ。
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