第56話 金色の騎士たち
「たった今、〝器〟に着けた発振器の反応が消失しました!」
夕闇の荒野を突き進む、金色の鎧を纏った騎士たち。
その内、手元の板状の魔道具を見ていた1人が突然驚いた表情でそう言った。
「何? 機器の故障ではあるまいな?」
「少なくともこちらの端末の故障ではありません」
「ともすれば、あちらが腕輪型発振器を破壊したか? そんな事をしようとすれば、手首ごと切り落とさねばならなくなる。アレは装着者の魔力を吸収する程に強固になる仕組みだからな」
赤い肌の序列16位の騎士の言葉により、ざわめきが生じる。
今度の〝神の器〟に選ばれた者は、まだ11歳の少女であると聞かされており、自ら腕を切り飛ばすような胆力があるとは到底思えなかった。
何より、神殿より〝器〟を誘拐したのも同じ程度の少女だ。
大人の男……それも武力を得意とする者達で囲ってしまえば、組伏せる事は容易いと誰もが考えていた。
「クソ、あのラクリスとかいう新入りがヘマしなけりゃこんな事にはならなかったんだ。なんでアイツの尻拭いを俺らがしなきゃならねーんだ」
序列25位の小柄な男が言った。その頭には山羊に似た角が生えている。
――デミウルゴス教の信者の内、特に強力な魔人100人で構成された騎士団〝黄金の黄昏〟
この騎士団では主に純粋な戦闘力に応じて番号が割り振られており、その数字が少ないほど順位が高くなる仕組みだ。
ただし序列一桁の者はNo.4を除き国外活動中で、この場にいるのは高くて16位までである。だが、それでも尚冒険者階級に換算すればAランクは下らない。
「つってもただのガキでしょう? こんなに騎士を集めなくても……」
「油断するな、器を連れていったのはただの小娘ではない。
〝神の御子〟――『人造複合魔人』、もう1人の生き残りだ」
「何だと? アレの生き残りはラクリスだけじゃなかったのか?」
「そうだ。魔力が無い代わりにあらゆる毒と呪詛への耐性を宿し、そして驚異的な生命力によって様々な実験に耐えてきたそうだ。1年半前に失踪したと聞いていたが、先日〝器〟と共に居た所をラクリスが捕獲してきたそうだ。また逃げられていては世話ないがな」
冷静ながらも、彼らはラクリスへの不満を募らせてゆく。
それもそのハズ、彼らが何年もかけて少しずつ序列を上げている所を、ラクリスとかいう子供に僅か数ヶ月で抜かされた挙げ句〝一桁〟にまであっさりと入ってしまっているのだ。
「〝ちぃと能力〟とやらを持っている異世界転生者だからとはいえ、少々調子に乗り過ぎだ。
我輩らが〝器〟と小娘を連れ戻したら全ての責任を押し付けてくれる。いずれはあの偉そうな青二才をその座から引きずり落としてやる」
「いいねそれ、賛成」
そうして彼らは意気揚々に、信号が最後に確認された荒野の林へと足を踏み入れる。
日は落ち、夜のとばりが世界を包み込んでいた。
―――
(……なんでこの場所がわかったんだ?)
(わかんないわよそんな事)
(ひょっとすると、わたしに着けられていたあの腕輪に……?)
暗く狭く息苦しい密室で、オレ達はおしくらまんじゅうの如く密着しながら息を殺していた。
頭上からは、ガチャガチャと鎧の擦れる足音が複数聞こえてくる。
大木の洞の中で眠ってしまおうかと思っていたら、遠くの方からあの金ぴかの鎧を纏った騎士(?)どもがやってきたのだ。そこで咄嗟にコルダータちゃんの魔法で地中に潜り込んで身を隠したのである。
見つかってはいないようだが……
(いっそ私がぶっ飛ばして来ようか?)
(それはダメだ。もしラクリスがどこかに控えていたら洒落にならん)
【明哲者】で視たところ、頭上でオレ達を探し回る騎士どもの強さは大半が強度階域にして第4域で、一番強い者に限っては第5域に片足を入れているっぽい。
ちなみにこの『強度階域』とは、個体の戦闘能力を1~10の段階で評価したものだそうだ。
えっと、確か『第3域野盗級』は、その気になれば用意周到な小規模商隊~小さな村を壊滅させられる。……んだっけ?
んで『第4域子龍級』はその気になれば用意周到な村~街を壊滅させられるとか。
そして『第5域災害級』
その気になれば用意周到な街~都市を壊滅させられるらしい。
ちなみにその上の『第6域大龍級』ともなれば、用意周到な都市~小国を壊滅させられるそうだ。以降から魔王/勇者級と呼ばれるとか。
実は悪魔フォームのオレはここなんだってさ。
……魔王とか勇者って言葉が出てきたな。
ちなみに、階域が2つも離れていれば、相性があろうと最早戦いにすらならないらしい。
『まだ近くに隠れているハズだ! 探せ!!』
うーん、それにしてもアイツら全然居なくならないな。
オレはこのまま地中で一晩過ごしてもいいけどな。狭いけど。
(うぅ……狭いです……)
もぞもぞとコルダータちゃんの体が動く。
するとオレの耳にふぅっと息がかかり
「ひゃうっ……!」
あ……しまった
『オイ、今この辺りから声がしなかったか?』
真上でガチャガチャと足音が続く。
ヤバい、バレてしまうのか……!?
万一見つかったら戦うしかない訳だが、オレとカナンなら何とか戦えなくもない。
が、相手もかなり強いので瞬殺とまではいかなさそうだ。
戦ってる間にラクリスでも来たら洒落にならない。
(もう何やってるのよおーちゃん!?)
(す、すまなかった! だから頭をぐりぐりするのはやめてくれ!!)
両側頭部にカナンの拳を押し当てられ、……って痛い!? 手加減してくれないとオレの頭が弾け飛ぶわ!!
『……どこにもいないな』
『やっぱ気のせいだったんじゃねーの?』
『そのようだ。子猫でもいたのかもしれん』
殺していた息がホッと蘇る。頭上のたくさんの気配と足音がガチャガチャと遠ざかってゆく。
これでひと安心……と思うと、オレ達は強烈な眠気に誘われ、そのまま眠りの底へと落ちていってしまった。
―――
ここは――?
何処からか響くオルゴールの音と煌めく七色の光に照らされて気がついた。
天使を象ったステンドグラスの塔。
『アスター?』
久しぶりにここへ来た気がするけれど、アスターの姿は見当たらない。
ここへ来たのにアスターがいないだなんて、こんな事初めてだ。
『おーい、アスター? 隠れてるのかー?』
一応呼び掛けてみるが、反応は無い。
困ったなと髪をかき上げてみたその時だった。
キイキイと、金属が擦れ合う音が背後から聞こえてくる。思わず振り返ると
『え、コルダータちゃん!?』
そこには、何処からか吊り下げられた黒いブランコの上に座る、朦朧としたコルダータちゃんの姿があった。
その首には天井へと伸びる金ぴかの鎖が、足首には逆に床の中へ繋がる黒い鎖が巻き付けられている。
『なんでコルダータちゃんがここに……?』
『……』
一切の反応は無い。
コルダータちゃんはまるで魂が抜けたかのように宙を見つめて何もせず、ただきいきいとブランコを僅かに揺らすだけだった。
あくまで目安です。4域~5域で冒険者ランクAの上位~Sランク相当になります。
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