第51話 お別れと来客
2日連続投稿だぞオラっ!
「――三人が来なくなるのは寂しくなりますが、他の街へ行っても応援してます! ぜひぜひ名を挙げてくださいね!」
「ありがとレベッカちゃん。またこの街に来たら、必ず寄るわね」
「おう」
「もちろんです!」
一月半通い続けた〝ステラバックス〟とも、今日限りでお別れだ。
ルミレインと約束した時は正午。それまで、オレ達はお世話になった人たちへお別れとお礼の言葉をかけて回っていた。
「〝時計塔の街〟のギルドによろしく頼むよ、ウスアムのギルマスのエルムは有能だってさ」
「……あんたは相変わらずだな」
「ハッハッハ! 別に今生の別れではないんだ、しんみりするのは似合わない」
笑いながらオレ達の肩を叩くエルムさん。一方受付嬢のニーレちゃんは、ほんのり目元を潤ませていた。
「おや? 私と違ってニーレちゃんは泣き虫さんだねぇ?」
「ち、違うもん! もー、目にゴミが入っただけだもん!!」
そんな二人にお別れを告げ、オレ達は他にも様々な人たちへ会いに行く。
――みんないい人ばかりだ。できる事ならずっとここに暮らしたいくらいだが、カナンの〝夢〟を叶える為には仕方がない。
最近オレは、主様の為に存在しているという自覚がうっすら芽生えてきた。
……忠誠心ってやつだろうか?
いや、少し違うな。愛おしい? これも近いけど違う。うーん、言語化難しいっ!
ただ、オレはカナンがどんな事をしようと、味方であり続けるだろう。たとえ悪事を働こうと、人を殺めようとも。
どこへでも、我が愛しき主様の為に。
――――
一旦我が家へ帰ってくると、メルトさんはカナンにそれを手渡した。
アダマンタイトとやらを用いた〝魔剣〟。仄かに緋色を帯びる両刃の刀身と黒曜のような色合いの柄を分ける鍔は、中心に何やら穴が空いている。
「凄いわ……私の手に不思議なくらい馴染む」
「なんとかギリギリで剣だけは完成したよ」
「剣だけは? って事はまだ完成じゃないって事?」
カナンがそう聞くと、メルトさんはふふんと鼻を鳴らし胸を張って説明を始めようとした。
が――
コンコン
何だろう? 誰かが玄関の扉をノックしている。
「はいはーい! 今行きまーす!」
メルトさんは渋々剣の説明をやめ、客への応対へ向かう。
「カナちゃん良かったですね。凄く素敵で似合ってます!」
「ああ、なかなかイカしてるぜ」
「ふ、ふふっ! 二人とも褒めても何も出ないわよーっ?」
カナンが嬉しそうだと、オレまでなんだか嬉しくなる。
剣を持って色々な角度から見てみる。
刀身には、日本刀を思わせる刃文が刃との境目に浮かんでいる。
その模様は、いくつものハートが湧き出ているかのようだった。
「ホント綺麗な剣だな。……ん? どした主様」
「血の匂い……」
血? カナンが玄関の方向を見て、何やら不穏な顔をしている。
そもそもオレにはそんな匂いなんて感じられないけど。
「何か変です。お母さん遅いです……会話をしている声も聞こえないですし……」
「少し行ってみるか」
何かがおかしい。そう判断したオレ達は、そっと玄関へと向かう。
魔剣はまだ使わず次元収納にしまい、今までの剣を取り出して構えるカナン。
そして、オレ達は絶句した。
「お母さんっ!? お母さんしっかりしてっ!!!」
「なんで……」
――生臭い鉄の匂い。直視したくない現実。
メルトさんが、床に血を流して倒れていた。
「安心しなよ、殺してはいないからさ」
「っ誰だ!?」
背後から聞こえてきた飄々とした声の主は、ただ1ヶ所金色の瞳を除き、髪も含めて全身白装束の小さな少年だった。
……こいつどこかで見覚えがあるような?
「やあやあ御迎えに参りました、コルダータ様」
「だれ……? あなた誰なんですかっ!!?」
「はは、これはこれは失敬。俺はそこで棒立ちしている金髪の子のお友達さ」
カナンの友達……?
「アイツは主様とどんな――」
違和感。
「嘘……なんで……なんで……」
あのカナンが、何事にも強気に出るカナンが、ガタガタと全身を震わせて怯えていた。
この白髪のガキは一体……
《指定された対象を解析中……。一部情報の検索に失敗しました》
し、失敗!?
こんなの初めて聞いたぞ!?
「1年半ぶりくらいかな? まさか17番、君がコルダータと一緒に行動してるとは面白いね。じゃあ、お友達と一緒に帰ろうか、家出娘の17番ちゃん?」
「や……やだ……」
腰が抜けて、涙目で、カナンは近寄る少年を拒絶する。
明らかに友達なんかじゃねえよコイツ。
「主様に近づくな。帰れ」
「ん? なんだ魔人か。なかなか魔力は強そうだけど、キミはいらないな。そこを退けば見逃してあげるけど」
「断る。そっちが退け」
「そうか、死ね」
ガキィンっ!!!
金色の火花が飛び散る。
ヤツはいきなりオレに、どこからか取り出した金色の長剣で斬りかかってきた。
オレはそれを、瞬時に空間に形成した小さな氷の結界で弾いた。
火花が舞い散る中、オレはヤツへ掌で照準を合わせる――
「ハァ、無駄だよ。キミじゃ俺は倒せない」
「それはやってみなきゃわか――」
一瞬の事だった。
ヤツが、オレの背後に回り込んでいたのは。
来る、ヤツの攻撃が。
まだ間に合う、もう一度氷の結界を――
「はい終わり」
――キンッ
な、何が起こった? 何をされた? 変だな、体に力が入らない……あれ?
「お、お……おーちゃん……やだ……」
すると、突然カナンの視界に切り替わり、床に倒れるオレの肉体が黒い煙のように霧散する光景が見えた。
何が起こったのか気づいた時には、既に手遅れだった。
全ては刹那の出来事。
オレは負けたのだ。
念のため説明しておきます。
おーちゃんは本体であるカナンちゃんが無事なら、幼女フォームを再召喚してもらう事で蘇生が可能です。なので厳密には死んでません。




