第41話 一方あの頃
複数のパーティがまとまって、一つの班として行動を共に迷宮を進んでゆく。人数は50人ほど。
普通の迷宮ならばそれぞれで勝手に探索するものだが、今回は内部に出現する魔物が非常に強力なための措置らしい。
なんでも、表層の時点で既に4層並の魔物が生息しているとか。
そんな所にいる私も、しがない冒険者だ。これでも中堅のCランクで、外の街から迷宮攻略に参加するためやって来た。普段はパーティを作らず、個人で活動している。
「邪魔だおっさん!!」
そう怒鳴り散らしながらいきなり私を押し退けてきたこの少年は、ベルナというDランク冒険者だ。彼はガイズという伯爵のご子息で、腐った性根を叩き直す為に冒険者をやらされているとの事だ。
「チッ……どいつもこいつも俺様の足を引っ張りやがって……」
正直言って、私は彼の事が好きにはなれない。むしろ大半の人がそうだろう。
しかし、彼は貴族なのだ。装備を一通り親の金で取り揃え、他の街のギルドに権力で取り入ってDランクのライセンスを手に入れた。故にその戦闘力は一般人に毛が生えた程度。
だが、貴族に取り入りたい冒険者どもが彼を煽てるため、自分を強いと思いこんでいるらしい。
だからか、大して何もできない癖に成果ばかりは自分のものだと主張する。死ねばいいのに。
「オラ腰ぬけども! こんなとこで油売ってねえでさっさと行くぞ!!」
「えぇ、まだ休憩に入ったばかりじゃないか?!」
「あんな程度で疲れる訳ねーだろ!!」
そりゃお前は何もしてないからな!!
こっちは熊型ゴーレムと連続で戦ったりして疲弊してんだよ。初日から既に3人命を落としているし、そもそもお前はリーダーじゃない。
だが、相手は腐っても貴族。
機嫌を損ねれば後々何をされるかわからない。
どうにかこうにか煽てて機嫌をとりながら、私達はなんとか休息を取る事ができた。
魔物と戦うより、こいつを怒らせないようにする方が大変かもしれない。
*
「ゴブっ!」
列になって進む班の前方に、ゴブリンが一匹飛び出してきた。思わず班の冒険者全員が身構える。
「フン、ゴブリンごときで狼狽えやがって。腰ぬけの弱者どもは下がってろ! 俺様が本物の強者の力ってやつを見せてやる!!」
「待て! ゴブリンは――」
「うるせえ関係ねぇ! 弱者の言葉なんざ聞こえねえ!!」
な、なんという事だ。1人で奥に逃げて行くゴブリンを追いかけていってしまった。
彼が貴族でなければこのまま見殺しにする所だが、そうもいかない。
「彼は我々が連れ戻してきます。皆さんはここで待っていてください」
四人組のパーティが、そう名乗りをあげて進んでいった。
なぜゴブリンにここまで警戒するかというと、ゴブリンはそもそも自我の無い最下級の魔霊が人化受肉したものなのだ。そんな魔霊なんて、目に見えないだけで迷宮には溢れるほど漂っている。
《一匹見かけたら100匹はいると思え》
迷宮探査をする冒険者の間では常識である。
人化による受肉のプロセスは詳しく解明されていないものの、迷宮内のゴブリンは一度に数百匹発生する。
また、迷宮の権能とも連動しているのか、武器や衣服、そしてある程度の戦闘技能を持ったまま生まれてくる個体も多い。
そんなゴブリン100匹の中に温室育ちの生意気お坊ちゃんを放り込んでみろ、数秒で死んでしまうだろう。
腹は立つが、彼はどうにか生きて帰さなければならない。じゃないと最悪我々の首が飛ぶ事だって考えられるのだ。
――しばらくして、いくらか疲弊したベルナが1人だけで帰ってきた。腕から少量の出血が見られる。
「あの四人はどうした? まだ奥にいるのか?」
「あ゛? あの使えねー無能冒険者どもならゴブリンの餌食になったぜ。
チッ、てか来るのが遅せえんだよ。おかげで貴族の俺様が怪我をしちまったじゃねーか」
苛立ちながら私達を睨み付けるベルナ。
こいつには少しも良心というものが無いのか? 命と引き換えに助けてもらっておいて、感謝や謝罪の一言さえない。それどころか不平を漏らす始末。
「お、お前……助けてもらっておいて何だその言いようは……」
班のリーダー冒険者がわなわなと怒りを抑えながら言う。それをベルナは、へっと鼻で笑って飄々と言葉を返す。
「あー? そうか、仲間を助けるのは当たり前だもんな? 助ける事ができて良かったな? まあ俺様に怪我をさせたのは大幅減点だが」
ああ、こいつはダメだ。協調性が無いどころではない。人として、存在するだけで他人を不幸にする。いっそここで殺してしまおうかとさえ思う。
だが私にも良心というものがあるのだ。
「チッ。チッ。なんでこんなクソみてえな連中とつるまなきゃあけねーんだよ……この肉クソ不味いなぁ!!」
燻製肉を齧りながら大声で不満を言い放つベルナに対し、私を含め誰もが「こいつ死んでくれないかな」と思っている事だろう。
――そういえば、迷宮に入る少し前に話題になっていた子供の冒険者はどうしているのだろう。なんでも柄の悪いAランク冒険者を一方的に嬲り半殺しにしたとか。
Dランク以上に上がっていたら、この迷宮にも別の班として参加しているかもしれない。
どうかこのどうしようもないクズを、Aランク冒険者のように半殺しにしてほしいものだ。
――――
一方、それから数時間後。
やあ、おーちゃんだよ。
今ね、またコルダータちゃんがお風呂つきの拠点を作ってくれて、まさに入浴中♡
「じっとしててねー♡」
……はぁ、今日はいつもに増してカナンの密着度が高い。
後ろから半ば抱え込むようにされて、カナンに石鹸で全身をごしごしぬるぬる泡立てられている。ソーシャルディスタンスどころではない。
「あぅ……ひゃぁんっ!?」
「ふっふっふ……おーちゃんまたまた尻尾と羽が伸びてるわねー?」
し、尻尾の付け根をにぎにぎするにゃぁ!! やめ、気持ちよすぎて腰が抜けちゃ……あぅやめ、やめ……っあぁぅぅ……
「あぅぅぅ……ごめんなさい主様ぁ……勘弁してぇ……」
「だーめ♡ 今日はいっぱい可愛がっちゃうって決めてるの!」
「そ、そんなぁぅ……」
な、なんか涙出てきた……。
あう、体に力が入らない……カナンにされるがまま、湯船へ体を入れられて……
「おーちゃんの尻尾いただきです!」
「コルダータちゃんまでぇ……」
あぅ。
なんだろうこの……体の奥底からゾクゾクと何かが沸き上がっては弾けるような……快感?
「や……あ……あぅ……」
声……さえ出せないくらい……くそぅ、思考まで――
「……あれ? おーちゃん?」
「急に喋らなくなってどうしたのでしょう? 手足をピクピク痙攣させてますけど、これはもしかして……」
「うーん、ちょっと……かなりやり過ぎちゃったかしら? ごめんねおーちゃん」
「……いいえカナちゃん! これで良いんですよ! おーちゃんをこの快感の虜にしちゃえば、いずれは自分から求めて来るようになりますから!」
「な、なるほどコルちゃん最高に変態……いえ天才ね!」
「えっへっへ……おーちゃんをわたし達無しでは生きられない体にしちゃいましょう!」
「やぅぇ……ぁぅ……」
……こうしてオレは、弱点である尻尾の付け根を二人に長いこと攻め続けられる羽目となったのであった。壊れそう。
おーちゃん「ビクンビクン……」
おーちゃんはお尻が弱いんですねー(ゲス顔)
続きが読みたい、おーちゃんカワイイ、更新早くしろ、等と思っていただけたらブックマークや感想、星評価などよろしくお願いします。
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ごめんなさい、体調不良により執筆が思うように進まず予定通り更新できませんでした。熱中症って危険ですね。
次話は7日のお昼に更新します。




