第40話 魂食系女子
40話ですよ40話!
ぬるぬるとした粘液に包まれて、うねり脈打ち締め付ける壁に押し潰されそうになりながら、少しずつ暗くて暑い管の中をぬるぬる上ってゆく。
そして頭上から一条の光が射し込み――
「うえっ……けほっけほっ……!」
べちゃりと、オレは粘液ごとカナンの大きな手のひらの上に吐き出された。
「はー……はー……死ぬかと思った……」
「おっ……ぅえぇぇっ……!」
どちゃっ
直後、カナンはオレを持つ手とは反対側の手のひらで、同じように吐き出したコルダータちゃんを受け止めた。苦しそう。
「ハァ……ハァ……二人とも生きてるわよね……?」
「生きてるぜ……」
「な、なんとか……」
胃液まみれのオレとコルダータちゃんを交互に見て、カナンは安堵の表情を浮かべるのであった。
「いきなり口に放り込まれた時はマジで焦ったぞ。あのな、やるならせめてもっと説明してからにしてくれよ?」
カナンの肩に座って物申す。
オレとコルダータちゃんの体や衣服に染み付いた胃液や粘液を【清浄】で取り払い、それから何とか落ち着いた所だ。
「ごめんごめん、あの時はおーちゃんがあまりにも可愛いくてつい……」
ピンクの舌をぺろっと出して可愛い子ぶっても騙されんぞ。その舌で抵抗するオレを無理やり喉奥へ送り込んだ事、忘れてないからな。
「もういいじゃない、こうして何とか片付いたんだし? 結果オーライってやつよ」
「はぁ……まあ今更グチグチしてても仕方ないか。それより、見つける事ができたみたいだな、小槌」
カナンが片手に持つは、オレとコルダータちゃんをこんな姿にした元凶である〝小槌〟。
小さくできたなら、これで逆に元に戻す事はできないのだろうか。
「もう一回叩けばいいのかしら?」
「そ、それはダメですカナちゃん! もっと色々検証してからにしましょう!」
「よね。違ってたらぺちゃんこだもの」
そもそも元に戻れるのかどうかすら怪しいけどな。
色々と確かめるしかなさそうだ。
『説明しよう!!』
「うわびっくりした!?」
何かと思ったら、いきなり〝管理者〟の声が頭に響いてきた。さっきまで静かだったのに急になんだ。
『それは〝ウチデノコヅチ〟という【safe】相当の異質物じゃ! 一定以上の速度で叩いた物体の直径を、1/30の大きさに縮小させる効果があるのじゃーっ!』
『は、はあ。やっぱりこれ異質物なのか。
……ってそうだ、その縮小状態を解除したいんだが、知ってたらやり方教えてくれないか?』
嬉しそうに解説してくれてるんだから、何かしら知っているはず。
『妾は今しがたプリンを食べて機嫌が良いし、トクベツに教えてくれよう! よいか、柄の部分に触れるのじゃ! そうすれば元の大きさに戻れるぞ!』
柄、持ち手の事だな。
そんなんで戻れるなら縮み放題だな。2度とやんないけど、
「主様、なんか持ち手の部分に触れると戻れるらしいぞ」
「持ち手? なるほど、さっそくやってみましょう」
肩からオレを床に下ろし、丸太のような小槌を目の前に置く。
床に下ろされて改めて見ると、何もかもがでかい。カナンの足先ですらオレよりも大きいし。
あ、カナンのパンツ見えてる。今日は白か。
って違う違う。さっさとやるぞ。
「……んっ?」
丸太のように太い柄に手を触れてみる。
すると視界がぐにゃりと歪み、体から意識が引き剥がされそうにな感覚に陥り……
「おーちゃん起きてー?」
頬をぺちぺち叩かれて、気がついた。
覗きこむカナンの顔が視界を覆っている。
「あぅ……主様顔近い……」
「良かった、目覚めたわね? 気分はどう?」
「んん……悪くない」
一瞬まだ小さいままなのかと焦ったが、すぐに理解できた。
元に戻れたのだと。
「んぅ……カナちゃんが小さい……!?」
隣で寝ていたコルダータちゃんも目を覚ました。
オレと同じく、眠そうな以外は問題なさそうだ。
「元に戻れたみたいだな。もう2度と、飲み込まれる体験なんてしたくないぜ」
「わたしは意外と気持ち良かったので、またされたいです。うへへ……」
うーわぁ……ガチの変態だ。コルダータちゃんはどこか遠くを見つめ、蕩けるような表情をしている。
見た目はカワイイのに性癖は狂ってる幼女、それがコルダータちゃん。うん。
ぐうぅぅぅ~……
その時、何か低い音が響いた。音の出所は……カナンのお腹だ。
「はぁーあ、お腹空いたわーっ!」
さっきまでオレとコルダータちゃんが居た場所から、空腹を告げる音が聞こえてきた。
「そうだな。ここでひとまず休憩しようか」
「わたしもお腹ペコペコです」
だよな、オレもお腹空いた。もうゴブリンもいないみたいだし、ここいらでお昼ご飯食べて一息――
「……あっ!」
「どしたのおーちゃん?」
思わず声に出てしまい、カナンに心配される。
……忘れてた。カナンの体内に明光石置いてきちゃった事を。
「あ、いや何でもない。それより二人は何食べたい?」
「お肉!」
「わたしもお肉で!」
二人とも肉食系女子(物理)だな。
はいはいと、次元収納から望みのメニューを取り出して二人に渡す。
――オレ知らないもん。もし胃の中に忘れ物したって言ったら、「取ってきて」ってまた飲み込まれるかもしれん。
もう食べ物の気持ちは十分思い知ったので、知らぬ存ぜぬを突き通します。
「もぐもぐ。やっぱりお肉は美味しいねー」
熱々の骨付き肉を頬張って、満足気なカナン。
まぁ、多分明日には出てくるでしょ。うん、そうなったら怒られそうだな……
よし、任せたぞ明日のオレ!
*
迷宮内での昼下がり、食事と休憩を終えたオレ達は探索を再開していた。
「もぐもぐ……」
まーだ食べてるようちの主様。
と言っても、食べてるのはさっき虐殺したゴブリンとかの魂だけど。
……なんかさ、オレも見えるようになったんだよね、魂が。
半透明な丸い物体の集合体が、黒い鎖にぐるぐる巻きにされて空中にまとめられてるの。カナンいわく、これらが魂らしい。
そこから、背中から伸びる一本の鎖が魂を一つずつ取り出してはカナンの口へと運んでゆく。
胃の中で直接見たんだが、食べた魂は胃袋に入ってから十数秒もすりゃ水に浸したわたあめみたく、跡形もなく消化される。だから、一気食いでもしない限りはいくらでも入るらしい……。【魂喰】恐るべし。
「ところで二人ともー。さっき魔霊と戦ってた時、体内で私の魔石になるって言ってたけれど、あれって一体何をしてたの?」
「ん? ああ、それはオレが説明しとこう」
――まず、コルダータちゃんの地操作魔法。
これを使う時は、操作や変形させたい物体の中に、魔力の流れを神経や血管みたいに張り巡らせる必要がある。
基本的に地面以外を操作する事は難しく、生物はまず操れないらしい。が、魔力を流すことだけはできる。
これを応用して、カナンの胃壁から筋肉・皮下組織を通じ、そしてお腹に触れてる右手まで魔力の根を繋げた。
ここからがオレの役割だ。
繋がった魔力の根に、オレの能力の【魔性付与】を使って闇属性を付与する。
そうしてカナンの腕へ魔力を供給すれば、流れた闇の魔力を纏えるという訳である。
まさに合体技。今後も使う機会があるかもしれない。
「ふーん、確かに魔石みたいな事をしてたみたいね。……ほんとにそれだけ?」
「え?」
なぜか自らの右腕を見つめて首をかしげるカナン。
何か他に気になる事でもあったのだろうか。
「……何でもないわ。あの時、助けてくれてありがとね、二人とも」
「そうですか、カナちゃんを助けられて良かったです!」
ま、何があったとしてもカナンを助けられたんだ。それこそ結果オーライってやつだろう。
だが、いきなりオレを食った事はオーライじゃないからな。ずっと根に持ってやるぞ。
本人さえ知らないカナちゃんの正体やいかに。
次話はおーちゃん愛で愛でしちゃうかも。次話更新は4日夜を予定しています。
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