第34話 迷宮の管理者
誤字報告いつもありがとうございます。正直めちゃくちゃ助かってます。
今回の目的。
それは迷宮核を壊すこと。
迷宮奥にある核を壊さない限り、迷宮から魔力が外に溢れだして周辺の魔物が凶悪になっちゃうんだって。だから核は壊さないといけないの。
でもね、うちの主様はそんなの二の次みたいなの。
「じゅるり……どんな強い魔物がいるのか楽しみだわ」
よだれを拭ってそんな事を呟くカナン。つまりは強い魔物の魂を食べたいんだね。
ここは迷宮の中。
古代遺跡のような、青い石材でできた人工的な洞窟というか。
エルムさんが言うには、広い道を目指して行けばおのずと核まで辿り着けるという。
また、戻ってもこられるよう、壁に十字の傷をつける等目印をつけながらオレ達は進む。
「コクマー迷宮には熊っぽい魔物が出るって話だったわね」
「らしいな。遺跡に熊ってあんましイメージ合わないけど」
そんな話をしている中、ふと通路の角を曲がった時の事だった。
「わ、出ました!」
「ついにおでましね!!」
瑠璃のように青い体色をしたそれは、丸太よりも太い手足に無機質なツルツルのずんぐりとした体を持ち、二足歩行を行う熊……のような、ロボットのような……?
あ、これ、ゴーレムってやつじゃない?
コルダータちゃんが作ってたアレと同じ。
「ベーーアーー」
「うわっと!」
熊型ゴーレムは無機質でふざけた声を発しながら、オレをめがけて殴りかかってきた。
咄嗟にカナンがオレを引っ張ってくれたおかげで、ゴーレムのパンチはオレではなく虚空を掠めた。
「あ、ありがとう主様……」
「おーちゃんを殴ろうだなんてまったくひどいわ」
「ベーーアーー」
ギギギと体を軋ませ、ゴーレムはこちらへ向きを変えてくる。
力は強そうだけど、動きは遅いみたいだ。これならカナンの敵にはならないだろう。
「えいっ!」
剣も使わず、カナンとしては軽く小突いたつもりだったのだろう。しかし、その一撃でゴーレムの四肢と頭部はもげて弾け飛び、胴体には大きな風穴を開ける事となったのであった。
「え、全然手応え無いわ? しかも〝魂〟も食べれないしなんなのこれ!?」
「普通ゴーレムに魂は無いらしいですよ。心臓の魔石にプログラムされた行動をこなすだけです」
コルダータちゃんがそんな解説をしてくれた。人形たるゴーレムに魂は宿らない……のか。でも〝普通は〟って言ってたな。
「魔石……ってこれね」
「だな」
散らばる破片の中からスーパーボール大の青い水晶玉を拾い上げ、光を透かして眺める。
「おーちゃん収納お願い」
「了解」
オレは魔石を次元収納の中に格納する。ギルドにもって行けば、換金してもらえるからだ。
「……そういえばさ、迷宮には何かお宝みたいのがあるって言ってたよな」
「ん、ああそうね。私も詳しくは知らないけど、異質物ってのがあるらしいわ。コルちゃん知ってる?」
「ええ、知ってますよ。迷宮で出土する品の中でも特に希少で変わった代物らしいです。見つけて持ち帰ればお金持ちになれます」
へえ、お宝って聞くと胸がワクワクするのが男の性ってもんだ。ぜひぜひ見つけてみたいもんだ。
「なるほど。じゃあ、異質物は何をもって他の品よりもそんなに重宝されるんだ?」
「うーん、わたしもよく知らないんですけど――」
と、あらかじめ言った上で、コルダータちゃんは話を続けた。
「この世界の天敵である〝虹翼の使者〟への、ほぼ唯一の対抗手段らしいんです」
*
進んでも進んでも、同じような道ばかり。
ちらほら出てくる魔物らも、カナンのデコピンで消し飛ぶような雑魚ばかり。カナンの胃袋を満足させる程の魂も持っていない。
角を曲がれば何かあるかと期待しては、落胆するカナンの姿を何回見たことか。
「Sランク級の迷宮って何だったのよ~? 全然強い魔物がいないじゃない」
あれだけ楽しみにしていた迷宮へ来れたのに、既にカナンはだいぶ退屈しているようだった。
とはいえ、多分カナン以外が戦ったらかなり苦戦するような魔物が大半だろうな。
「まだまだ入り口ですし、奥に行けばきっと強い魔物がうじゃうじゃいますよ!」
「そうかなぁ、もう半日くらいは歩いてない? 私疲れてきちゃったわ」
「確かにな。そろそろオレもキツくなってきた」
時々休憩やコルダータちゃんの回復魔法をかけてもらったりしているが、オレ達はもう相当な距離を歩いてきた。おかげで体はまだまだ元気だけど、精神的には疲れてきている。
「なら、今日はここで一晩過ごします? 時計によるとまもなく夜になるみたいですし」
金ぴかの懐中時計を見てそう言うコルダータちゃん。
「そうするわ」
「賛成」
満場一致だな。
こうしてオレ達は、ここで一晩過ごすための簡易拠点を作る事になった。
「大体わたしに任せてください!」
「頼むわ」
コルダータちゃんは、壁に手を当て深く念じる。すると、コルダータちゃんの体内の魔力が手を通して、壁の中へ根のように広がっていった。
ここからがコルダータちゃんの本分……のはずだった。
「ガルルル……!」
全く、いつも良いところで邪魔者が現れる。
「あら? 見かけない熊の魔物ね」
「あー、わたしこのまま拠点を作っておきますので、二人は完成するまで魔物が近づかないよう守っといてください」
「了解だコルダータちゃん」
そうしてオレとカナンは突然の来訪者へ対峙する。
茶色く艶やかな良い毛並みの、大きな熊がこちらを睨んでいた。立ち上がったら体長3mはあるんじゃなかろうか。何より、額から伸びる一本の角が特徴的だ。
「ちょっとは楽しめるかしら?」
と、言うが早いか、カナンは熊の腹部を軽く蹴りあげていた。恐ろしく速い蹴り、オレじゃなきゃ見逃しちゃうね。
「ギャンッ!!」
「お、おおお!! 一撃で死なないなんてなんだか感動だわ!!!」
……オレ、必要なさそうだな。
耐えたとはいえ、ほぼ死にかけて地に伏せる熊の頭をカナンは嬉しそうに撫でた。
そして――
ミシミシ……ベキッ
「ガッ」
カナンは熊の首を、太ももでペンチのように挟んでへし折った。
鈍い音がして、熊はしばらく体をびくびく痙攣させると、動かなくなってしまった。
「もぐもぐ……今日いちで美味しいわね」
抵抗する魂を口内で玩び味わうカナン。それを横目に、オレは熊の死体を次元収納にしまいこむ。魔石とか毛皮とか、売ったら高いらしいし。
さて、そろそろ拠点は――
「グヴォォォォォォォォ!!!」
「んぐっ……なになに? もっと強い魔物かしら?」
今の熊に似た声だが、より強く凶悪な咆哮が通路の先から聞こえてくる。
連戦になりそうだな。
「主様、ここに来るのを待ってから戦ったらコルダータちゃんを巻き込む可能性がある。先にこちらから仕掛けた方が安全かも」
「確かにね。そうするわ」
「わたしは大丈夫なので、二人とも頑張ってください!」
コルダータちゃんも物分かりが良い。
オレとカナンは、声のした方向へ進んでゆく。コルダータちゃんなら最悪ゴーレムのユーナを召喚すれば逃げるくらいなんとかなるだろう。
「さて、ボスモンスターのおでましだな」
「とっても美味しそうね」
でっかいな。
炭のように黒い毛並みに額から一本角を伸ばし、今さっき倒した個体の倍以上の体格はある熊が、怒りの咆哮をあげながら通路を真っ直ぐ突っ込んでくる。
「グヴァアアッッ!!」
「もしかしてさっきのクマのお母さんかしら? うふふ、心配しなくてもお探しのお子さまと同じトコロへ送ってやるわ!」
お腹をさすりながらそんな事を呟くカナンが何より恐ろしい。もはや食べ物としてしか見てないじゃん。
「オレも手を出した方がいいか?」
「ううん、ひとまず私がやるから中で待ってて。状況次第で呼ぶから」
「おーけー」
するとオレの体は霞のように消え、その意識は五感を共有する形でカナンの肉体へ吸収される。
カナンがオレの実名である〝オウカ〟と呼べば、上位魔霊としてのオレが召喚される。
それまでは高みの見物と洒落こもうじゃないか。
「はあっ!!」
『おっ、硬いな』
カナンの拳が熊の前足に炸裂するも、あまり効いているようには見えない。加減してるとはいえ耐えるとは、なかなか強い魔物である事が伺える。
「さて、少し本気をぶつけても良さそうね!!」
カナンの全身がゾクゾクと狂喜に震える。胸は高鳴り肌は粟立ち、とてもとても楽しそうだ。
『まぁ、主様だけでも倒せそうだな』
『本当にそうかの? このメガロベアーはAランクモンスターぞ? そう簡単に倒せるはずがなかろうて』
『だったらなおさら主様が喜ぶな』
『はっ、その娘は戦闘狂か。将来が楽しみじゃのう』
カナンはいつか最強になるからな。
こんな下奴に負ける事はあり得ないのだよ。
……ん???
今オレ誰と喋ってた? 聞きなれない女の子の声がしたような……
『おお、唐突に思念で話しかけてすまぬな。妾はこのコクマー大迷宮の〝管理者〟もしておる存在じゃ。暇だしお主らに興味があってのう、こうして干渉してやっておるのじゃ』
『え? えぇ??』
ちょっと待って? 迷宮の……管理者……?
『嫌じゃ! 人の子など孕みとうない!!』って管理者ちゃんに言わせてみたい。




