第31話 心象顕現
なんか背景変わる必殺技いいよね~って思って構想してたら完全にjuのアレになってました。後悔はしてない。
ドーム状にオレ達を包む黒い結界内で、漆黒の骸骨の大群が顎をカタカタ鳴らし四方から押し寄せてくる。
全部で何千……いや、何万体いるのだろうか? もやはオレ達の力でどうにかできる量ではない。
だが、そんな絶望的な状況を叩き壊すようにそれはやって来た。
「君たちこんな所で何してるの?」
「え、ルミちゃん!?」
前開きのへそ出し赤いパーカーに黒いショートパンツ。背中に大剣を背負っただけの冒険者っぽくない服装をした彼女が、この黒い結界をどうやってか破って入ってきた。
「ルミレイン後ろ!」
「ん、大丈夫」
後ろから迫って来ているおよそ数十の骸骨。それをルミレインは、軽く一瞥しただけで消滅させた。
何を言っているのか解らねえと思うが、オレも何が起こったのかよくわかんねえ。
「さっさと片付けて甘いもの食べる。すぐ終わるからボクから離れないで」
「ちょっと待ってルミちゃん。その前に、リッチが使ってるこの結界が何なのかだけ教えてほしいわ。課外授業をしてほしいの」
「えー? これ別にいつもの特訓じゃないし、教えてやる義務は無い」
「なら……今度私が甘いお菓子を作ってあげるわ!」
カナンの手作り……だと?
そもそも料理作れるのか? というか、カナンが料理作れるかすら怪しいのに、お菓子という響きだけでルミレイン既によだれが口から溢れさせてるんだけど。どこまで甘い物好きなんだこの人は。
「ボ、ボクをお菓子で釣ろうたってそうは問屋が――」
「あ、そう。残念ねー、ルミちゃんはいらないらしいわ? スイーツパーティーは私達だけで楽しんじゃうわねー? クッキーにパンケーキ、それからタルトも良いわね」
「え、そ、そうですね! わたし達だけで堪能しましょう!」
「おお、そうだな……」
『口裏を合わせなさい』というカナンの無言の圧力に、オレとコルダータちゃんは素直に従った。
「……わ、分かったぁ! 教える! 課外授業でも何でもするから、ボクもスイーツパーティーに参加する!!」
きっとルミレインがこんなに必死に懇願する姿は相当レアだろう。
「契約成立ね♡」
リッチよりもはるかに強いであろう化け物を、こうも手篭めにしてしまうカナンが少し頼もしくも恐ろしく思えたのだった。
*
「〝術式〟は不定形な魔力を決まった形にして世界に顕現させるもの。魔力が力なら、術式はそれを用いた技や武器といった所。能力とはまた少し違うけど、ここまでは分かる?」
まあ、ここまでは数日間使ってきたから改めて説明されるまでもない。
カナンも魔法は使えないけど術式について勉強してた時期があったらしく、すんなり理解している。
オレ達が頷くと、ルミレインは近寄る骸骨を適当に薙ぎ払いながら更に話を続けた。
「術式は様々な形こそあれど、対象に向かって〝放つ〟もの。それが基礎的な扱い方。
でも、豊富な魔力を持ち、なおかつ熟練した者は〝放つ〟以外の形でも発動できる。それは――」
「もしかして、〝囲む〟……ですか?」
コルダータちゃんがぽつりと呟く。
その時、オレ達の周囲わずか2~3歩くらいの距離で、視界を覆い尽くす程の骸骨の大群が蟻のように溢れ出した。
「……コルダータに50ルミポイント」
「ん?」
「は?」
「え?」
ルミポイントって何だよ。真顔で変な設定持ち出してきたよこの人。
『オ゛オ゛オ゛オ゛!』
なんか微妙な空気になる中、ルミレインが軽く手をパンと叩くと、骸骨の大群はまるで見えない爆発に巻き込まれたかのように消し飛んだ。
「フン……〝閉じ込める〟が正解」
「あ、誤魔化したわ!」
「能力の権能を籠めた魔力で使用者を中心に辺りの空間ごと包み込み、外界から隔離する。それがこの〝心象顕現〟と呼ばれる結界だ。分かりやすく言うと、一帯を〝自分の世界〟に引きずり込む」
ルミポイントとやらはさておき、魔力で空間ごと隔離するとは、そんな事が可能なのだろうか。現にリッチが今出しているこれも外の様子は一切見えないし、確かに隔離されているのかもしれないと少し納得。
「心象顕現……をするとどうなるんだ?」
「使用者は、結界内部を文字通り支配できる。内部の状況を手のひらの上のように把握できて、しかも能力とそれを利用した術式が結界内ならどこでも発動できてしまう。つまり、逃げ場は無い」
「どこでもって、何処でも?」
「そう、どこでも。それに内部では能力を介さない魔法程度なら使用不可能になり、干渉力の低い能力も及びづらくなる。〝心象〟の使用者と敵との力量差にもよるが――」
ふと、骸骨の大群がまるで雨のように上空からばらばらと降ってきた。
本当に〝どこでも〟発動できるなら、オレ達にすぐ当たる形で出せばいいのに。それをしてこないのは多分、ルミレインが何かしてるおかげだろう。
「超必殺技みたいなもんだって事は分かった。じゃあ、今回みたいに閉じ込められた時の対処法を教えてくれ」
「ふむ。基本難しいが、使用者を倒すか外部への脱出……あるいは、魔力の枯渇や解除を待つか。心象顕現の維持にはかなりの魔力を消費するから、耐えきれば勝機はある。あとは――」
「あと?」
降ってくる骸骨の雨を見つめ、ルミレインはため息を吐き出しながら言った。
「目には目を、歯には歯を」
な、何かとてつもない事が起こる予感がする。
空へと伸ばすルミレインの右手を中心に熱く重みのある空気が渦巻き始め……
「心象顕現――
――〝気焔万丈〟」
世界が、空間が、ルミレインの魔力に書き替えられてゆく。
世界は赤よりも紅く緋色に染まり、リッチの漆黒を焼き尽くす。
「あっつ!?」
「何が起こってるのよ!?」
「これもルミさんが……?」
ごうごうと、世界が緋色の焔に揺れている。
煙も立たない、不思議な焔がこの空間をまるごと呑み込んでいた。
「〝心象顕現〟に〝心象顕現〟をぶつけて相殺する。これが一番確実」
幾千幾万もの漆黒の骸骨の軍勢は、ルミレインが心象を顕現した途端瞬時にじゅわっと焼き切れていった。
圧倒的じゃねえか、これのどこが相殺なんだ?
「凄い……おーちゃんも使えるかしら?」
「オレには……まだ無理だな」
「でも、キミの魔力量なら熟練すればいける。頑張って」
背中をぽんぽん叩かれた。できる実感はあまりないけど、カナンと最強になる為にはいずれ会得しなきゃな。
そんな事を考えていると、ふと少し遠くの方に何やら黒っぽいものが見えた。
目を凝らして見ると、あれは……左半身を失ってなおふらふら立ち続けるリッチの姿だった。
やっぱり、さっきのオレ達の攻撃でも生き延びていたらしい。
『我……が……主様の……仇を討たねば……』
リッチの声が聞こえてくる。死の淵で朦朧とした状態でなお、ずっと心象顕現をしてたらしい。
ルミレインが手をかざすと、リッチを囲むように、紅い何かが浮き上がった。
――あれは……剣?
宙に浮かぶ緋色の剣に、リッチの体はなす術もなくバラバラに切り刻まれた。
『が……魔王ティマイオス……を倒す……まで終わる訳には……』
「……あれ? キミもしかして……?」
どうしたのだろう、ルミレインはハッとした様子でリッチの元に近づき、心象顕現を解除した。
それから砂の上に転がる頭蓋骨を掴んで持ち上げる。
『あ、貴女様は……ああ、どうか我の最期の願いを……』
「そうか……そうか」
オレ達からは背中に隠れてよく見えなかったが、ルミレインはリッチと何か会話をしていたように見えた。
それから少ししてくしゃっと何かを潰すと、ルミレインはこちらを振り返った。
「これで問題は解決」
「あー! とどめは私が刺そうと思ってたのにー!」
不服なカナンの抗議を流し、ルミレインはさっさと村の方へ向かって行ってしまうのであった。
*
妙な刺青改め、呪詛魔法をかけられていた村人達を開放するため村へと戻ってきた。ルミレインいわく、オレ達にかけられた呪詛魔法とは異なり、即座に命を奪うものではなかったらしい。
「そういえば、ルミちゃん以外にもここへ来てる冒険者っていたはずよね?」
「ん。たしかザッコルっていう名前。あいつはリッチの心象結界を見た途端腰が抜けて真っ先にギルドに戻ってた。応援呼ぶそうだ」
ザッコルって森でアガスと共に会ったあいつだっけ。死にかけてた所をコルダータちゃんが癒してた金髪のイケメン。男としての意地は無いのかよ。
まあ、リッチ相手に逃げずに男気見せられても困るけど。
「ふーん」
「ここですね、この小屋に村人達を集めてました」
コルダータちゃんは、魔法で小屋の入り口を塞ぐ岩の塊を地面に沈みこませる。
「大丈夫そうだな、呪詛の痣も消えてるし」
中を覗くと、まだ村人達は目を覚ましていないようだ。
老若男女や子供にも呪詛をかけていたが、あの不死王は何がしたかったのだろうか。ルミレインなら何か知っていそうな気もするけれど、特に聞く気にはならなかった。
「さて、ギルドからの応援とやらが来たら私達の役目はひとまず終わりね」
「……約束、絶対に守ってもらう。絶対スイーツパーティーにボクも呼んでもらうから。絶対に」
そう、かなり強く念押ししてくるルミレイン。約束破ったら、オレ達の命は無いかもしれない。
「……もちろんよ、迷宮攻略が終わったら必ず呼ぶわ」
そう言うカナンだったが、なぜだかどこか不安そうに見える。……メシマズでない事を祈ろう。
メシマズじゃないといいね(フラグ)
そこ! 固○結界や領域○開のパクリなんて言わないの!!
2020.10/24 追記。名称を『術式解放』から『心象顕現』に変更しました。術式だけでも解放をしている訳でもないので。




