第241話 絶対矛盾
お、お久しぶりです……
ポケモンZAやってました……
絶対切断――。
硬度や結界など関係なく、絶対に世界もろとも断つ力。
絶対防御――。
空間の連続性を遮断し、あらゆる干渉を絶対に到達させない力。
まさに矛盾とも言えるべき2つの力が、海上でぶつかり合っていた。
『ディィィィオオォォ!!!』
暴風大竜鱶が、世界を震わせ咆哮する。
相対するは、〝災厄〟カナン。
強度階域第8――災禍級。
大国を簡単に灰燼に帰せる程の強者――それはすなわち、大陸の何割かを物理的に消し飛ばせる程の力を持つ事を意味する。
カナンは、既に人類を滅亡させうる力を有しているのだ。
そしてそれは、相対するサメタツマキも同じである。
「何かしてくるわね」
暴風大竜鱶の口内に、絶大なエネルギーが収束してゆく。
魔法……ではない。
周囲の魔力を集め圧縮した、魔法よりも原始的な攻撃。
しかし、特級の暴風大竜鱶が使えば、それは人類の如何なる魔法をも上回る暴虐の嵐となる。
暴風大竜鱶は、それをカナンへ向けて解き放った。
白く眩く神々しいほどの光が、圧倒的な質量を伴って迫る。
その速度は音速の100倍以上。
当たれば塵すら残らぬ、万死の凶光。
それを――
「おーちゃん」
『あぁ』
カナンの影魔――オウカの拳が、真上へ撃ち上げた。
打ち上げられた凶光は、瞬く間に大気圏を抜けこの惑星の重力圏すらも引き剥がし、そして月面に直撃した。
これにより月面の20分の1の面積が消し飛び、混沌の女神の奉仕種族たちの住まう月の都が壊滅的な被害を被った。
『ディオォォォ!!』
トルネードシャークの放った凶光は今の1発だけではない。2発、3発、カナンとその影を消し去るために何度も放ったのだ。
その度に、オウカが、なんなら生身のカナンが上空へ蹴り上げ、そして何発かはまた月面に直撃した。
(――私にも絶対防御がある以上、向こうにとっても如何なる魔法も無意味。しかし燃費の悪さ故に結界を常時張り続ける訳にはいかない。
だから、速度に特化した魔弾で絶対防御の発動より先に私に当てようとしてる……って所かしら?)
「芸が無いわよっ!!」
カナンは凶光よりも速く剣を振るい、暴風大竜鱶を両断できるほど巨大な斬撃を飛ばした。
斬撃はトルネードシャークの絶対防御と鬩ぎ合い……否、少しずつ絶対防御を切り開いてゆき……
そして、斜め上空へと逸れるように弾かれた。
弾かれた斬撃はそのまま成層圏を抜け、遥か彼方の小惑星帯にまで到達。
小惑星や準惑星をいくつか真っ二つに破壊しながら掻き消えていった。
「遠くまで飛んだわねぇ」
暴風大竜鱶は青ざめた。
それと同時に脳裏に過る、この世界に顕現して以来唯一の敗北を――
――大海の女神を。
眼前の小さな怪物は――アレと同類の神格なのだと。
……それでもカナンはまだ、神格を有してはいない。
カナンの絶対切断は、出力を上げれば既に暴風大竜鱶の絶対防御を貫通可能である。
このまま今のと同じ攻撃を放ち続ければ、いずれは削りきれるだろう。
……しかし、だ。
「このままゴリ押すのはなんだか工夫が足りなくてつまらないわね……」
何より、下手に飛ばした斬撃を地面へ逸らされでもしたら、星が割れる危険性すらある。
「ふふ……コルちゃん、いいこと思い付いちゃった」
*
火砕竜の顕現に、暴風大竜鱶との衝突。
トゥーラムル王国、ネマルキス、その他周辺国。
それぞれの首脳陣や監視員たちは、リモートでコミュニケーションを取り合いながら特殊な魔道具で戦況を見守っていた。
「8域の魔物が2体……。火砕竜よりかは暴風大竜鱶に勝って欲しい所だが……」
暴風大竜鱶は本来温厚であり、縄張りを侵さない限りは安全なはずだった。
故に外敵たる火砕竜さえ排除できれば、無意味な破壊行為を行う事はない……はずだ。
だが様子を見るに、極度の興奮状態に陥っているように見える。火砕竜に勝てたとて、そのまま大人しく戻ってくれる保証はない。
そもそも、戦いの余波だけで小国程度なら軽く吹き飛んでしまうのだ。実際に国が一つ消えている。
魔道具で投影された映像を眺めながら、彼らは災害同士の応酬がこれ以上人類を巻き込まぬよう祈る他なかった。
2体の戦いは激化してゆく。
そしていよいよ、人類存亡が危ぶまれる規模の攻撃が放たれようとしたその時――
盤外より、『それ』は現れた。
「子供……?」
見惚れるほどに美しい金髪の少女が、宙に佇み2体の怪獣を睨んでいた。
2体の攻撃はいつの間にか掻き消えていた。
『影魔召喚』
少女は影を喚ぶ。
黒く神々しく畏ろしく、見る者を平伏させる暗黒の化身を。
「魔霊……悪魔公、か……? しかしなんという魔力量か……!」
とある国1番の魔導士は、その『影』に崇拝に似た畏怖の感情をを覚えた。
投影された映像の中で少女は笑う。
『少女』は、火砕竜から倒すつもりのようだ。
楽しそうに嬉しそうに、『少女』と『影』は火砕竜を攻撃する。
彼女のただの殴打が、数千メートルはある火砕竜の肉体に小さくないダメージを与えていく。
『影』の魔法が、灼熱の火砕竜を氷像へと変えて行く。
途中トルネードシャークの妨害に遭いもしたが、そのまま『少女』は火砕竜をいとも簡単に屠ってしまったのであった。
「な、なんだあれは……? まさか〝明星の勇者〟様、なのか?」
ある国の王族は、圧倒的な武力を持つあの少女の姿に旧き希望を抱いた。
火砕竜を屠った後に、少女はトルネードシャークすらも圧倒した。
放たれた魔弾を上空へ弾き、月面に直撃させた。
「彼女は……我らの味方なのか?」
映像を通して見ていた各国の全員が青ざめる。
「これほどの力を有していて、何故今まで表に出てきていなかったのだ……?」
「やはり明星の勇者様なのではないか?」
「伝承の姿とは少し異なるようにも思えるが……」
……。
『ねぇ、見てるんでしょ?』
その瞬間、全員の背筋が凍てついた。
『少女』の視線が、明らかにこちらを見ていたのだから。
『ふふふ……やぁねぇ覗き見なんて。趣味が悪いじゃない?』
「な、何者なのだ……」
『あら、私のこと知りたいのね』
「!!? きっ、聞こえ……?!」
あり得ない、と誰もが思った。
例えるなら、テレビを見ながら呟いた独り言が、画面の向こうの芸能人に伝わったかのようなものだ。
『今は機嫌がいいから、質問に答えたげる』
『少女』は『影』の掌の上に立ち、微笑みながらゆっくりと答えた。
『初めまして、皆さん。
私は新たなる魔王――
〝星影の魔王〟――
どうぞお見知りおきを――』
月『かなり恐怖を感じた』




