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第238話 火砕竜

 パチリ。

 壁際のスイッチを押すと、天井に吊り下げられたランタンの照明が灯る。


 電気(・・)による純粋な物理現象によって発せられた光は、書斎を白く明るく照らした。

 光は空間に舞い踊る無数の小さく糸埃の姿を暴いた。


「けほっ、どこにあるのかな……」


 少年は口元を押さえて軽く咳払いをした。

 古びた書斎はあまり手入れをされていないらしく、見ているだけでもくしゃみが出そうだ。


 長居はしたくない。けれども目的の物を見つけるのには少し時間がかかりそうだ。


 重い足を前へ動かし書斎へ踏み込んだその時、突然家全体をガタガタと揺れが襲った。

 窓は中から外から同時に叩かれているかのように暴れまわり、本棚や天井からぱらぱらと埃がこぼれ落ちた。


 少年は壁にもたれかかり、訝しげに辺りを見渡す。

 やがて揺れは十秒ほどすると収まった。


「また地震……最近多いなぁ」


 揺れが止まってからも少年は少し様子を見てから、ようやく動きだした。

 そして目的の本を探すために、本棚に並ぶ背表紙たちを舐めるように見て回る。



 これでもない、あれでもない。

 小一時間ほどして、少年は古びた1冊の本にたどり着いた。



 ――『竜国エルヴォニア建国史』



 これこそが少年の目当ての歴史書であった。

 彼はこの国――エルヴォニアの成り立ちとその歴史について調べ発表する……そんな宿題を学校から課されたのである。




 *



 竜国エルヴォニア――


 ニズヘルム大陸より南東沖500km沖に位置する島国である。


 島のあちこちに活火山が点在し、火山由来の資源はもちろん様々な魔法資源も採掘されている。

 また、火山灰の雑ざった土壌は通常農作には向かないが、この国の火山より降り注ぐ灰はむしろ作物の成長を活性化させる作用を持つ。


 肥えた民を見れば、いかにこの国が潤っているかが分かる通りだろう。


 また、地熱による『発電』を行うことで全てを魔力に頼らないインフラを実現した科学国家でもある。


 しかし、この国には伝説がある。


 嘗て――火の竜神がこの地で眠りにつくために、寝床として島を作り上げたのだと。


 もちろんこの伝説を本気で信じている者はいない。

 地質学的調査により、この島は大陸プレートと比較的小規模なプレートの境界に位置することがわかっている。


 プレート同士の活動による熱が岩盤を融かし、地上へ噴き出し島を形成しているだけに過ぎないのである。




 ――少年が亡き祖父の書斎から見つけ出してきた本にはそう書かれていた。


「竜神さまいないんだ……」


 国の成り立ちと近代に到るまでの経緯をあらかた読み終えると、少年は寂しそうに本を閉じた。


 それと同時の事だった。再び大地が大きく震えだしたのは。


「わ! また地震!? 今度は大きい……!!」


 まるで重力の有無を一秒間隔でオンとオフに切り替えているかのような、立っていられない激しい揺れが国を襲った。


 ギシギシと少年の住む家が悲鳴をあげる。

 しゃがんで柱にしがみつきやり過ごす……幸いにして少年の住む家が崩れることはなかった。


 1分ほどして揺れがようやく収まると、少年はすぐさま家を飛び出した。


「街が……」


 あちらこちらで屋根の瓦が地面に砕けて散乱し、中には赤い柱ごと折れて潰れた民家もある。


「お父さん、お母さん……大丈夫かな」


 少年は仕事へ行っている両親の顔を思い浮かべた。


 しかし……直後に再び街を巨大な揺れが襲った。


 しかも今度はただの揺れではない。


「な、なんだよあれ……」


 少年は見た。

『世界の終わり』を。


 いつも遠くに見えていた山脈たちのあった場所から、巨大な焔の塊と黒い雲が世界を埋め尽くさんという勢いでみるみる内に広がっていった。


 否、この程度ではまだ世界は終わらない。

 しかしその間近に居た者たちへ例外なく全員に、世界の終わりを想起させる光景がそこには広がっていた。




 ――竜国エルヴォニアの北東部には、つい先程までヴェルドーナ山脈があった(・・・)


 ここは数千年前にウルトラプリニー式噴火が発生し、それにより生じたカルデラの外縁部がヴェルドーナ山脈と呼ばれている。


 今回発生した噴火は数千年前のそれに匹敵し、溶岩や水蒸気など放出された物質の総噴出量は50km3 DREは下らないであろう。


 人々はただ呆然と見上げる他ない。

 当たれば即死の空から降り注ぐ大岩や火砕弾、火口から数十kmを丸ごと呑み込む火砕流。


 逃げ場などない。逃げてももはや間に合うはずがない。

 どう足掻いても、死しかないのだ。


 だが――災いとは、常に最悪の形で現れるのだ。


「おい! なんだあれ!!」


 誰かが山脈のあった方角を指差して叫んだ。


 そこには――煙でもない、炎でもない、山でもない……途方もなく大きな『何か』が蠢いていた。


 高さは山脈よりも高いだろうか?


 それは、誰の目に見ても『生物』に映ったのだ。




 ――――




 ヴェルドーナ山脈の中央、ヴェルディ湖を蒸発させた噴火の直後。

 爆炎と噴き出す溶岩のなかで『それ』は立ち上がった。


『それ』が大きく飛び出した顎を開けば、超高温の水蒸気が噴き出す。


 それの全身を覆う黒くゴツゴツの表皮は粗く削りだした岩盤のようだ。その表面を溶岩の川が毛細血管のように全身へ行き交っている。


 背には大きな『帆』が伸びており、その部分だけ見れば魚のようにも見えるだろう。


 そしてその山脈のごとき体躯は高さにして3000m。




『ごおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――』




 くぐもった風の音のような咆哮をあげ、『それ』は大噴火と共に三千年の休眠から目を覚ました。


『それ』が実在することは、これまで確認されていなかった。

 それはエルヴォニアの伝承から、もしもこれが実在していれば『特級』に値すると想定された空想上の存在。


 そして誰もがそれが本当に牙を剥くとは思ってもいなかった。




 ――想定特S級モンスター『火砕竜ヴォルギラド』


 黒死姫に続いて、ヴォルギラドは実在の観測された18体目の特級モンスターとなった。





 ヴォルギラドは三千年の眠りより目を覚まし、そして己の寝床の上に目障りなカビが生えている事に気づいた。


『ごおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――』


 ヴォルギラドは息を吸い込んだ。するとその全身が強く白く発光し、そして――








 エルヴォニアの首都は、瞬きする間に消滅していた。


 ヴォルギラドの吐き出した幅2km射程にして50kmの熱線は、摂氏10000度に達し射線上の全てを融解・蒸発させた。


 蒸発を免れた場所でもそのあまりにも莫大な熱によってあちこちで爆発が発生。


 破局噴火と火砕竜により、エルヴォニアはほんの数十分で滅亡したのであった。




 火砕竜ヴォルギラド――



 三千年ぶりの地上。

 闊歩するごとに、辺りの全てが白熱し融解してゆく。

 ヴォルギラドの肉体はただそこに在るだけで致命的な熱を放つのだ。


 そしてその灼熱の脳に、縄張りを広げようという本能が目的を与える。



 縄張りを広げるに当たり、ヴォルギラドにとって今1番の障害はただひとつ――


 自身に匹敵する『敵』の排除である。




『ごごぐごごぉぉぉぉぉ――――』



 再び。ヴォルギラドは大量の空気を取り込み、そして海上へ向けて国をも燒き尽くす『熱線』を放った。


 熱線の通った海上では瞬く間に海水が大規模な水蒸気爆発を引き起こした。射線上の生物はほぼ死滅。局所的な大量絶滅が発生した。


 攻撃開始から30分後――


 エルヴォニアから400km沖合を住処とする『敵』へ、火砕竜ヴォルギラドの攻撃が到達する。




『ディオオオォォォォォォォ!!!!!!!』



 音速で放たれた火砕竜ヴォルギラドの熱線が『暴風大竜鱶(トルネードシャーク)』を呑み込んだ。


 だがトルネードシャークには絶対防御(ハミッシャー)が備わっている。先制の不意打ちでもダメージはない。


 しかし、突然の攻撃は間違いなく敵対行動である。

 縄張りを侵さない限りは温厚なトルネードシャークといえど激怒した。


 そして縄張りを飛び出し、ヴォルギラドの居るエルヴォニアへと超音速で移動を開始したのだった。







怪獣大決戦


面白い、続きが気になると思っていただけたら星評価などで応援のほどよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
なんか かいじゅうだいせんそう が はじまった!?www
わーい、竜だー さてこの戦いはどうなっちゃうんですかねー(すっとぼけ)
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