第237話 恋する魔王たち
お久しぶりです。週1くらいで更新再開していけたらなと思います。
イセナ大結界内部で未知の爆発現象が発生した――
その情報は結界近隣の国家のみならず、大陸全土に知れ渡った。
数百年前に女神と女神が衝突し、現世に顕現した魔境。それを結界で閉じて外界から隔離したものが、イセナ大結界だ。
内部では単体で国家すら滅ぼせる怪物が当たり前のように闊歩し、独自の生態系が築かれている。
そんな魔境は数百年間、7体の頂点により奇跡的な均衡のもとある種の平穏が保たれてきた。
だが――その魔境の内部で何かが起こっている。
諸国はネマルキスへ結界への合同の調査隊を派遣、イルマセクはこれを快諾した。
――一方で、爆発現象の数日前、冒険者協会にある報告が入った。
魔王を自称する魔人と思われる存在が確認されたというのだ。
魔王を自称すること――それは女神に選定された魔王や勇者のみならず、全ての称号魔王に目をつけられることを意味する。
新たなる魔王が魔王に足る存在か、ただのウドか。
それを世界が知る日は近いだろう。
*
「ま、主様……美味しく召し上がれっ……だにゃん」
「ん~~~!!! 恥じらうおーちゃんもかわいい!!」
いつもの寮の一室で、オレたちはまたいつものごとくイチャイチャしていた。
仮にも魔王の主様は、可愛く着飾ったオレを見て鼻血を流している。
いつものゴスロリメイド服に、猫耳と猫の手を模したもっちりした手袋……ついでに尻尾の先っちょに大きなリボンを結んでにゃんにゃん言いながら主様を誘惑する……
誘惑じゃねえや、お菓子を作ったんだわ。
「主様、あーん♡」
「あーん♡」
ハート型のチョコを摘まんであんぐり開けられた主様の口へ運ぶ。
「ん~♪ 美味しい~!」
「えへへ~……♡」
美味しいって言われたら胸の奥がホカホカしてきた。
頑張って作ったんだよ、ハート型のチョコ。
そういえば日本にはバレンタインとかいうイベントがあったよなと思い出し、作ってみたのだ。
お客様からは大好評だ。大本命チョコだし食べたの主様だけだけどな!
「おーちゃん、私からもあげるっ!」
頬を苹果みたいに紅く染める主様から差し出された小さな紙袋を、両手で受け止める。中身はもちろんチョコレートだ。隣で一緒に作っていたのだ。
えへへ、主様の手作りチョコ……
前にお菓子作った時の主様のお料理の腕は壊滅的だったけど、一緒にやっている内に美味しいチョコを作れるようになった。
主様のラーニング能力は戦い以外にも活かされるのだ。
「もぐもぐ……」
「どうおーちゃん……?」
眉を八の字に曲げておろおろしている主様に、俺はチョコを飲み込んでから口を開く。
「とっても美味しい~!! ありがと主様!」
「おーちゃん……!」
ぱあっと主様の顔に満面の笑みが花開く。
あぁ、主様がかわいい……
主様の作ったチョコはとってもとっても甘くって、思わず頬が溶けてしまいそうなほどだった。
嬉しいなぁ……主様がオレのために頑張って作ってくれたっていう事実だけでとっても満たされる。
「おーちゃん♡」
ちょっぴり上目遣いでにんまり広角を上げながら迫り、主様はオレの背中に手を回した。
ふんわり主様のいい匂いがするなー、なんて思っていたらいつの間にかお姫様だっこされていた。
「ま、ましゅたぁ……?」
「ふふふ、どうしたの私のお姫様?」
オレを抱えながら微笑む主様の足は、案の定ベッドへと向かっていて……
「とうちゃーく♡」
「あぅ……」
そうしてベッドの上に降ろされたオレは、あうあうするしか無い。
「今日はどうしよっか? また主従逆転ごっこでもする?」
「ますたぁの望むままに、オレのこと好きにしていいよ……あぅぅ」
主様ってホントにそういう欲求が強い。ほぼ毎晩、長い時だと朝まで続く。
それも多分主様が『生きた肉体を持つアンデッド』だからなのだろう。
生の究極形は性なのだ。生を求めるアンデッドが生きた肉を喰らうように、本能がそうさせるのだ。
嫌じゃないよ? むしろ主様に喜んでもらえるなんて幸せに決まってるじゃないか。
それに、ただ貪るだけじゃなくて、そこには気遣いと優しさに溢れている。だから安心して身体を預けられるのだ。
「主様……美味しく召し上がってほしいにゃん……♡」
「えへっ、えへへへっ♡ いただきまーす♡」
猫耳メイド服のままベッドの上で寝そべってそんな風に誘惑してみたら、目の前の主様の頭の中からプツンと理性の糸が切れる音が聞こえた。
*
恋愛なんだろうな。オレたちの関係って。
それを否定する気はない。だが、それだけでもない。恋愛の定義がどうとか言われるとよくわからないけれど、たぶんオレたちの関係は他には存在しない唯一無二のものだ。
恋愛でもあって、別の関係性でもあって。
恋人であり主従であり姉妹であり親友であり捕食者と被食者であり相棒であり……
一面だけ切り取ってみれば恋人なのだろう。
この行為だって、本来的な意味なら恋人同士ですることだし。でもオレたちにとっては違う意味もあるように思える。
これを言語化するとしたら……『もう互いを失わないよう心と身体の形を確かめ刻み合う』だろうか。
なんでそんな風に思ってるのかはわからない。
ただ性愛や恋愛に留まらない意味があるのは確かなのだ。
『恋人』から『伴侶』になることはあるだろう。だが根本的な関係や意味は変わらない。
そしてそこに名前もいらない。オレたちの関係を表す言葉もないだろう。
それでいいのだ。
ずっとこのままでいられたら。
好きな人と隣で一緒にいられたら。
――いつかオレがいなくなっても。忘れないでいてくれれば、それでいい。
どうしてそんな事を考えたのか、オレにはよくわからなかった。
影魔ちゃんともう一作品がアニセカ小説大賞一次選考通過しておりました。ワンチャンアニメ化するかもしれませんね。
そういえば星評価の仕様が変わったようですね。
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