第230話 七王をゲットしたい
「ますっ、ましゅたぁ……」
「あぁ~、おーちゃん可愛い……」
尻尾の付け根をにぎにぎされ、オレは動けなくなっていた。
抱かれている訳じゃない、ただのスキンシップ。けれど尻尾の付け根は弱いんだよぅ……
「うふふふふふ……。何ヵ所に『扉』を設置したし、これから動きやすくなるわね」
「んうぅ、あうぅ。そうだなぁ、その内の何ヵ所かは、建物で囲ってもいいかも……んにゃっ?!」
「えいっ」
にぎにぎする手が力強くオレの尻尾をこりっと締め上げた。その感触に耐えられず、変な声が出てしまう。
「お屋敷みたいにしようかしら? 隠れ家って感じで良さげよね」
『扉』はオレか主様の許可を得ていない者は通ることができない。
なのでただの出入口として配下やオレたちが使うこともできるが、それだけじゃもったいない。
何ヵ所かに『屋敷』でも建てて、そこに配下を住まわせることもアリだな。それぞれが拠点になるし、オレの空間転移は移動距離に応じて消費魔力が増えてしまう。
小回りは効かないが、コスパはこっち方がはるかに勝る。
狭間の城と『扉』で繋げてしまえばオレや主様はもちろん仲間たちも簡単に移動できるしな。
さて、そんな仲間だが……
「シオちゃーん! メイドちゃんたちはどうかしら?」
狭間の城に顔を出してみると、場内の会議室にて複数の幼女(+少女)に文字を教えているシオノネちゃんの姿があった。
「あらカナンちゃん! 順調ですわ、この子たちとっても物覚えが良いですの!」
「あ、おじょうさまだー!」
「おじょーさま!」
「ひめさまもいるー!!」
おおう……。ドレナスさん同様に赤い髪に竜の角や尻尾のある幼女たちがオレと主様へと駆け寄ってくる。
最初はカタコトも喋れなかったワイバーン娘たちだが、今や流暢に喋れるようになっている。まだシオノネちゃんとコルダータちゃんにお願いしてから2日くらいなはずなんだけどな。
「「おじょうさま~!」」
……〝お嬢様〟というのは、主様のことだ。魔王様と呼ばれるのはなんか嫌……らしい。
ちなみにオレは『姫様』だ。
……あうぅ、なんか恥ずかしいんだけど……。
「ふふふっ……」
オレが赤面している様子を見て、主様はくすりと口元を隠す。
今後配下っていうか仲間が増えたら、彼らからも『姫様』って呼ばれるんだよね……?
「嫌かしら、私のお姫様?」
「嫌じゃないよぉ……あうぅ……」
「ふふっ……」
嫌じゃないけど、すっごくむずむずするんだよ……。うぅ、今夜も主様においしく頂かれちゃいそうだ。
……こほん。んっんー、うぇっほえほげほげほ。
そんなことはさておいて、メイド見習いちゃんたちは総勢で20人だ。
その内中学生くらいの見た目の4人が赤鱗竜で、残り16人の幼女は最上階飛竜である。
レッドドラゴンの子たちは他よりも見た目通り知能に勝るらしく、既にうっすら纏め役になりつつある。
「お嬢様だぁ~!」
「姫様~! おなかすいたー!!」
「ごはんたべたいおじょうさまー!」
「ごはん?」
「「「ごはん!!!!」」」
……心なしかレッドドラゴンちゃんたちは漢字を交えて喋ってる気がするしな。それはそれとして「ごはん」と聞くとまだまだ興奮しちゃったりするあたり、要教育だ。
「こらこら、ごはんはついさっき食べただろ~?」
「そぉだっけえ?」「そんな気がするー!」
「ひめさまがいうならそーなんだ!」「おなかすいてない!!!」
うん、聞き分けのいい子たちだ。
……人化させててもめちゃくちゃ喰うんだよなぁこの子たち。そろそろ『畑』の様子でも見に行こうかな。
ちなみにだが、この子たちはこれでもドレナスさんの指揮下にある。まあまず無いと思うが、戦争だとか他所と争うことがあったらドレナスさん指揮のもと出撃することになると思う。
単体で小国を滅ぼしうる第6域が16体に大国すら滅亡しうる第7域が4体……加えて第8域に片足を突っ込んでいるドレナスさんもいる。おまけで同格のドルーアンちゃんもだ。
地獄のメイド軍団……過剰戦力過ぎるな。
*
スカウトしたいんだよな。
国を興す訳じゃないにしろ、有能な人材は欲しい。
現状、メイドやシオノネちゃんたちの食料はコルダータちゃんが賄っている状態だ。
城の横のスペースに大量の土を投入、慣らして平らにした所へ野菜や麦の種を蒔いてコルダータちゃんの治癒魔法の応用で一気に成長させて収穫している現状だ。ちなみに収穫はユーナのようなコルダータちゃん謹製ゴーレムにやらせている。
これでも別にいいのだが、コルダータちゃんの魔法で無理やり成長させた作物は少し味が落ちる。
それに農家さんたちが汗水かけて育てているものよりこっちに慣れるのは、なんか嫌なんだよな。非常食としてはアリだけど。
なので! どうせなら! 自分たちでめちゃくちゃ美味しい作物を作りたい!!
ついでにそれで外貨も得られるといいな。
そんなこんなで、農業に適した人材……意志疎通をとれるなら魔物でも可。が、欲しい。
「ふむ……ならば我が主よ、七王の〝樹霊女王〟が最適であると思うぞ」
「イツキの……? どんな能力を持つ子なのかしら?」
食料事情についてドレナスさんに相談してみると、そんな答えが返ってきた。
「うむ、イツキノミタマは樹に宿る精霊……コダマやドライアドと同質の存在でな。その更に上位の、肉体を持つ精神生命体と言ったところか。その名の通り、植物を自身の一部として司る能力を有しておる。あやつなら農作においても役に立つだろう」
なるほど、確かに農作向きな能力だ。
ただドレナスさん含め七王はみんなイルマさんへの強い恨みがある。その上、人間のルールなど知ったことない人外たちなのだ。
イツキさんも例外ではなく、迷宮を通じて結界外へ侵攻を企てているのだろう。
従えられるかは、主様次第……かな。
「ちなみに他の七王はどんなのがいるのかしら?」
「〝天竜王〟〝飛虎女王〟〝蟲女王〟、だな。どれもクセモノ揃い、従えるのは至難の業であろうよ。だが我が主ならば可能と信じておるぞ!」
聞いただけでヤバそうな連中揃いだ。そんなのが今もどこかで潜伏していると思うと、ワクワクしてきちゃうな。
人間社会に牙を剥く前に、ゲットだぜ!!!!!




